(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月27日08時10分
静岡県浜名港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船成丸 |
漁船喜勇丸 |
総トン数 |
3.42トン |
1.55トン |
全長 |
9.32メートル |
7.92メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
136キロワット |
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漁船法馬力数 |
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25 |
3 事実の経過
成丸は、一本つり漁業に従事する船体後部に操舵室があるFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、主機の作動確認及びバッテリーを充電する目的で、船首0.2メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成13年2月27日08時00分静岡県浜名港向島物揚場第2岸壁を発し、同港沖合に向かった。
ところで、A受審人は、毎年3月から7月までの間成丸をかつお引き縄漁に運航しており、他の期間は発航地に係留しておき、自らが浜名湖内であさり採取漁業に従事する傍ら、約2週間ごとに同船の船体の点検と主機の暖機運転とを行っていた。同受審人は、発航当日が魚市場の休場に合わせて休漁日であったことに加え、海上が穏やかであったことから、浜名港口から沖合約500メートルまで往復約30分間航行するつもりで、発航に至ったものであった。また、同受審人は、成丸の操舵室左舷側に設けたいすに腰掛けると、係留中でも船首部が幅約1メートルにわたって水平線より上になり、船首死角が生じるため、平素、航行中には同室天井に設けた縦横それぞれ約40センチメートルの開口部から頭部を出し、同死角を補う見張りを行っていた。
こうして、A受審人は、08時08分半浜名港背割堤灯標(以下「背割堤灯標」という。)から270度(真方位、以下同じ。)70メートルの地点で、針路を浜名港の港口東導流堤(以下「東導流堤」という。)と港口西導流堤(以下「西導流堤」という。)とで挟まれる水路(以下「港口水路」という。)のほぼ中央に向く180度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの上げ潮流に抗して11.6ノットの対地速力で、操舵室のいすに腰掛けて右手で舵輪を持ち、手動操舵により進行した。
定針時にA受審人は、正船首540メートルのところに喜勇丸を認めることができ、その後同船が船首を南に向けて停留していることを知ることができる状況であったが、当日が休漁日で出漁している漁船がいないので、前路の港口水路に他船はいないものと思い、操舵室天井から頭部を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、喜勇丸に気づかず、同じ針路、速力のまま続航した。
08時09分少し前A受審人は、背割堤灯標から212度140メートルの地点に達したとき、喜勇丸が正船首425メートルとなり、その後同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、船首死角を補う見張りを行っていなかったので、このことに気づかず、同船を避けないまま進行中、08時10分背割堤灯標から187.5度550メートルの地点において、成丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、喜勇丸の船尾左舷側に後方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
また、喜勇丸は、採介藻漁業に従事するFRP製漁船で、四級小型船舶操縦士免状が失効中のB受審人が、W所有者から借り受けて1人で乗り組み、ボラつり遊漁の目的で、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日07時30分静岡県舞阪漁港を発し、港口水路の釣場に向かった。
07時45分B受審人は、前示釣場に到着し、針路を折からの上げ潮流に向かう190度に定め、潮流に圧流されないよう機関を極微速力前進にかけ、他船から見れば停留した状態で、テグスに3本爪の鉤針をつけた釣糸による手釣りを始めた。
08時09分少し前B受審人は、前示衝突地点で、船尾方を向いて釣糸のあたりを確認しているとき、右舷船尾10度425メートルのところに、港口水路を南下する成丸を初めて認め、その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、成丸を初認したときにちょうど鉤針にボラがかかり、これを取り込むことに気を奪われ、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うことなく、このことに気づかず、速やかに機関を使用して移動するなど衝突を避けるための動作をとらずに、釣糸を取り込みながら停留中、喜勇丸は、原針路のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、成丸は船首部に擦過傷を生じただけであったが、喜勇丸は船尾外板に圧壊を生じ、のち廃船処理された。また、B受審人は衝突の衝撃で転倒して軽傷を負った。
(原因)
本件衝突は、静岡県浜名港において、港口水路を航行中の成丸が、船首死角を補う見張りが不十分で、潮流に抗し、機関を使用して同水路で停留している状態の喜勇丸を避けなかったことによって発生したが、喜勇丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、静岡県浜名港において、同港港外に向けて港口水路を航行する場合、船首に死角が生じることを知っていたから、前路で停留している状態の喜勇丸を見落とさないよう、操舵室天井開口部から頭部を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、当日が休漁日で出漁している漁船がいないので、前路の港口水路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、喜勇丸に気づかず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、成丸の船首部に擦過傷及び喜勇丸の船尾外板に圧壊をそれぞれ生じさせ、B受審人に軽傷を負わせるに至った。
B受審人は、静岡県浜名港において、港口水路で潮流に抗して機関を使用し、他船から見れば停留している状態で遊漁中、港口水路を南下する成丸を認めた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかが分かるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、成丸を初認したときにちょうど鉤針にボラがかかり、これを取り込むことに気を奪われ、引き続き同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、成丸の接近状況に気づかず、速やかに機関を使用して移動するなど衝突を避けるための動作をとらずに停留を続けて成丸との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。