日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年長審第17号
件名

漁船寿丸漁船第五玉栄丸衝突事件(簡易)
二審請求者〔理事官向山裕則〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月22日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五玉栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
寿 丸・・・左舷船首に破口
玉栄丸・・・右舷中央部を大破、甲板員が右大腿部打撲等

原因
寿 丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、寿丸が、見張り不十分で、錨泊中の第五玉栄丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月25日06時20分
 橘湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船寿丸 漁船第五玉栄丸
総トン数 3.5トン 2.83トン
登録長 10.36メートル 8.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 35

3 事実の経過
 寿丸は、船体のほぼ中央部に操舵室を備えたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、一本釣りの目的で、船首0.35メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、所定の航海灯を点灯し、平成13年11月25日06時16分長崎県網場漁港を発し、野母半島南東方の漁場に向かった。
 A受審人は、港内を微速力前進で航行し、06時18分半牧島島頂(99メートル)から265度(真方位、以下同じ。)1,900メートルの地点に達したとき、針路を152度に定め、機関を航海速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 ところで、網場湾においては、長崎市が海域高度利用システム導入事業を推進しており、その一環として保護育成礁、誘導礁、滞留礁などとともにブロックや浮体による消波堤を設置していた。
 A受審人は、定針したとき船首方に4、5隻のたち魚釣り漁船が散在しているのを認め、これらの漁船を左舷に見て避けることとし30度ばかり右転して南下し、06時19分海岸から100メートルばかりの牧島島頂から254度1,870メートルの地点において元の針路に戻したとき、正船首620メートルのところで傘付きの作業灯で甲板上を照らしている錨泊中の第五玉栄丸(以下「玉栄丸」という。)に向首する態勢となった。
 06時19分半A受審人は、玉栄丸に300メートルばかりに接近したとき、同船の作業灯の光芒(ぼう)を視認できる状況にあったが、前路の見張りを十分に行うことなく、たまたま、海岸寄りに設けられたブロック消波堤の点滅式標識灯に船首が向いており、その左舷方200メートルばかりの浮消波堤との間を航過することとしていたことから、左舷船首10度ばかりにある浮消波堤西端の赤灯に注意をしていたり、避航した左舷方の漁船が引く釣り糸を気にしていたので、玉栄丸に気付かず、同船を避けることなく続航し、同時20分直前玉栄丸の船体を認めたが、何らの措置もとることができず、06時20分牧島島頂から235度1,850メートルの地点において、寿丸の船首が玉栄丸の右舷中央部にほぼ直角の角度で衝突し、玉栄丸を乗り切ったが、同船のロープを推進器に巻いて停船した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、日出時刻は06時59分であった。
 また、玉栄丸は、船体後部に操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、あじ一本釣りの目的で、船首0.40メートル船尾1.15メートルの喫水をもって、同日06時00分長崎県網場漁港を発し、網場湾の釣場に向かった。
 06時10分B受審人は、牧島島頂の西方1海里ばかりの地点に達し、通常、他の漁船が航行するところから少し海岸に寄せた地点を選定し、最初に船尾から次いで前進して船首から錨2個を投入し、船首を242度に向けて前示衝突地点において船体を固定し、その後機関を停止し、航海灯を消灯したものの錨泊中を表示する正規の灯火は点灯せず、船体中央部の甲板上1.8メートルばかりにある傘の中に隠れた40ワットの電球を点灯し、甲板上を照らして一本釣りの準備にかかった。
 06時19分B受審人は、右舷正横620メートルのところに寿丸が自船に向首し、その後自船を避けることなく接近していたが、釣りの準備をしていたので、このことに気付かず、撒き餌(まきえ)を終わり、同時20分少し前操舵室の前部左舷側で船首に向かって腰をかけ、釣り糸を入れながらふと右舷方を見たとき、至近に迫った寿丸を視認したが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、寿丸は、左舷船首に破口、推進器に曲損を生じ、玉栄丸は、右舷中央部を大破し、玉栄丸甲板員が右大腿部打撲等を負い、20日間の入院加療を要した。

(原因)
 本件衝突は、未明、長崎県網場湾において、寿丸が、見張り不十分で、前路で錨泊して一本釣り中の玉栄丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、未明、一本釣り漁船が散在する網場湾を航行する場合、前路で錨泊して一本釣り中の玉栄丸を見落とさないよう、十分な見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、玉栄丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、寿丸の左舷船首に破口などを生じさせ、玉栄丸の右舷中央部を大破させたほか、玉栄丸乗組員に右大腿部打撲等を負わせるに至った。


参考図
(拡大画面:22KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION