(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月20日21時25分
瀬戸内海 宮ノ窪瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十文章丸 |
漁船第八住宝丸 |
総トン数 |
497トン |
199.95トン |
全長 |
67.20メートル |
43.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
第十文章丸(以下「文章丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか2人が乗り組み、銅鉱石約1,850トンを載せ、船首3.6メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成13年5月20日17時30分岡山県日比港を発し、山口県岩国港に向かった。
そして、A受審人は、船橋当直体制を同人、甲板員、B受審人及び機関長4人による単独2時間の輪番制とし、同日は自ら出港操船を行ったあと、引続き2時間の当直に就いた。
同日19時00分船橋当直中のA受審人は、佐柳島南方約1.0海里沖合の備讃瀬戸北航路西口付近で、昇橋してきた甲板員に、成規の灯火を表示していることを確認したうえで、宮ノ窪瀬戸に向かうよう指示して同当直を引き継いだ。その際、B受審人の当直中に宮ノ窪瀬戸を通航することが分かっていたが、同人が同瀬戸の通航に慣れているので操船を任せることとし、降橋した。
ところで、宮ノ窪瀬戸は、南岸を来島海峡に接している大島と、同島北方の伯方島間の狭い水道で、同瀬戸中央部に位置する鵜島によって南北にそれぞれ船折瀬戸と荒神瀬戸に分かれており、いずれも最小可航幅が100メートル程度で潮流が極めて強いものの、瀬戸内海を東西に航行する際は、来島海峡を経由するよりも航程が短縮される利点があることから、主に500トン未満の船舶が多数航行し、漁船等の往来もあって船舶交通の輻輳する海域であった。
21時18分B受審人は、伯方島松ケ鼻南東方250メートルの地点で当直のため昇橋したとき、A受審人に宮ノ窪瀬戸東口に差しかかっていることを報告せず、船首が西に向いた自船の左舷前方近距離のところに同瀬戸に向かって北上中の第八住宝丸(以下「住宝丸」という。)の船尾灯のほか右舷船首にも同航船を初認し、間もなく甲板員と交代し、成規の灯火を表示していることを確認して船橋当直に就いた。
21時19分少し過ぎB受審人は、舟折岩灯標から117度(真方位、以下同じ。)1,750メートルの地点に達したとき、針路を船折瀬戸に向かうため302度に定めたところ、左舷船首25度240メートルに住宝丸の船尾灯を認めるようになり、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)として手動操舵で進行した。
そして、B受審人は、その後自船が住宝丸を追い越す態勢となり、次第に接近しながら続航し、21時20分自船の左舷前方の同船と、右舷前方の第3船を追い越すつもりで、それぞれの船橋後方に向けて自船の船首に装備されている探照灯を遠隔操作により数回照射し、徐々に住宝丸の方位が右方に変わり、同時21分少し前同船が右舷船首16度170メートルになったのを認め、そのまま航行すれば、舟折岩灯標付近で同船と衝突のおそれが生じる状況であったが、同船が自船の存在を分かっているものと思い、機関を減速して追い越すことを中止することなく進行した。
その後B受審人は、第3船を右舷側に追い越し、21時23分舟折岩灯標から107度650メートルの地点に達したとき、住宝丸が右舷船首63度200メートルになり、その後左転を始めた同船と舟折岩灯標付近で著しく接近する状況となったが、間もなく差しかかる左転目標としていた同灯標を注視していて、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
こうして、文章丸は、原針路、原速力のまま進行中、21時25分舟折岩灯標から032度150メートルの地点において、その右舷船首が住宝丸の左舷後部に後方から32度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は高潮時で、付近海域には約0.8ノットの南東流があった。
A受審人は、自室でテレビ放送を見て過ごしていたところ、衝撃で衝突したことを知り、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
また、住宝丸は、専ら活魚輸送に従事する鋼製漁獲物運搬船で、C受審人及びD指定海難関係人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.25メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同日10時45分兵庫県垂水漁港を発し、宇和島港に向かった。
18時30分C受審人は、佐柳島南方沖合でD指定海難関係人に船橋当直を引き継いだ際、同人の当直中に宮ノ窪瀬戸を航行することになるため、自ら昇橋して操船指揮を執るつもりでいたが、同瀬戸手前で目覚し時計が鳴るようセットしておけば大丈夫と思い、D指定海難関係人に対して同瀬戸に向けて定針したころ報告するよう指示することなく、降橋して休息した。
D指定海難関係人は、成規の灯火を表示して備後灘を西行し、21時18分少し前舟折岩灯標から124度1,910メートルの地点に達したとき、針路を318度に定め、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの速力として手動操舵によって進行し、C受審人から指示されなかったこともあって、同人に宮窪ノ瀬戸東口に達したことを報告しないまま、自ら宮ノ窪瀬戸を通航することとした。
一方、C受審人は、目覚し時計をセットしたものの、何らかの理由で同時計が作動しなかったものか、宮ノ窪瀬戸の手前で目が覚めず、またD指定海難関係人からの報告もなかったので、操船指揮を執ることができなかった。
21時19分少し過ぎD指定海難関係人は、舟折岩灯標から120度1,540メートルの地点に達したとき、左舷後方230メートルのところに文章丸が存在し、同船の白、白、緑3灯を視認できる状況となり、その後同船が次第に接近して自船を追い越す態勢となったが、後方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同時23分少し前舟折岩灯標から096度700メートルの地点で、水路に沿ってゆっくりと左転を開始したところ、左舷後方160メートルに近づいた文章丸と、著しく接近する状況となったが、依然後方の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、警告信号を行うことなく、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとらずに続航中、270度を向首したとき8.8ノットの速力で前示のとおり衝突した。
C受審人は、衝撃で衝突したことを知り、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
衝突の結果、文章丸はバルバスバウ及び右舷外板に凹損を生じ、住宝丸は左舷船尾のスタンション、外板、推進器翼及び同軸を曲損、伝馬船を破損したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、宮ノ窪瀬戸東口付近において、西行する文章丸が、先航する住宝丸の追い越しを中止しなかったばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、住宝丸が、後方の見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
文章丸の運航が適切でなかったのは、船長が操船指揮を執らなかったことと、船橋当直者が宮ノ窪瀬戸東口に差しかかったことを船長に報告しなかったこととによるものである。
住宝丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対して宮ノ窪瀬戸東口で報告するよう指示しなかったことと、同当直者が同瀬戸に差しかかったことを船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
B受審人は、夜間、宮ノ窪瀬戸東口付近において、前路近距離を方位が左方から右方に変わった先航中の住宝丸を追い越す態勢で進行する場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、間もなく差しかかる左転目標としていた舟折岩灯標を注視していて、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、船首右至近に迫った同船に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、文章丸のバルバスバウ及び右舷外板に凹損を生じ、住宝丸の左舷船尾のスタンション、外板、推進器翼、同軸を曲損及び伝馬船を破損させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、狭い水道の宮ノ窪瀬戸を通航する場合、自ら操船指揮を執るべき注意義務があった。しかし、同人は、B受審人が同瀬戸の通航に慣れているので単独で船橋当直を任せることとし、自ら操船指揮を執らなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、狭い水道の宮ノ窪瀬戸に向けて航行する場合、船橋当直者が無資格者で単独当直でもあったから、同瀬戸東口付近で操船指揮を執ることができるよう、船橋当直者に同瀬戸東口に達したことを報告するよう指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、同瀬戸の手前で目覚し時計が鳴るようにセットしておけば大丈夫と思い、当直者に報告するよう指示しなかった職務上の過失により、当直者からの報告を得ることができず、またセットしたはずの時計も予定時刻に鳴らなかったので、同指揮を執れないまま進行して文章丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D指定海難関係人が、夜間、宮ノ窪瀬戸を通航する際、船長が操船指揮を執ることができるよう、同人に同瀬戸東口に達したことを報告しなかったことは本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。