日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年神審第112号
件名

遊漁船丸宮丸プレジャーボートプラスチック4号衝突事件
二審請求者〔受審人B〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月21日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正、黒田 均、内山欽郎)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:丸宮丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:プラスチック4号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
丸宮丸・・・船首部に擦過傷等
4 号・・・左舷中央部外板に破口、のち廃棄、同乗者が脳挫傷で死亡

原因
丸宮丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
4 号・・・注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、丸宮丸が、見張り不十分で、錨泊中のプラスチック4号を避けなかったことによって発生したが、プラスチック4号が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月16日13時00分
 和歌山県湯浅湾

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船丸宮丸 プレジャーボートプラスチック4号
総トン数 2.4トン  
全長   4.22メートル
登録長 8.54メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 80キロワット 3キロワット

3 事実の経過
 丸宮丸は、FRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客3人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成13年6月16日04時30分和歌山県逢井漁港を発し、紀伊水道中央部付近の釣り場に至って遊漁を行ったのち、12時00分紀伊宮崎ノ鼻灯台(以下「宮崎ノ鼻灯台」という。)から282度(真方位、以下同じ。)6.0海里の地点を発進して、帰途についた。
 12時54分半A受審人は、宮崎ノ鼻灯台から191度600メートルの地点に達したとき、針路を128度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力とし、操舵室のほぼ中央部でいすに座って手動操舵により進行した。
 ところで、丸宮丸は、全速力で航行すると船首が浮き上がり、いすに座った操舵位置から船首方を見るとき、正船首から左右各舷約6度の間が死角となっていた。
 12時57分少し過ぎA受審人は、宮崎ノ鼻灯台から150度1,300メートルの地点に達したとき、左舷前方に、逢井港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から218度800メートルの地点に設置してある和定第2号と称する定置網(以下「定置網」という。)の西端簡易灯浮標が目に入ったので、これを見ながら針路を同網の南側に向かう094度に転じた。
 このころ、A受審人は、ほぼ正船首方920メートルのところに、静止状態にあるプラスチック4号(以下「4号」という。)を視認することができる状況であったが、平素定置網の南側に魚釣り船など錨泊船を見かけたことがなかったので、前方には航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、正船首方に存在する4号を見落とさないよう、身体を移動するなど、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かないまま東行した。
 A受審人は、その後4号が錨泊中の形象物を掲げていないものの、折からの風向と静止状況から、船首を北方に向けて錨泊中であることが分かる同船に、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど、4号を避けることなく続航中、13時00分西防波堤灯台から214度1,000メートルの地点において、丸宮丸は、原針路原速力のまま、その船首部が、4号の左舷中央部付近に前方から86度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、視界は良好であった。
 また、4号は、船外機装備のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人のC1人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首尾0.1メートルの等喫水をもって、同日06時00分逢井漁港を発し、同港南西方沖合に向かい、順次釣り場を移動して魚釣りを行ったのち、12時30分前示衝突地点付近に到着した。
 B受審人は、水深約32メートルのところで機関停止のうえ、船首部から重さ5キログラムの鋼製錨を投じ、太さ10ミリメートル長さ40メートルの合成繊維索を延出して錨泊したのち、錨泊中の形象物を掲げないまま、C同乗者を中央部のさ蓋に座らせ、自らは船尾端右舷側の腰掛けに船首方を向いて座り、竿釣りを始めた。
 B受審人は、12時45分ごろC同乗者が魚釣りをやめ仰向けになって寝入ってしまったのちも釣りを続けていたところ、同時57分少し過ぎ船首が000度に向いていたとき、左舷船首86度920メートルのところに、自船に向首接近する丸宮丸を初めて視認し、その後同船が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを知ったが、そのうちに丸宮丸が避けてくれるものと思い、救命胴衣付きの笛を吹くなど、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、間近に接近したとき、機関を使用するなど、衝突を避けるための措置もとらずに見守っていた。
 B受審人は、13時00分わずか前丸宮丸が至近に迫り、ようやく衝突の危険を感じ、手を振りながら大声で叫んだが効なく、4号は、船首が000度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、丸宮丸は、船首部に擦過傷を、プロペラ及び舵に曲損をそれぞれ生じたが、のち修理され、4号は、左舷中央部外板に破口を生じて右舷側に転覆し、来援した逢井漁港の漁船により同港に引きつけられたが、のち廃棄され、また、C同乗者(昭和44年3月25日生)が、脳挫傷を負って病院に急送されたが死亡した。

(原因)
 本件衝突は、和歌山県湯浅湾において、東行中の丸宮丸が、見張り不十分で、錨泊中の4号を避けなかったことによって発生したが、4号が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、和歌山県湯浅湾において、釣り場から帰航のため東行する場合、操舵位置から船首方向に死角があったから、正船首方に存在する4号を見落とさないよう、身体を移動するなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素定置網の南側に魚釣り船など錨泊船を見かけたことがなかったので、前方には航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、4号の存在と接近とに気付かず、錨泊中の同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、プロペラ及び舵に曲損をそれぞれ生じ、4号の左舷中央部外板に破口を生じさせ、また、4号の同乗者に脳挫傷を負わせて死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、和歌山県湯浅湾において、錨泊して魚釣りを行っていたとき、丸宮丸が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを知った場合、機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうちに同船が避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま錨泊を続けて丸宮丸との衝突を招き、前示の損傷と同乗者の死亡とを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:29KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION