(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月28日00時45分
愛媛県能登埼南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートワタナベ |
全長 |
6.74メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
29キロワット |
3 事実の経過
ワタナベは、船体後部に操舵スタンドを設けた、レーダー装備のないFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同人の兄1人を乗せ、いか釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成13年8月27日18時00分愛媛県北宇和郡津島町鵜ノ浜の係留地を発し、同時50分同県能登埼西方の黒島南東岸沖合に至って釣りを開始し、30キログラムの釣果を獲て、翌28日00時15分同釣場を発進して帰途に就いた。
ところで、能登埼からその南東方の瀬ノ下鼻にかけての入江には、はまちの養殖いけすが多数あり、これらを西寄りの波浪から保護する目的で、同いけすの西側近くでほぼ南北方向約500メートルにわたり、海底の錨に繋がれた長さ45メートル幅12メートル深さ7.2メートルの鋼製浮体物(以下「消波ブロック」という。)5基が、断続的に設置されていた。そして、最も北側の消波ブロック北端及び最も南側の消波ブロック南端には、それぞれ光達距離8キロメートル4秒1閃光の黄色標識灯(以下、北側の標識灯を「北端灯」及び南側のそれを「南端灯」という。)が1個ずつ設けられていた。
一方、A受審人は、瀬ノ下鼻南側の、東方に細長い形状の湾奥にあたる係留地を基地とし、夏場の釣りに度々出入航を繰り返して付近海域の水路事情に詳しく、前示の消波ブロックや標識灯の存在を承知しており、夜間、北方から入航する際、庄ノ島灯台や標識灯を目標とし、南端灯を船首左方に見て南下したのち、それを左舷側近距離に離して航過したら、左転して湾奥に向かうようにしていた。
釣場を発進したA受審人は、南下を始めて間もなく、舵輪から手を離して操舵スタンド前方に赴き、集魚灯用の発電機にカバーを被せるなどの後片付けを始め、00時28分能登埼灯台から289度(真方位、以下同じ)1,140メートルの地点で片付けを終えたとき、能登埼灯台が船首方近距離に見えたので、自船がかなり左偏したことを知ったものの、庄ノ島灯台をいつものように船首少し左に見るように針路を145度に定め、機関を半速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したころ、A受審人は、庄ノ島灯台あたりに点在するいか釣船の集魚灯に紛れていたものか、船首わずか右約2,000メートルの南端灯を見落としたまま、左舷船首10度1,800メートルばかりに北端灯である標識灯1灯を視認したが、一見し、いつも南端灯を船首左方に見るようにして航行していたのでこれを南端灯と思い、もう1つの標識灯を確かめるなどして船位の確認を十分に行わなかったので、転針の目安とする灯火を取り違えて南側消波ブロックに向首していることに気付かずに続航した。
00時40分A受審人は、能登埼灯台から196度870メートルの地点に達し、北端灯を左舷船首50度420メートルに見るようになったとき、南端灯を船首わずか右620メートルに認めることができ、南側消波ブロック南端部付近に、接近する状況であったものの依然として船位の確認を十分に行うことなく、このことに気付かないまま、養殖いけすを照らす瀬ノ下鼻の高台に設置された探照灯の明かりを眺めながら進行中、突然、衝撃を感じ、00時45分能登埼灯台から175度1,340メートルの地点において、ワタナベは、原針路、原速力のまま、その船首が、南側消波ブロック西面に45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期であった。
衝突の結果、ワタナベは、船首部に破口を生じ、水没して船外機を濡れ損したが、僚船により最寄りの港に引き付けられ、のち修理された。
(原因)
本件消波ブロック衝突は、夜間、愛媛県能登埼南方沖合の養殖いけすを保護する同ブロックに設けられた標識灯を目標にして入航するにあたり、船位の確認が不十分で、南側消波ブロックに向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、愛媛県能登埼西方沖合を南下して沖合に設置された養殖いけすを保護する消波ブロックに設けられた標識灯を目標にして入航するにあたり、標識灯1灯を視認した場合、同質の灯光を放つ標識灯が2つあったから、転針の目安とする灯火を取り違えて同ブロックに向けて接近することのないよう、もう1つの標識灯を確かめるなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一見しただけで北端灯を南端灯と思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、南側消波ブロックに向首進行して同ブロックとの衝突を招き、船首部に破口を生じさせ、浸水して船外機を濡れ損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。