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平成14年広審第8号
件名

漁船竜虎丸プレジャーボート英丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月23日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(?橋昭雄、勝又三郎、西田克史)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:竜虎丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
竜虎丸・・・船首外板に擦過傷
英 丸・・・右舷前部かん抜き等破損、船長が海中に転落して溺死

原因
竜虎丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
英 丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、航行中の竜虎丸が、見張り不十分で、停留中の英丸を避けなかったことによって発生したが、英丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月27日07時40分
 瀬戸内海 愛媛県北条港

2 船舶の要目
船種船名 漁船竜虎丸 プレジャーボート英丸
総トン数 3.54トン  
全長   5.80メートル
登録長 8.00メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 51キロワット 2キロワット

3 事実の経過
 竜虎丸は、甲板上船体中央部付近に設けられた機関室囲壁の船尾側面に機関操作レバー及び船尾甲板上で立った姿勢でも操舵を行うことができる舵柄が取り付けられたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、未明に仕掛けた刺し網を引き揚げる目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成13年10月27日06時00分愛媛県北条港船溜りを発し、同港北方に位置する立岩川河口沖に至って揚網を始めた。
 揚網後、A受審人は、北条港口西方に位置した鹿島北東岸から北に延びた防波堤北端部の北条港鹿島神洗防波堤灯台(以下「鹿島防波堤灯台」という。)とその西方約40メートル離れて北方に延びた長さ約350メートルの防波堤(以下「一文字防波堤」という。)との間を経て、鹿島北西方沖に仕掛けた地点に向かう予定であった。
 A受審人は、次の仕掛けた地点に移動するに先立ち、引き揚げたばかりの網に付着した海藻類を洗い落とす作業を行おうとし、周囲を一見したところ波妻ノ鼻沖付近に2隻の小型船を認めただけで付近には他船を見かけなかったので、07時30分鹿島防波堤灯台から030度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点から、いったん西方に向けて機関を極微速力前進にかけながら作業を開始し、同時39分鹿島防波堤灯台から005度500メートルの地点に至ったところで作業を終えて、針路を鹿島防波堤灯台と一文字防波堤南端との間に向く187度に定め、機関の回転数を上げて7.0ノットの速力で船尾甲板上右舷寄りに立った姿勢で操舵しながら進行した。
 ところが、A受審人は、定針したとき、前路220メートルのところに停留中の背の低い英丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、網洗い作業開始時から付近には他船がいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、たまたま進行方向右舷方にあたる一文字防波堤上からの投げ釣りを認めて、その後これに近寄り過ぎないように注意していたので、英丸に気付かず、同船を避けないまま続航し、07時40分鹿島防波堤灯台から002度290メートルの地点において、竜虎丸は、その船首が英丸の右舷前部のかん抜き端部に後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の初期で、衝突地点付近には微弱な北流があった。
 また、英丸は、船外機付き和船型木造プレジャーボートで、B船長が1人で乗り組み、釣りの目的で、同日06時過ぎ北条港船溜りを発し、前示衝突地点付近に至って流し釣りを始めた。
 B船長は、適宜機関を使用しながらほぼ同じ地点で停留して釣りを行っていたところ、07時35分通りすがりの漁船胡子丸が近づいてきて話を交わすなどして、その後も釣りを続けていた。
 ところが、07時39分B船長は、折からの弱い風潮流の影響もあって船首がほぼ207度を向いた状態で、引き続き停留して船尾方を背にした姿勢で座りながら釣りを行っていたとき、右舷船尾20度220メートルのところに竜虎丸を視認することができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、船尾方の見張りが不十分で、これに気付かず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま停留し続け、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、竜虎丸は船首外板に擦過傷を生じ、英丸は右舷前部かん抜き及び同取付け部を含む外板を破損し、更に衝突時の衝撃でB船長(大正11年1月27日生、四級小型船舶操縦士免状受有)が海中に転落して溺死した。

(原因)
 本件衝突は、北条港鹿島防波堤灯台北方沖において、刺し網を仕掛けた地点に向かって移動中の竜虎丸が、見張り不十分で、前路で釣りを行いながら停留中の英丸を避けなかったことによって発生したが、英丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、北条港鹿島防波堤灯台北方沖において、揚網した網を水洗い後、次の網仕掛け地点に向かって移動する場合、前路で停留中の英丸を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、網洗い作業開始から付近には他船がいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、進行方向右舷方にあたる一文字防波堤上からの投げ釣りに近寄り過ぎないように注意し、前路で停留中の英丸に気付かず、同船を避けないまま進行して、英丸との衝突を招き、竜虎丸の船首外板に擦過傷を生じさせ、英丸の右舷前部舷縁材及び外板を破損させ、また衝突の衝撃によりB船長を海中に転落・溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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