日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年門審第73号
件名

漁船第十八太幸丸貨物船エバー ユニーク衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年、西村敏和、米原健一)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第十八太幸丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第十八太幸丸甲板員

損害
太幸丸・・・左舷船首部を圧壊
エ 号・・・右舷側船尾外板に擦過傷

原因
エ 号・・・動静監視不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
太幸丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十八太幸丸を追い越すエバー ユニークが、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、第十八太幸丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月8日17時35分
 大隅海峡南西部

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八太幸丸 貨物船エバーユニーク
総トン数 69.69トン 69,218.00トン
全長 33.97メートル 285.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 433キロワット 48,631キロワット

3 事実の経過
 第十八太幸丸(以下「太幸丸」という。)は、船体中央部やや後方に操舵室を設けたかつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、海洋水産資源開発センターに用船され、A受審人及びB指定海難関係人ほか12人が乗り組み、同センターの調査員1人を乗せ、船首1.8メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、設置していたパヤオと呼称する浮魚礁の集魚効果を調査する目的で、平成12年11月7日21時30分宮崎県外浦漁港を発し、翌8日早朝鹿児島県山川港に立ち寄り、残倉のかつお5トンを水揚げしたのち、同日06時50分同港から、同県国分市敷根の沖合にある餌場(えさば)に回航して生餌(いきえ)のいわし約700キログラムを積み込み、11時00分同餌場を発進し、奄美大島南東方沖合の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、航海中の船橋当直を自らと航海当直部員の認定を受けた甲板員6人及び通信士1人による、単独の2時間交替制とし、自分の当直時間外でも、ベッドで休息するときや食事をとるとき以外は在橋するようにしていた。
 A受審人は、発進時の操船を終えたのちも在橋して、操船指揮に当たり、16時00分ごろ佐多岬の南西方3.9海里の地点に達し、大隅海峡に差しかかったころ、立直していた甲板員Cに船橋当直を任せて休息をとることにしたが、見張りについては各当直者が十分認識しているものと思い、同甲板員に対して周囲の見張りを十分に行うよう、及びそれを次直者に申し送るよう指示することなく、船橋後部のベッドに退いて休息した。
 単独の船橋当直に就いたC甲板員は、16時52分少し過ぎ鹿児島県竹島の長埼北東端から077度(真方位、以下同じ。)4.8海里の地点で、針路を203度に定め、機関を引き続き全速力前進に掛け、10.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 B指定海難関係人は、16時55分ごろ昇橋し、航行中の動力船の灯火が表示されていることを確認したのち、17時00分長埼北東端の東方4.2海里ばかりの地点で、C甲板員と交替して船橋当直に就き、同じ針路、速力で自動操舵によって続航した。
 17時28分少し前B指定海難関係人は、薩摩硫黄島灯台(以下「硫黄島灯台」という。)から105度11.5海里の地点に達したとき、左舷正横後28度2.0海里のところに、エバー ユニーク(以下「エ号」という。)の白、白、緑3灯を視認できる状況となり、その後同船が自船を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近したが、交替したとき周囲を一瞥して危険な状態となる他船を認めなかったことから、前方だけを見張っていれば大丈夫と思い、操舵スタンドと前面窓の間に立って前方のみの見張りを行い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船に対して警告信号を行わなかった。
 17時32分B指定海難関係人は、硫黄島灯台から109度11.4海里の地点に達したとき、エ号を同方位1,500メートルに認め得るようになり、同船が避航の様子を見せないまま更に接近していたが、依然、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の接近状況をA受審人に報告できなかった。
 太幸丸は、A受審人が同船の接近を知らず、エ号の動作のみでは衝突を避けることができない状況となったものの、速やかに右転するなど、衝突を避けるための協力動作がとられないまま進行中、17時35分わずか前B指定海難関係人が左舷前方至近に迫ったエ号を初めて認め、右舵一杯をとったが、効なく、17時35分硫黄島灯台から112度11.4海里の地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首がエ号の右舷側後部に、後方から36度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、視界は良く、潮候は下げ潮の初期で、日没は17時23分ごろであった。
 衝撃で衝突を知ったA受審人は、操舵室に駆けつけ、事後の措置に当たり、エ号が航行を続けるのを認め、海上保安部に連絡した。
 また、エ号は、船尾船橋型コンテナ船で、船長C、一等航海士D及び三等航海士Eほか台湾籍乗組員11人が乗り組み、コンテナ19,580.1トンを載せ、船首8.5メートル船尾9.5メートルの喫水をもって、同月8日01時00分大阪港を発し、台湾高尾港に向かった。
 C船長は、船橋当直を4時間交替の3直制とし、各当直を航海士と操舵手の2人に行わせ、自らは、出入航時のほか狭水道などの操船指揮に当たることとし、紀伊水道を南下したのち、大隅海峡に向け四国沖を西行した。
 D一等航海士は、大隅海峡東部に差しかかったころ昇橋し、16時00分喜志鹿埼の北北東12海里の地点に至り、前直の二等航海士と交替して船橋当直に就き、同時30分ごろ航行中の動力船の灯火を表示したのち、17時06分佐多岬灯台から174度11.2海里の地点で、針路を242度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、24.2ノットの速力で進行した。
 17時15分少し前D一等航海士は、右舷前方6.0海里に南下中の太幸丸をレーダー映像で探知し、そのころ食事交替のため昇橋したE三等航海士に当直を任せて、夕食をとるため降橋した。
 E三等航海士は、同じく食事交替のため昇橋した操舵手とともに船橋当直に就き、衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)を使用して太幸丸の映像を確認しながら、同じ針路、速力で自動操舵によって続航し、17時28分少し前硫黄島灯台から102度13.5海里の地点に達したとき、右舷船首23度2.0海里のところに、太幸丸の白1灯を視認し、同船を追い越す態勢であることを知った。
 その後、E三等航海士は、太幸丸の方位に明確な変化がなく、同船に衝突のおそれがある態勢で接近していたが、アルパに同船のベクトルが210度5ノットと表示されていたことから、速力が遅いのでその左側を替わせると思い、同船の動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けないで進行した。
 E三等航海士は、同じ針路、速力で続航中、17時34分半右舷前方至近に迫った太幸丸を認め、急ぎ操舵手に手動操舵に切り換えさせ、汽笛による短音2回を吹鳴して左舵5度を指示したが、エ号は、船首が239度を向いたとき、原速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、太幸丸は左舷船首部を圧壊し、エ号の右舷側船尾外板に擦過傷を生じ、のち太幸丸は修理された。
 エ号は、衝突後も全速力のまま西南西方に続航していたところ、19時50分口永良部島の西南西方30海里の地点で、海上保安庁のヘリコプターによって呼び止められ、23時12分奄美大島曽津高埼の南西方9海里の地点で、巡視艇と会合したのち、沖縄県名護湾で海上保安庁の取り調べを受け、太幸丸と衝突したことを認めた。

(原因)
 本件衝突は、日没後の薄明時、大隅海峡において、太幸丸を追い越すエ号が、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、太幸丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 太幸丸の運航が適切でなかったのは、船長が、甲板員に単独の船橋当直を行わせる際、同甲板員に対し、周囲の見張りを十分に行うよう及びそれを次直者に申し送りするよう指示しなかったことと、次直の甲板員が周囲の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、日没後の薄明時、大隅海峡を南下中、甲板員に単独の船橋当直を行わせる場合、海峡を横断していたから、接近する他船を見落とさないよう、同甲板員に対し、周囲の見張りを十分に行うよう及びそれを次直者に申し送りするよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、見張りについては各当直者が十分認識しているものと思い、同甲板員に対して周囲の見張りを十分に行うよう及びそれを次直者に申し送りするよう指示しなかった職務上の過失により、次直の甲板員が十分な見張りを行わないまま航行を続け、エ号との衝突を招き、太幸丸の左舷船首部を圧壊及びエ号の右舷側船尾外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、日没後の薄明時、大隅海峡を南下中、単独の船橋当直を行う際、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対して勧告しないが、見張りの重要性を再認識し、船橋当直中は常に周囲の見張りを十分に行うように努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:28KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION