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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年長審第5号
件名

漁船衛広丸漁船大東丸衝突事件
二審請求者〔理事官尾崎安則〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月30日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、半間俊士、道前洋志)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:衛広丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:大東丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
衛広丸・・・左舷中央部が破損し、のち廃船、船長と甲板員が骨折等
大東丸・・・左舷前部外板を損傷

原因
大東丸・・・見張り不十分、安全な速力、狭い水道の航法(右側通行)不遵守(主因)
衛広丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、大東丸が、安全な速力とすることなく、航路筋の右側端に寄せないで航行し、衝突の危険を生じさせたばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、衛広丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年2月13日05時45分
 長崎県島原港

2 船舶の要目
船種船名 漁船衛広丸 漁船大東丸
総トン数 4.91トン 4.0トン
登録長 12.25メートル 12.48メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 70

3 事実の経過
 衛広丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、前日投入した刺網を揚げる目的で、船首0.35メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、舷灯と室内灯を点灯し、平成13年2月13日05時43分長崎県島原港船津新地の船だまりを発し、同港沖合の漁場に向かった。
 島原地区の漁船の多くは、マスト灯及び船尾灯の設備がなく、両色灯と操舵室の室内灯を点灯して航行しており、衛広丸及び大東丸もマスト灯と船尾灯の設備がなかった。
 ところで、島原港は、前面が龍宮島など散在する島嶼(とうしょ)、浅瀬、防波堤によって囲まれた全体が狭い水路の形状をなした港で、北方水域を入出航する船舶は内港防波堤(D)及び同(B)と霊南岸壁とに挟まれた水路を航路として利用していたが、この水路は、狭いところでは60メートルばかりの可航幅しかなく、内港防波堤(B)の西側先端付近には実験用のいけす1基が設置され、その南西方約20メートルから港奥にかけて何隻もの廃船が係留されており、霊南岸壁には水銀灯が設置され、それらを肉眼で視認できる状況にあったものの、同航路筋では安全な速力と右側航行が遵守されるべき状況にあった。
 A受審人は、後進で離岸したのち05時44分機関を7.5ノットの微速力前進にかけ、入航船の状況が早期に確認できるよう、船首を霊南岸壁の水銀灯に向く北北東方に向け北上し、同時44分半少し過ぎ右舷船首2点200メートルばかりに入航中の大東丸の紅灯を視認したことから、同船と左舷を対して航過することとし、航路筋の右側端に寄せ、同時45分少し前島原灯台から225度(真方位、以下同じ。)410メートルのところで左転して063度としたとき、船首少し左舷寄りとなった大東丸が紅灯を見せていたものの自船にほぼ向首し、なお船首が振れ衝突の危険のある態勢であったが、直ちに右転して前示いけすの南面に向けるなど衝突を避けるための措置をとることなく、どうにか左舷を対して航過できるものと思い、いけすとの距離を確認して再度、大東丸を見たとき、その船首が自船に向いたのを認めたが、どうすることもできず、05時45分島原灯台から225度375メートルの地点において、大東丸の船首が衛広丸の左舷中央部に前方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、大東丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、船首0.50メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、同日04時05分島原港を発し、同港北東方の漁場に至り、前日投入した刺網を揚収したのち、舷灯と室内灯を点灯し、05時30分島原灯台から035度2.5海里の漁場を発進し、漁獲物の水揚げのため、同港魚市場に向かった。
 B受審人は、漁場を発進するに当たり、針路を230度に定め、機関を20ノットの全速力前進にかけ、手動操舵で進行し、05時44分半島原灯台から194度220メートルの地点で機関を15.0ノットの半速力前進に減じたものの、安全な速力にすることなく、霊南防波堤(D)先端を右舷10メートルばかりに見て針路を航路筋の右側端に付く283度とした。
 05時44分半少し過ぎB受審人は、左舷船首3点200メートルばかりのところに衛広丸が出航中であったが、見張りを十分に行うことなく、陸上の灯火に気を奪われていたので、同船に気付かず、前路に他船はいないものと思い徐々に左転して魚市場に向く針路とし、航路筋の右側端を航行することなく、船首を少し振りながら航路筋を斜航し、衛広丸と衝突の危険を生じさせたものの、衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
 B受審人は、05時45分直前衛広丸と15メートルばかりに接近したとき同船を初めて視認したが、その急接近に驚き、右に舵をとることができず、223度に向首して前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、衛広丸は、左舷中央部が破損し、廃船とされ、大東丸は、左舷前部外板に損傷を生じたが、のち、修理された。
 衛広丸は、A受審人が衝突の衝撃で海中に転落し、操船者不在のまま航走してその後岸壁に幾度か衝突し、船首部を圧壊し、A受審人が左腓骨骨幹部を骨折するなどし、甲板員が右大腿骨大転子部の剥離骨折等を負った。

(原因)
 本件衝突は、未明、長崎県島原港において、大東丸が、安全な速力とすることなく、航路筋の右側端に寄せないで斜行して衝突の危険を生じさせたばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、衛広丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、未明、入出航漁船が多い島原港に入航する場合、衛広丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、陸上の灯火に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衛広丸に気付かず、同船との衝突を招き、大東丸の左舷前部外板に損傷を生じさせ、衛広丸の左舷中央部を破損させるとともにA受審人及び衛広丸甲板員に右大腿骨の骨折等を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、未明、島原港を航路筋の右側端に沿って出航中、入航中の大東丸が自船にほぼ向首する態勢であるのを認めた場合、できるだけ右側に寄せるなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、どうにか左舷を対して航過できるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、大東丸との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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