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平成14年広審第25号
件名

漁船福栄丸漁船旭丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月28日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:福栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:旭丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
福栄丸・・・船首部に亀裂
旭 丸・・・左舷後部船側及び船底の各外板に破口、浸水

原因
福栄丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
旭 丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、福栄丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事中の旭丸の進路を避けなかったことによって発生したが、旭丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月15日21時30分
 香川県多度津港沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船福栄丸 漁船旭丸
総トン数 4.9トン 3.0トン
登録長 10.00メートル 9.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15 15

3 事実の経過
 福栄丸は、底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成13年10月15日18時00分香川県多度津港を発し、19時ごろ同港沖合で所定の灯火を表示して底びき網の操業を開始した。
 21時20分A受審人は、備讃瀬戸南航路の北側に漁場を移動することとし、機関を全速力前進にかけて佐柳島南方沖合に向かったが、両舷灯及び船尾灯を点灯し、マストに緑、白2灯を表示したまま航行を開始した。
 A受審人は、付近に数隻の漁船の灯火が認められる状況下、操舵室後方に設置された揚網機の左舷側後方に立ち、遠隔操縦装置により操舵操船にあたったが、操舵室や揚網機の陰になって右舷船首方向の見通しが困難な状況であった。
 21時21分A受審人は、多度津港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から265度(真方位、以下同じ。)1,200メートルの地点で、揚網機の左舷側後方から操舵室の窓越しに高見島の人家の明かりを見て進行方向の見当をつけ、針路を294度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 その後A受審人は、舵を中央に保ち、揚網機後方の船尾甲板で漁獲物の選別作業に従事し、ときどきその場で立ち上がり、船首方向及び左方を見て次の操業海域に向けほぼ直進していることを確かめながら続航した。
 21時25分A受審人は、西防波堤灯台から278度1.1海里の地点に達したとき、右舷船首9度1,080メートルに、トロールにより漁ろうに従事中の旭丸が垂直に連携した緑、白2灯及び船尾灯のほか作業灯数個を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、揚網機後方の船尾甲板上にかがんで漁獲物の選別にあたり、操舵室内で操船にあたるとか見張りの位置を移動するなどして右方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく進行中、21時30分福栄丸は、西防波堤灯台から284度1.8海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首部が、旭丸の左舷後部に後方から44度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時であった。
 A受審人は、衝突の衝撃に驚き、船首方向を見て旭丸と衝突したことを知り、機関を停止して海上保安部及び付近の僚船に無線電話で衝突したことを連絡し、事後の措置にあたった。
 また、旭丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日15時30分多度津港を発し、16時ごろ同港沖合の沖ノ中瀬でえびこぎ網漁の操業を開始し、日没時ごろ緑、白2灯と船尾灯のほか、船尾甲板の揚網用鋼製櫓に甲板照明用の白色作業灯5個をそれぞれ点灯したものの、両舷灯のスイッチを入れるのを忘れたまま操業を続けた。
 21時10分B受審人は、西防波堤灯台から297度1.4海里の水深約9メートルの地点で3回目の投網を終え、直径10ミリメートルのえい網用ワイヤロープを約45メートル延出し、粟島東岸の明かりを船首目標として針路を250度に定め、機関を回転数毎分1,500の前進にかけてえい網を開始し、l.5ノットの速力で進行した。
 21時20分B受審人は、舵中央として操舵室から離れ、船尾甲板上にかがんで漁獲物の選別作業にかかり、その後旭丸は、えい網を続けながらほぼ直進した。
 21時25分B受審人は、西防波堤灯台から286度1.7海里の地点に達したとき、左舷船尾55度1,080メートルのところに、福栄丸の緑、白2灯とその下方に緑灯1個を視認することができ、同船が漁ろう中の灯火を掲げているものの、その速力から漁場を移動するため航行中であることが分かる状況であり、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然船尾甲板で漁獲物の選別にあたり、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく、原針路、原速力のままえい網中、21時30分少し前進行方向を確かめようとして周囲を見たとき、左舷船尾至近に福栄丸の灯火を認め、同船が自船の操舵室後方に衝突する状況であることに気付いたが、何らの措置をとる間もなく、大声を出して船尾端に逃れたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、福栄丸は船首部に亀裂を生じ、旭丸は左舷後部船側及び船底の各外板に破口を生じて浸水したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、香川県多度津港沖合において、福栄丸が、漁場を移動するため漁ろうに従事中の灯火を表示したまま航行中、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事中の旭丸の進路を避けなかったことによって発生したが、旭丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、香川県多度津港沖合において、漁場を移動するため佐柳島南方に向け航行する場合、右舷船首方向から接近するえい網中の旭丸を見落とさないよう、操舵室内で操船にあたるとか見張りの位置を移動するなどして右方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操舵室後方の揚網機左舷側後方からときどき船首方向と左方を見ただけで、船尾甲板にかがんで漁獲物の選別にあたり、右方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、えい網中の旭丸の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、福栄丸の船首部に亀裂を生じさせ、旭丸の左舷後部船側及び船底の各外板に破口を生じて浸水させるに至った。
 B受審人は、夜間、香川県多度津港沖合において、えびこぎ網漁業に従事してえい網する場合、漁場を移動中の福栄丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、船尾甲板上で漁獲物の選別にあたり、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船を避けないまま接近する福栄丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないで同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。


参考図
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