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平成13年神審第115号
件名

貨物船第一東洋丸引船第八国広丸引船列衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、阿部能正、内山欽郎)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:第一東洋丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第八国広丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第一東洋丸甲板員

損害
東洋丸・・・左舷船首部外板に凹損
神和・・・右舷船首部外板に凹損

原因
東洋丸・・・見張り不十分、行会いの航法(避航動作)不遵守
神和・・・動静監視不十分、行会いの航法(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがあるとき、第一東洋丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、第八国広丸引船列が、動静監視不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年2月11日02時50分
 和歌山県潮岬西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一東洋丸
総トン数 749トン
全長 82.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

船種船名 引船第八国広丸 土運船ニュー神和
総トン数 93.39トン
全長 24.75メートル 55.00メートル
  16.20メートル
深さ   5.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  

3 事実の経過
 第一東洋丸(以下「東洋丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、石材約2,100トンを載せ、船首4.05メートル船尾5.60メートルの喫水をもって、平成13年2月10日18時55分兵庫県男鹿島の積込場を発し、三重県津港へ向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を、00時から04時までと12時から16時までをB指定海難関係人、04時から08時までと16時から20時までを自ら及び08時から12時までと20時から24時までを一等航海士がそれぞれ単独の3直輪番制で行うこととしていた。
 A受審人は、21時00分鳴門海峡を航過したところで、次直の一等航海士に当直を引き継ぐ際、B指定海難関係人が単独で当直にあたる潮岬沖合は東西に航行する船舶や漁船の輻輳する海域であったが、同指定海難関係人が単独の船橋当直を長年経験していたことから、特に注意を与えるまでもないと思い、申し送り事項として、厳重に見張りを行い、接近する船舶があれば報告するよう指示することなく、降橋して自室で就寝した。
 翌11日00時00分B指定海難関係人は、番所鼻灯台の西方約9海里沖合で前直の一等航海士から単独で船橋当直を引き継ぎ、所定の灯火表示を確かめて紀伊水道を南下し、02時10分半江須埼灯台から201度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点で、針路を潮岬沖に向かう105度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 02時43分B指定海難関係人は、潮岬灯台から273度2.5海里の地点に達したとき、右舷船首1.5度2.0海里のところに、第八国広丸(以下「国広丸」という。)の白、白、白、紅、緑5灯と、その後方に引かれていたニュー神和(以下「神和」という。)の紅、緑2灯とを視認できる状況であったが、左舷方から接近する2隻の漁船に気を取られ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、国広丸の形成している引船列(以下「国広丸引船列」という。)の存在に気付かなかった。
 B指定海難関係人は、その後国広丸引船列がほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近したことに気付かず、十分な距離をもって同引船列の左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく、同じ針路のまま進行し、02時50分わずか前船首至近に迫った神和を認めたものの、どうすることもできず、02時50分潮岬灯台から260度1.2海里の地点において、東洋丸は、原針路原速力のまま、その船首が国広丸引船列の曳航索に衝突してこれを切断し、続いて右舷船首部が神和の右舷船首部角に前方から35度の角度で衝突した。
 A受審人は、機関回転数の変動を感じ、直ちに昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。
 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 また、国広丸は、鋼製引船で、船長N及びC受審人ほか2人が乗り組み、空船で船首尾0.7メートルの等喫水となった、作業員3人乗り組みの土運船神和を長さ約200メートルの合成繊維製曳航索等で船尾に引き、全長約290メートルの引船列を形成し、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同月10日07時50分愛知県常滑市沖合の中部空港工事海域を発し、広島県竹原港へ向かった。
 翌11日02時37分C受審人は、単独で船橋当直にあたり、潮岬灯台から186度1,160メートルの地点で、針路を290度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.0ノットの曳航速力で、所定の灯火を表示して進行した。
 02時43分C受審人は、潮岬灯台から236度1,400メートルの地点に達したとき、左舷船首3.5度2.0海里のところに、東洋丸の白、白、緑3灯を初めて認めたが、一見して同船が横切り関係の避航船でそのうち自船を避けるものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行わなかったので、東洋丸の紅灯を認めないまま、同船とほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近していることに気付かなかった。
 C受審人は、その後、十分な距離をもって東洋丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく、同じ針路のまま続航し、02時48分東洋丸が左舷船首方0.5海里に接近したのを認め、不安を感じて汽笛を連吹し、同時50分少し前同船が左舷船首至近に迫ったとき、右舵20度をとって右転中、東洋丸の船首が、曳航索に衝突し、続いて320度に向首して原速力のままの神和に、前示のとおり衝突した。
 N船長は、衝撃を感じ直ちに昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、東洋丸は、右舷船首部外板に凹損を、神和は、右舷船首部外板に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、潮岬西方沖合において、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがあるとき、東洋丸が、見張り不十分で、国広丸引船列の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったことと、国広丸引船列が、動静監視不十分で、東洋丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 東洋丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対して、厳重に見張りを行い、接近する船舶があれば報告するよう指示しなかったことと、同当直者が、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、潮岬西方沖合に向け紀伊水道を南下中、次直者に船橋当直を引き継ぐ場合、無資格者が単独で船橋当直にあたる潮岬沖合は船舶の輻輳する海域であるから、申し送り事項として、厳重に見張りを行い、接近する船舶があれば報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、B指定海難関係人が単独の船橋当直を長年経験していたことから、特に注意を与えるまでもないと思い、厳重に見張りを行い、接近する船舶があれば報告するよう指示しなかった職務上の過失により、船橋当直にあたった同指定海難関係人の見張り不十分のため、国広丸引船列の存在に気付かず、ほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近する同引船列の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま進行して衝突を招き、自船の右舷船首部外板に凹損を、神和の右舷船首部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、潮岬沖合を西行中、船首少し左方に東洋丸の白、白、緑3灯を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、一見して同船が横切り関係の避航船でそのうち自船を避けるものと思い、東洋丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船とほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近していることに気付かず、東洋丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に就き、潮岬沖合を東行する際、前路の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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