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平成14年神審第10号
件名

貨物船第二十三泰正丸漁船八恵寿丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:第二十三泰正丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第二十三泰正丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:八恵寿丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
泰正丸・・・船首部外板に擦過傷
八恵寿丸・・・船首部を破損、甲板員が顔面挫創

原因
泰正丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主 因)
八重寿丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務 (衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第二十三泰正丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の八恵寿丸を避けなかったことによって発生したが、八恵寿丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月31日10時00分
 明石海峡

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十三泰正丸 漁船八恵寿丸
総トン数 498トン 1.9トン
全長 68.13メートル  
登録長   8.54メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット  
漁船法馬力数   40

3 事実の経過
 第二十三泰正丸(以下「泰正丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船兼砂利採取運搬船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.3メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成13年8月31日08時50分関西国際空港北西方の埋立工事区域を発し、香川県小豆島に向かった。
 A受審人は、発航操船に当たったのち、明石海峡に向け大阪湾を北上し、やがて、明石海峡航路東方灯浮標付近で、昇橋してきたB受審人に船橋当直を委ね、自らも航路内の様子を見るため在橋を続けた。
 09時46分少し前B受審人は、平磯灯標から157度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点において、針路を311度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗し12.0ノットの対地速力で、舵輪後方に立って手動操舵により進行した。
 09時50分A受審人は、間もなく明石海峡航路を通航することとなったが、航路内を一瞥して他船を見かけなかったので、支障となる船舶はいないものと思い、自ら操船の指揮を執ることなく降橋した。
 09時56分少し過ぎB受審人は、明石海峡航路の東口に至り、船長に昇橋を求めないまま、平磯灯標から215度1.0海里の地点で、針路を同航路に沿う303度に転じたとき、正船首方1,400メートルのところに、八恵寿丸を視認することができる状況であったが、前路を一瞥しただけで、航路内に他船はいないものと思い、船首方の見張りを十分に行わなかったので、八恵寿丸の存在に気付かなかった。
 その後、B受審人は、八恵寿丸に向首したまま接近していることに気付かなかったので、漂泊中の同船を避けずに続航し、10時00分平磯灯標から250度1.3海里の地点において、泰正丸は、原針路原速力のまま、その船首部が、八恵寿丸の左舷船首部に、後方から39度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、明石海峡には1.0ノットの東流があった。
 A、B両受審人は、衝突に気付かないまま続航し、明石海峡西方で巡視艇から連絡を受けて衝突の事実を知り、事後の措置に当たった。
 また、八恵寿丸は、一本釣り漁に従事するFRP製漁船で、C受審人が甲板員と2人で乗り組み、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日09時00分兵庫県岩屋漁港を発し、明石海峡の釣り場に向かった。
 09時10分目的地である前示の衝突地点付近に着いたC受審人は、機関を中立運転として漂泊し、しばらく潮待ちしたのち、同時40分甲板員を船首部に座らせ、自らは船尾部に位置し、時折、機関と舵棒を操作して潮上りをしながら、手釣りを始めた。
 09時56分少し過ぎC受審人は、衝突地点で264度に向首していたとき、左舷船尾39度1,400メートルのところに、西行中の泰正丸を視認することができる状況となったが、釣りに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、泰正丸の存在に気付かなかった。
 その後、C受審人は、泰正丸が自船に向首したまま接近していることに気付かなかったので、有効な音響による注意喚起信号を行わず、更に間近に接近しても、機関をかけて後退するなど、衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続け、10時00分少し前至近に迫った泰正丸を初めて視認し、機関を後進にかけたが効なく、八恵寿丸は、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、泰正丸は、船首部外板に擦過傷を、八恵寿丸は、船首部に破損をそれぞれ生じた。また、八恵寿丸の甲板員が海中に転落し、顔面挫創などを負った。

(原因)
 本件衝突は、明石海峡航路において、西行中の泰正丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の八恵寿丸を避けなかったことによって発生したが、八恵寿丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 泰正丸の運航が適切でなかったのは、船長が、自ら操船の指揮を執らなかったことと、船橋当直者が、船長に昇橋を求めなかったうえ、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、明石海峡航路を通航する場合、自ら操船の指揮を執るべき注意義務があった。しかるに、同人は、航路内を一瞥して他船を見かけなかったので、支障となる船舶はいないものと思い、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、漂泊中の八恵寿丸を避けることができず、同船との衝突を招き、泰正丸の船首部外板に擦過傷を、八恵寿丸の船首部に破損をそれぞれ生じさせ、八恵寿丸の甲板員に顔面挫創などを負わせるに至った。
 B受審人は、明石海峡航路を西行する場合、前路の八恵寿丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を一瞥しただけで、航路内に他船はいないものと思い、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、八恵寿丸の存在と接近に気付かず、漂泊中の同船を避けないまま進行して衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。
 C受審人は、明石海峡航路において、一本釣り漁のため漂泊する場合、西行中の泰正丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣りに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首したまま接近してくる泰正丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、機関をかけて後退するなど、衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続けて衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。


参考図
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