(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月17日14時23分
福島県小名浜港
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船昭慶丸 |
総トン数 |
3,080トン |
全長 |
105.25メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
3,089キロワット |
3 事実の経過
昭慶丸は、平成4年1月に進水した、可変ピッチプロペラ及びバウスラスタを備えた船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人ほか12人が乗り組み、空倉のまま、船首2.65メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成13年2月16日14時15分北海道知内町所在の北海道電力株式会社知内火力発電所専用桟橋を発し、福島県小名浜港に向かった。
ところで、主機及び可変ピッチプロペラの遠隔操縦は、船橋操縦盤に組み込まれたテレグラフハンドルの操作で行い、前進の場合、港内速力では主機回転数が毎分170のまま、翼角が0度から港内全速力の16.0度まで変わるように、航海速力では翼角が16.0度のまま、主機回転数が毎分170から航海全速力の毎分190まで変わるようにプログラムされており、後進の場合も主機回転数及び翼角がプログラムされていた。
また、可変ピッチプロペラ操縦モードには、通常時の前示テレグラフハンドルによるフォローアップ操縦モードのほか、非常時の前・後進押しボタンスイッチによって手動で翼角を変えるノンフォローアップ操縦モードがあり、操縦モード切り替えのためのフォロー・ノンフォロー切替えスイッチ、同スイッチの表示灯及び前・後進押しボタンスイッチが、いずれも操縦盤のテレグラフハンドル右横に組み込まれていた。
翌17日13時ごろA受審人は、小名浜港入港準備のためC重油をA重油に切り替えるなどしたのち、通常船橋において機関の遠隔操作を担当している一等機関士が機関室内の作業で手が離せなかったことから、自ら昇橋して機関の遠隔操作に当たった。
14時06分昭慶丸は、船長が入港スタンバイを令して指揮に当たり、甲板手が操舵に、一等航海士ほか3名が船首、二等航海士ほか3名が船尾、一等機関士及び二等機関士が制御室の入港配置にそれぞれ就き、主機回転数毎分190翼角16.0度の13.0ノット(対地速力、以下同じ。)の航海全速力前進で小名浜港に接近した。
14時10分昭慶丸は、小名浜港第2西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から195度(真方位、以下同じ。)1,220メートルの地点で、針路を第2西防波堤と第1西防波堤との間の防波堤入口の中央部に向く025度に定めるとともに、港内全速力前進の令を受けたA受審人が、テレグラフハンドルを航海全速力前進から港内全速力前進に操作したところ、翼角16.0度のまま主機回転数が所定の毎分170に下がり、速力が10.0ノットに低下した。
14時14分船長は、西防波堤灯台から096度200メートルの防波堤入口の中央部に達したとき、針路を第1西防波堤と平行になる010度に定め、港内半速力前進を令した。これを受けてA受審人は、テレグラフハンドルを港内半速力前進に操作したところ、フォロー・ノンフォロー切替えスイッチが、いつの間にかノンフォロー側に切り替わっていたため翼角が追従せず、翼角指示計で16.0度のまま所定の10.0度に下がらないのを認めた。
ところが、A受審人は気が動転し、フォロー・ノンフォロー切替えスイッチの表示灯を見るなどして、可変ピッチプロペラ操縦モードを確認しなかったので、同スイッチがノンフォロー側にあることに気付かず、テレグラフハンドルの操作を繰り返しただけで、船長に翼角が追従不能となったことを報告し、船長の指示を仰がないまま制御室の一等機関士に主機停止を令した。
この報告を受けた船長は、14時17分少し前西防波堤灯台から024度900メートルの地点に達したところで、着岸予定の4号ふ頭に進入するための033度に転じて進行したが、同ふ頭まで距離がなかったうえ、その時点では主機の回転が下がり始めないので、一旦港奥に向け航行しながら速力を減ずることとして右転を続け、19分同灯台から027度1,560メートルの地点でようやく主機が停止し、20分同灯台から030度1,950メートルの地点で、港奥に向く056度に転じた。
こうして昭慶丸は、前進惰力が大きく投錨できない状態で続航し、14時22分西防波堤灯台から035度2,420メートルのところで、反転するため舵及びバウスラスタを最大限使用して左回頭したものの、主機停止のため十分な回頭惰力が得られず、同時23分同灯台から032度2,640メ−トルの地点において、320度に向首して5.4ノットの行きあしとなったとき、右舷船首部が2号ふ頭岸壁の西先端付近に60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
衝突の結果、昭慶丸は右舷球状船首及び右舷船尾外板に凹損を生じ、岸壁に亀裂等の損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件岸壁衝突は、入港着岸のため福島県小名浜港港内を航行中、可変ピッチプロペラの翼角がテレグラフハンドルの操作に追従しなかった際、同プロペラ操縦モードの確認が不十分で、ノンフォローアップ操縦モードのまま操縦し、翼角を制御できなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、入港着岸のため福島県小名浜港港内を航行中、テレグラフハンドルを港内全速力前進から港内半速力前進に操作し、翼角が追従していないのを認めた場合、可変ピッチプロペラ操縦モードがフォローアップ操縦モードになっていない可能性があったから、フォロー・ノンフォロー切替えスイッチの表示灯を見るなどして、同プロペラ操縦モードの確認を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、気が動転し、同プロペラ操縦モードの確認を行わなかった職務上の過失により、同プロペラ操縦モードがノンフォロー側に切り替わっていることに気付かず、翼角追従不能のまま進行して岸壁衝突を招き、右舷球状船首及び右舷船尾外板に凹損を生じ、岸壁を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。