(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月20日05時30分
和歌山県田辺港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート海人 |
プレジャーボート利充丸 |
総トン数 |
19トン |
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全長 |
23.98メートル |
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登録長 |
18.27メートル |
5.32メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
1,673キロワット |
18キロワット |
3 事実の経過
海人は、船体中央部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人2人を同乗させ、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成13年5月20日05時05分和歌山県田辺港のマリーナを発し、同港南方沖合の釣り場に向かった。
A受審人は、操舵室右舷側の操縦席に腰掛けて操舵と見張りに当たり、低速力で航行して田辺港港外に至り、05時25分半四双島灯台から318度(真方位、以下同じ。)1,450メートルの地点において、針路を239度に定め、機関を半速力前進にかけ18.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
05時28分少し過ぎA受審人は、四双島灯台から277度1.3海里の地点に達したとき、左舷船首13度1,000メートルのところに、利充丸を視認することができる状況であったが、左舷方の瀬戸ケ瀬付近の漁船群に気を取られ、船首方の見張りを十分に行わなかったので、利充丸の存在に気付かなかった。
05時29分わずか過ぎA受審人は、四双島灯台から270度1.5海里の地点に達し、目的地に向け針路を213度に転じたところ、利充丸が正船首520メートルになり、その後同船に向首したまま接近していることに気付かなかったので、船首を風に立て移動しないことから錨泊中と分かる利充丸を避けずに続航し、05時30分四双島灯台から262度1.6海里の地点において、海人は、原針路原速力のまま、その船首部が、利充丸の左舷側中央部に、前方から70度の角度で衝突し、乗り切った。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、利充丸は、船体中央部に舵輪と機関操縦レバーを備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日04時30分和歌山県瀬戸漁港を発し、瀬戸埼沖合で釣果がなかったので、05時00分同漁港西方2海里付近の釣り場に移動し、魚群探索を始めた。
05時26分B受審人は、前示衝突地点で魚影を認めて機関を中立とし、船首から重さ10キログラムの錨を水深60メートルの海底に投下し、他の船舶が通常航行する水域であったものの、所定の形象物を表示せず、その後、直径20ミリメートルの錨索を約80メートル伸出して船首部のたつに仮止めし、機関を後進にかけて船体を後退させ、錨索が張ってから係止する錨作業を開始した。
05時28分少し過ぎB受審人は、103度に向首していたとき、左舷船首57度1,000メートルのところに、南下中の海人を視認することができる状況であったが、船首部で錨索を係止する錨作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、海人の存在に気付かなかった。
05時29分わずか過ぎB受審人は、海人が左舷船首70度520メートルのところで左転し、その後自船に向首したまま接近していることに気付かなかったので、持参していた笛を吹くなど、有効な音響による注意喚起信号を行わず、さらに間近に接近しても、機関をかけて前進するなど、衝突を避けるための措置をとらないで錨作業を続けた。
05時30分わずか前B受審人は、至近に迫った海人の機関音を聞いて初めて同船を認め、手を振って大声で叫び、衝突の危険を感じて海中に飛び込んだ直後、利充丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海人は、船底外板に擦過傷を生じ、プロペラを曲損したが、のち修理され、利充丸は、左舷側外板に破口を生じて転覆し、廃船とされた。
(原因)
本件衝突は、和歌山県田辺港西方沖合において、釣り場に向け南下中の海人が、見張り不十分で、錨泊中の利充丸を避けなかったことによって発生したが、利充丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、和歌山県田辺港西方沖合を釣り場に向け南下する場合、利充丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷方の瀬戸ケ瀬付近の漁船群に気を取られ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、利充丸の存在と接近に気付かず、錨泊中の同船を避けないまま進行して衝突を招き、海人の船底外板に擦過傷を生じ、プロペラを曲損させ、利充丸の左舷側外板に破口を生じて転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、和歌山県田辺港西方沖合において、錨泊して錨作業を行う場合、海人を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、錨作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、海人の存在と接近に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関をかけて前進するなど、衝突を避けるための措置をとることもしないまま錨作業を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。