(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月6日15時42分
山形県酒田港港内
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第一海勇丸 |
プレジャーボートカイエンヌ |
総トン数 |
2.48トン |
|
全長 |
|
8.80メートル |
登録長 |
9.00メートル |
8.45メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
132キロワット |
5キロワット |
3 事実の経過
第一海勇丸(以下「海勇丸」という。)は、FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、刺網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.4メートルの喫水で、平成12年8月6日15時05分酒田港を発し、同港南南西方沖合漁場に向かった。
A受審人は、発航後操舵室左舷後部外側に立ち、左舷側の防波堤に沿って手動操舵で進行し、15時35分半酒田港南防波堤灯台から144度(真方位、以下同じ。)580メートルの地点で、左舷に見る防波堤屈曲部突端からできるだけ遠ざかって航行する針路とすることなく、針路を同突端に近寄る333度に定め、機関を半速力前進にかけて5.0ノットの対地速力で続航した。
15時39分半A受審人は酒田港南防波堤灯台から033度海110メートルの地点に達し、防波堤屈曲部突端を左舷側60メートルに見て並航したとき、針路を左舷前方に見る防波堤突端に更に近寄る295度に転じて進行した。
A受審人は、転針したときほぼ正船首670メートルに入航するカイエンヌが存在し、同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近することを認めることができる状況となったが、入航する船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付くことなく進行した。
A受審人は、カイエンヌと互いに左舷側を通過することができるよう針路を右に転じることなく同針路のまま進行し、15時41分少し過ぎ防波堤突端を左舷側20メートルほど離して通過し、15時42分少し前カイエンヌが右転を始めたことに気付かず、同42分わずか前漁場に向け左転を始めた。
A受審人は、左転を続け、15時42分酒田港南防波堤灯台から309度400メートルの地点において、海勇丸が285度に向首したとき、その船首部が、原速力のまま、カイエンヌの左舷船尾に後方から58度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、視界は良好であった。
また、カイエンヌは、1本マストスループ型FRP製ヨットで、B受審人が1人で乗り組み、帆走の目的で、船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同日11時30分酒田港を発し、同港西方沖合の帆走水域に機走で向かった。
B受審人は、12時00分港外に至って機走を終えた後、帆走を楽しみ、15時36分帆走を終え、機走で帰港することとし、同時37分酒田港南防波堤灯台から301度960メートルの地点を発進した。
発進するときB受審人は、酒田港南防波堤突端を右舷側20メートルほど離して通過するよう、針路を117度に定め、機関を全速力前進にかけ、3.8ノットの対地速力で、左舷後部のクォーターバースに前方を向いて立ち、ティラーを右手で操作しながら進行した。
15時39分B受審人は、酒田港南防波堤灯台から302度750メートルの地点に達したとき、右舷船首方の防波堤越しに海勇丸のマストを認めて北西方に進行しているのでそのまま前路を左方に替わっていくものと思い、その後同船の動静監視を十分に行わなかった。
15時39分半B受審人は、ほぼ船首方で海勇丸が針路を左に転じたので、同船と真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近することを認めることができる状況となったが、動静監視を行っていなかったのでこのことに気付かず、互いに左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく進行した。
B受審人は同針路のまま進行し、15時42分少し前海勇丸と80メートルに接近したとき、ティラーを一杯に引きつけ、右急回頭を始めたが、その直後海勇丸が左転したため、110度回頭して船首が227度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海勇丸は船首部に小凹損を、カイエンヌは左舷船尾部に亀裂を伴う凹損及びハンドレールに曲損を生じたが、のちそれぞれ修理された。
(原因)
本件衝突は、海勇丸が、山形県酒田港を出航中、左舷に見る防波堤突端からできるだけ遠ざかって航行しなかったばかりか、入航するカイエンヌとほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近することとなった際、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことによって発生したが、カイエンヌが、動静監視不十分で、針路を右に転じるのが遅れたことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、酒田港を出航する場合、左舷に見る防波堤突端からできるだけ遠ざかって航行したうえ、入航する船を見落とさないよう見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷に見る防波堤突端からできるだけ遠ざかって航行しなかったばかりか、入航する船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近するカイエンヌに気付かず、針路を右に転じることなく、左に転針して衝突を招き、海勇丸の右舷船首部に凹損を、カイエンヌの左舷船尾に亀裂を伴う凹損等を生じさせるに至った。
B受審人は、酒田港に入航中、防波堤越しに出航する海勇丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷を対して替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後海勇丸が左に転針したため同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことに気付くのが遅れ、針路を右に転じるのが遅れて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。