日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年神審第81号
件名

油送船あさひ丸貨物船ケープアカシア衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月24日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正、黒田 均、小金沢重充)

理事官
清重隆彦

受審人
A 職名:あさひ丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:あさひ丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:ケープアカシア水先人 水先免状:大阪湾水先区
指定海難関係人
D 職名:ケープアカシア船長

損害
あさひ丸・・・船首部を圧壊、一等航海士が前胸部打撲傷
ケ号・・・左舷中央部外板に凹損等

原因
あさひ丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ケ号・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、あさひ丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るケープアカシアの進路を避けなかったことによって発生したが、ケープアカシアが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Cに対しては懲戒を免除する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月24日12時29分
 大阪湾

2 船舶の要目
船種船名 油送船あさひ丸 貨物船ケープアカシア
総トン数 199トン 87,803トン
全長 47.40メートル 289.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 15,173キロワット

3 事実の経過
 あさひ丸は、船尾船橋型の油送船で、兵庫県浦港に所在する造船所で第1種中間検査工事を終え、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、海上試運転の目的で、空倉のまま、船首0.40メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、平成13年7月24日11時30分同港を発し、洲本沖灯浮標付近の水域に向かった。
 A受審人は、11時52分釜口港1号防波堤灯台(以下「1号防波堤灯台」という。)から095度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点において、針路を172度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 11時59分半A受審人は、1号防波堤灯台から119度3.4海里の地点に達したとき、B受審人が昼食をとるようにと言って昇橋したので、同人が船長経験もあり、海上平穏で視界も良いことから、B受審人に単独で船橋当直を行わせることとし、現在の針路と前方左右に底びき網漁船群が存在するので注意するようにと告げ、間もなく降橋して船橋直下の食堂に行った。
 B受審人は、原針路原速力のまま南下し、前方の底びき網漁船群が移動する気配もなく危険もないことから、操舵室左舷端前部に赴き、台に両手をついて中腰の状態で、窓枠に置いてある携帯用ラジオを聞き始め、12時15分友ケ島灯台から011度8.3海里の地点に達したとき、右舷船首24度5.3海里のところに、北上中のケープアカシア(以下「ケ号」という。)を初めて視認したものの、まだ遠方であるからと目を離し、ラジオに聞き入っているうち、眠気を催したが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航とならないよう、操舵室内を歩行して見張りに当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、B受審人は、12時21分わずか前友ケ島灯台から013.5度7.3海里の地点に達したとき、ケ号が右舷船首26.5度3.0海里のところに、前路を左方に横切る態勢で接近し、その後、同船の方位がわずかに右方に変わっているものの、明確な変化がないまま、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かなかったので、右転するなど、ケ号の進路を避けることができないまま続航した。
 12時29分わずか前B受審人は、ふと目を覚ましたとき、間近にケ号を認め、手動操舵に切り替えて右舵を取りながら機関を後進にかけたが時既に遅く、12時29分友ケ島灯台から019度6.0海里の地点において、あさひ丸は、原針路原速力のまま、その右舷船首部がケ号の左舷中央部に、後方から82度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、衝撃で衝突を知り、昇橋して事後の処理に当たった。
 また、ケ号は、船尾船橋型の鉱石運搬船で、D指定海難関係人ほか日本人船員1人及びフィリピン共和国人船員20人が乗り組み、鉄鉱石152,154トンを載せ、船首尾とも16.1メートルの喫水をもって、同年7月14日02時30分(現地時間)オーストラリアのポートウォルコット港を発し、岡山県水島港に向かった。
 越えて、同月24日D指定海難関係人は、紀伊水道に入って友ケ島南方の水先人乗船地点に到着し、11時27分C受審人を乗船させ、同受審人に水先をさせて、二等航海士を船橋当直に、操舵手を操舵に当たらせ、船橋上部マストに巨大船であることを示す黒色円筒型の形象物2個を連掲し、指定待機錨地に当たる神戸灯台から172度4.4海里の地点に向かって北上した。
 水先に当たったC受審人は、12時15分友ケ島灯台から002度3.2海里の地点において、針路を030度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.5ノットの速力で進行した。
 定針時、C受審人は、左舷船首14度5.3海里のところに、前路を右方に横切る態勢で接近するあさひ丸を初めて視認したが、そのうちに同船の方で右転して避航するものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、二等航海士に命じるかして、コンパスの方位変化や自動衝突予防援助装置の表示で確かめるなど、その動静監視を十分に行うことなく、左舷前方の底びき網漁船群などに目を配りながら北上した。
 このころ、D指定海難関係人は、昼食をとることとし、船舶の安全な運航を期するため在橋して操船の任に当たることなく、C受審人に操船を任せたまま降橋し、船橋下の食堂に行った。
 C受審人は、12時21分わずか前友ケ島灯台から010度4.4海里の地点に達したとき、あさひ丸が左舷船首11.5度3.0海里のところに接近し、その後、同船の方位がわずかに右方に変わっているものの、明確な変化がないまま、衝突のおそれのある態勢で接近中であったが、依然としてあさひ丸に対する動静監視不十分で、このことに気付かなかった。
 こうして、C受審人は、あさひ丸が避航する気配のないまま接近したが、警告信号を行わずに北上を続け、12時24分友ケ島灯台から013度5.1海里の地点に達したとき、同船を左舷船首8度1.8海里に視認する状況となり、あさひ丸が適切な動作をとっていないことが明らかになったが、大幅に右転するなど、衝突を避けるための動作をとることなく、同船から遠ざかるつもりで少し右転して040度の針路に転じるように操舵手に令した。
 一方、D指定海難関係人は、このころ、食堂で食事中で、衝突を避けるための動作をとることができなかった。
 その後、C受審人は、12時27分あさひ丸が左舷船首12度1,300メートルに迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じ、短音を5回以上連続して吹鳴しながら、衝突を避けるための協力動作のつもりで右舵一杯を令したが及ばず、ケ号は、船首を90度に向けて約11.5ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
 D指定海難関係人は、食堂で汽笛の吹鳴を聞き、昇橋して事後の処理に当たった。
 衝突の結果、あさひ丸は、船首部に圧壊を、ケ号は、左舷中央部外板に凹損及び同舷フレームなどに曲損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、また、B受審人が、前胸部打撲傷などを負った。

(航法の適用等)
1 方位変化及び航法
 12時21分わずか前からケ号が040度に転針を令した同時24分までの間における、ケ号から見たあさひ丸の方位及び距離は次表のとおりであった。

時刻
方位
距離
12時21分わずか前 左舷船首11.5度 3.0海里
12時22分 左舷船首10.5度 2.6海里
12時23分 左舷船首9.5度 2.2海里
12時24分 左舷船首8度 1.8海里

 約3分間に3.5度、1分間に約1.1度の方位変化であるが、過去の判示例からしても、方位がわずかに変わっているものの、明確な方位変化とは認められず、衝突のおそれのある態勢で接近している状況にあったものと認めるのが相当である。
 したがって、本件は、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)第15条の横切り船の航法を適用すべき事案である。
2 航法の適用時期
 本件時の両船の諸条件を整理すると次表のとおりであった。

 
あさひ丸
ケ号
総トン数 199トン 87,803トン
全長 47.40メートル 289.00メートル
針路 172度 030度
速力 11.0ノット 13.5ノット

 また、両船の針路交角は38度であった。
 以上の点に、本件時が昼間で、その水域が大阪湾であることを合わせ考えると、両船間の距離3.0海里、衝突約8分前の12時21分わずか前を見合い関係の成立時期、すなわち、航法の適用時期とするのが相当である。
3 避航船の航法
 予防法第16条の避航船であるあさひ丸は、衝突の2分前ケ号が右舷船首36度1,300メートルに接近し、短音を5回以上連続して吹鳴したころ、衝突回避が可能であった。
4 保持船の航法
 予防法第17条の保持船で、巨大船であるケ号は、衝突の2分前あさひ丸が左舷船首12度1,300メートル(全長の4.8倍)に接近したとき、衝突を避けるための協力動作のつもりで右舵一杯を取っても衝突回避ができなかった。
 したがって、ケ号は、同法第17条第3項の航法では衝突を回避することができず、同条第2項の規定により律するのが相当である。
5 ケ号の予防法第17条第2項に規定する保持船としての適切な動作
 同項には、「保持船は、避航船がこの法律の規定に基づく適切な動作(避航動作)をとっていないことが明らかになった場合は、同項の規定(針路及び速力の保持義務)にかかわらず、直ちに避航船との衝突を避けるための動作をとることができる。」旨規定されているが、これは保持船に避航義務を課したものではなく、まず同法第34条第5項に規定する警告信号を行って避航船に避航動作をとるように促し、それでもなお避航しない場合に初めて衝突を避けるための動作をとることができるとしたものである。
 本件時、航法の適用時期である12時21分わずか前以降ケ号は、避航動作をとっていないあさひ丸に対し、警告信号を行って避航動作をとるように促す必要があり、衝突の5分前である同時24分あさひ丸が避航動作をとらないまま左舷船首8度1.8海里に接近し、巨大船であるケ号の船橋から見て全長の11.5倍の距離まで迫っていた。
 このころ、ケ号は、時間的、距離的及び操船水域に余裕があって、衝突を回避できる余地があったから、直ちに大幅に右転するなど、あさひ丸との衝突を避けるための動作をとれば、衝突しなかったのである。
 したがって、本件は、ケ号が警告信号を行わず、予防法第17条第2項の規定により、保持船として衝突を避けるための動作をとらなかったことを一因とするのが相当である。

(原 因)
 本件衝突は、大阪湾において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下中のあさひ丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るケ号の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中のケ号が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 ケ号の運航が適切でなかったのは、船長が水先人に水先させているとき、船舶の安全な運航を期するため在橋して操船の任に当たらなかったことと、水先人が動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 B受審人は、大阪湾において、単独で船橋当直に当たって南下中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、操舵室内を歩行して見張りに当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、ケ号と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど、同船の進路を避けることができないまま進行して衝突を招き、あさひ丸の船首部に圧壊を、ケ号の左舷中央部外板に凹損及び同舷フレームなどに曲損をそれぞれ生じさせ、また、自らも前胸部打撲傷などを負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 C受審人は、大阪湾において、ケ号を水先して北上中、前路を右方に横切る態勢で接近するあさひ丸を初めて視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、二等航海士に命じるかして、コンパスの方位変化や自動衝突予防援助装置の表示で確かめるなど、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうちに同船の方で右転して避航するものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、あさひ丸の方位がわずかに右方に変わっているものの、明確な変化がないまま、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船が適切な動作をとっていないことが明らかになったとき、大幅に右転するなど、衝突を避けるための動作をとらないで少し右転したまま進行してあさひ丸との衝突を招き、前示の損傷とB受審人の負傷とを生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告すべきところ、同人が多年にわたり水先業務に携わりその使命達成に貢献した功績によって平成10年7月20日運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条を適用してその懲戒を免除する。
 D指定海難関係人が、水先人に水先させているとき、船舶の安全な運航を期するため在橋して操船の任に当たらず、衝突を避けるための動作をとることができなかったことは、本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては、今後水先人に水先させる際には、船舶の安全な運航を期するため、在橋してその責務を全うする旨明らかにしている点に懲し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:28KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION