日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年神審第7号
件名

旅客船美晴丸プレジャーボート藤丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月9日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正)

理事官
清重隆彦

受審人
A 職名:美晴丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:藤丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
美晴丸・・・船首部に擦過傷
藤 丸・・・船外機などに損傷、船長が腰部打撲傷

原因
美晴丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険・衝突回避措置)不遵守(主因)
藤 丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、美晴丸が、見張り不十分で、無難に航過した藤丸に対し新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、藤丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月8日06時05分
 兵庫県東播磨港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船美晴丸 プレジャーボート藤丸
登録長 11.60メートル 6.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 279キロワット 5キロワット

3 事実の経過
 美晴丸は、FRP製旅客船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客3人を乗せ、瀬渡しの目的で、船首0.20メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成12年11月8日05時55分兵庫県東播磨港の喜瀬川口右岸にある船だまりを発し、所定の灯火を掲げ、同港港口の西防波堤に向かった。
 A受審人は、06時02分少し前東播磨港別府防波堤灯台(以下「別府防波堤灯台」という。)から110度(真方位、以下同じ。)1,210メートルの地点において、針路を新島公共ふ頭北側に沿う278度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、操舵室中央部のいすに座って手動操舵により進行した。
 ところで、美晴丸は、全速力で航行すると船首が浮き上がり、いすに座った状態で船首方を見るとき、正船首から左右各舷5度の間が死角となっていた。
 06時04分A受審人は、日出近くで周囲がかなり明るくなった状況下、別府防波堤灯台から125度570メートルの地点に達したとき、右舷船首13度175メートルのところに、南下中の藤丸を視認することができる状況にあったが、針路目標の新島公共ふ頭北西端付近を見ることに気を取られ、右舷前方の同船を見落とさないよう、見張りを十分に行っていなかったので、藤丸の存在に気付かず、同時04分半わずか前同船が船首方を100メートル隔てて無難に左方へ航過したことを知る由もなかった。
 こうして、A受審人は、06時04分半少し過ぎ別府防波堤灯台から139度390メートルの地点に達したとき、目的地に向けて左舵をとり、針路を234度に転じたところ、正船首方50メートルを先行する藤丸に向かうこととなり、死角に入った同船に対し新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたことに気付かず、右転するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、06時05分別府防波堤灯台から154度400メートルの地点において、美晴丸は、原針路原速力のまま、その船首部が、藤丸の船尾中央部に後方から平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風はなく、日出は06時28分であった。
 また、藤丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りを行う目的で、船首尾とも0.14メートルの喫水をもって、同日05時50分東播磨港の喜瀬川口左岸にある船着場を発し、日出前であったものの、所定の灯火を掲げないまま、同港港口の西防波堤北側の釣り場に向かった。
 B受審人は、05時58分半別府防波堤灯台から113度1,170メートルの地点において、針路を新島公共ふ頭北側に沿う288度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.0ノットの速力で、舵柄による操舵に当たって進行した。
 06時03分半B受審人は、別府防波堤灯台から121度430メートルの地点に達したとき、西防波堤に向かうため針路を234度に転じて続航したところ、同時04分左舷船尾57度175メートルのところに、日出近くで周囲がかなり明るくなった状況下、西行中の美晴丸の船影と白、緑2灯を視認することができる状況にあったが、目的地の西防波堤を見ることに気を取られ、左舷前方の同船を見落とさないよう、見張りを十分に行っていなかったので、美晴丸の存在に気付かず、同時04分半わずか前同船の船首方を100メートル隔てて無難に航過したことを知る由もなかった。
 B受審人は、06時04分半少し過ぎ別府防波堤灯台から147度390メートルの地点に達したとき、美晴丸が正船尾方50メートルのところで左転し、自船の正船尾に向けて針路を転じ、新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたことに気付かず、右転するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、藤丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、美晴丸は船首部に擦過傷を生じ、藤丸は補助機関の船外機などに損壊を生じたが、のち修理され、また、B受審人が腰部打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、日出前の薄明時、兵庫県東播磨港において、美晴丸が、見張り不十分で、無難に航過した藤丸に対し新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、藤丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出前の薄明時、兵庫県東播磨港を発航して同港港口の西防波堤に向かって航行する場合、右舷前方の藤丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、針路目標の新島公共ふ頭北西端付近を見ることに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船の存在に気付かず、船首方を無難に左方へ航過した藤丸に対し左転し、新たな衝突のおそれのある関係を生じさせ、その後右転するなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、美晴丸の船首部に擦過傷を、藤丸の補助機関の船外機などに損壊をそれぞれ生じさせたほか、B受審人に腰部打撲傷を負わせるに至った。
 B受審人は、日出前の薄明時、兵庫県東播磨港を発航して同港港口の西防波堤に向かって航行する場合、左舷前方の美晴丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、目的地の西防波堤を見ることに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船の存在に気付かず、美晴丸の船首方を無難に航過したのち、同船が左転して新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたことに気付かず、右転するなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行して美晴丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。


参考図
(拡大画面:33KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION