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平成13年広審第105号
件名

プレジャーボートカネイシかき筏衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(?橋昭雄、伊東由人、佐野映一)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:カネイシ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
船底外板中央部から船尾部にかけて破口等

原因
針路選定不適切

主文

 本件かき筏衝突は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月14日21時35分
 広島県広島港

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートカネイシ
全長 10.77メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 128キロワット

3 事実の経過
 カネイシは、甲板上船体中央部に操縦席付きキャビンを設けたFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、妻と友人2人を乗せ、広島県宮島での花火大会見物の目的で、船首0.1メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成13年8月14日15時30分同県呉港広区の係留地を発し、音戸瀬戸に続いて似島南岸と江田島との間の大須瀬戸を経て、16時30分宮島北側沖に至り、厳島神社の北西方約600メートルの地点に錨泊して花火見物ののち、帰途に就いた。
 ところで、帰路にあたる似島周辺水域は、かき筏が数多く設置され、同筏の要所には標識灯が取り付けられているものの、航行水路が狭められたところであり、更に夜間の航行に際しては、周辺の市街地や工場の多数の強い灯火に紛れて同標識灯の識別も難しいところであった。
 一方、A受審人は、レジャーのため平素休日などを利用して呉港付近で釣りを行う程度で似島周辺まで出かけることはほとんどなかった。そして、似島周辺を含め広島湾内にかき筏が数多く設置されていることは知っていたものの、その水路事情に不慣れであったので、この度の宮島での花火見物後の帰路に際しては、昼間に航行することになる往路の針路模様をGPSプロッターに記録し、これを辿って戻る予定であった。
 ところが、帰途に就いた21時10分過ぎA受審人は、付近水域は自船同様帰りを急ぐ見物船が次々と動きだし、特に帰路として予定していた似島南側方面は帰りの船で混雑した状況であったので、しばらくの間これを避けて帰途に就いたばかりの見物船群の北寄りを東方に向かって帰航し始めた。そして、同時25分半広島港似島西2号防波堤灯台から281度(真方位、以下同じ。)4,500メートルの地点に至ったころ、たまたま自船を追い越したばかりの黄色回転灯を点灯したかき筏作業船が自船と同様に東に向首し、そのまま似島北側に向かう状況を見て、同船が同島東方に位置する坂町方面に向かうもので、追尾して行けば音戸瀬戸方面に抜けることができるものと思い、当初予定していた似島南側を経る針路を選定することなく、同船の黄色回転灯を目標に針路を080度に定め、機関を全速力前進にかけて18.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
 こうして、A受審人は、似島北側方面に向かう見物帰りの小型船に混じり、周辺の市街地や工場の強い灯火や多数の他船の灯火に紛れた前方のかき筏の標識灯を意識しないまま前示黄色回転灯に頼って続航した。21時33分少し過ぎ前示灯台から347度1,650メートルの地点に達したころ、次第に遠のく前示かき筏作業船の黄色回転灯を目標にして少しずつ右方に針路を変えながら続航し、似島北端沖に設置されたかき筏に向かう状況となったが、これに気付かないまま進行中、21時35分宇品灯台から236度2,500メートルの地点において、カネイシは、その船首が090度を向いて原速力のままかき筏に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期に属し、視界は良好であった。
 衝突の結果、船底外板中央部から船尾部にかけて破口を伴った凹損及び推進器等に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件かき筏衝突は、夜間、広島湾において、宮島沖での花火大会の見物終了後、呉港に向けて帰航する際、針路の選定が不適切で、水路事情に不慣れな似島北側を経て進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、広島湾において、宮島沖での花火大会の見物終了後、呉港に向けて帰航する場合、似島周辺を含む広島湾内にはかき筏が数多く設置されていることは知っていたものの、その水路事情に不慣れであったので、昼間に往路として似島南側を経る針路模様をGPSプロッターに記録してこれを辿る予定であったから、予定した針路選定を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、似島南側方面に向かう帰途に就いたばかりの多数の見物船との混雑を避け、たまたま自船を追い越したかき筏作業船が似島北側方面に向かうのを見て、これを目標にすれば通航経験のない同島北側水域を経て帰航することができると思い、予定した針路の選定を行わなかった職務上の過失により、自船を追い越し次第に遠のくかき筏作業船の灯火を目標に転進して、似島北端沖に設置されたかき筏への衝突を招き、船底外板に破口及び舵に損傷、そしてかき筏に損害をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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