(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月28日03時00分
福島県相馬港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船観音丸 |
漁船大辰丸 |
総トン数 |
6.6トン |
2.6トン |
全長 |
18.60メートル |
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登録長 |
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8.16メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
110 |
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出力 |
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29キロワット |
3 事実の経過
観音丸は、FRP製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、めろうど底引き網漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成13年5月28日02時50分福島県相馬郡釣師浜漁港を出港し、相馬港沖合の漁場に向かった。
A受審人は、単独で船橋当直に当たり、航行中の動力船の灯火を表示し、02時54分相馬港沖防波堤北灯台(以下「沖防波堤灯台」という。)から285度(真方位、以下同じ。)2,900メートルの地点で、針路を090度に定め、機関を半速力前進にかけ、先行する僚船を追走しながら、12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
02時59分A受審人は、沖防波堤灯台から307度1,150メートルの地点に達したとき、正船首370メートルのところに、大辰丸の船尾灯及び赤色全周灯を視認することができ、ほぼ停止したまま前部甲板を照明して作業している様子から漁ろう中と認めうる状況であったが、航走中の船首浮上によって自船の船首方向に死角を生じていたうえ、漁場へ急いでいたため先行船や時計が気になり、船首を左右に振るなどの死角を補う見張りを行っていなかったので、大辰丸の灯火に気付かなかった。
A受審人は、その後も大辰丸の存在に気付かず、その進路を避けずに続航し、03時00分沖防波堤灯台から322度900メートルの地点において、観音丸の船首が、原針路、原速力のまま、大辰丸の右舷船尾に後方から16度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、大辰丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、刺し網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同日01時15分釣師浜漁港を出港し、同時30分ごろ前示衝突地点付近に至り、仕掛けておいた網の揚収作業に取りかかった。
B受審人は、両舷灯、船尾灯、赤色全周灯及び前部甲板照明灯2個を点灯し、機関を中立運転とし、電動揚網機を使用して仕掛けておいた3張りの刺し網を順次揚げていった。
02時59分B受審人は、106度に向首する状態で2張り目の網を巻き揚げていたとき、右舷船尾16度370メートルのところに、自船に向首したまま接近してくる観音丸のマスト灯及び両舷灯を視認できる状況であったが、他の船舶が漁ろう中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、観音丸の灯火に気付かなかった。
B受審人は、その後も観音丸の接近に気付かず、衝突を避けるための最善の協力動作をとることなく揚網作業を続け、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、観音丸は右舷船首部に破口を伴う損傷を生じ、大辰丸は船尾ブルワークの一部を脱落したほか同外板に損傷を生じ、B受審人が前額部挫創を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、福島県相馬港沖合において、航行中の観音丸が、見張り不十分で、漁ろう中の大辰丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大辰丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、相馬港沖合を漁場に向けて航行中、船首が浮上して船首方向に死角ができる場合、前路の船舶を見落とさないよう、船首を左右に振るなどの死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁場へ急ぐあまり先行船や時計ばかりを気にかけ、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漁ろう中の大辰丸に気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、自船の右舷船首部に破口を伴う損傷を生じ、大辰丸の船尾ブルワークの一部を脱落したほか同外板に損傷を生じ、B受審人に前額部挫創を負わせるに至った。
B受審人は、夜間、相馬港沖合において、刺し網の揚網作業を行う場合、衝突のおそれのある態勢で接近する船舶を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、他の船舶が漁ろう中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、観音丸の接近に気付かないまま衝突を避けるための最善の協力動作をとらずに同作業を続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じるに至った。