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平成14年仙審第7号
件名

遊漁船明神丸漁船金比羅丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月14日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(上中拓治)

副理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:明神丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:金比羅丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
明神丸・・・右舷船尾部に損傷、乗客1人が腕、腰及び大腿部に打撲傷
金比羅丸・・・左舷船首部に破口

原因
金比羅丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主 因)
明神丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、金比羅丸が、見張り不十分で、前路で漂泊していた明神丸を避けなかったことによって発生したが、明神丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月10日06時40分
 福島県松川浦漁港沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船明神丸 漁船金比羅丸
総トン数 10トン 6.2トン
全長 19.10メートル 16.47メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 496キロワット 382キロワット

3 事実の経過
 明神丸は、FRP製遊漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、乗客10人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成12年5月10日05時15分福島県松川浦漁港を出港し、同漁港沖合の釣り場に向かった。
 05時45分A受審人は、鵜ノ尾埼灯台から063度(真方位、以下同じ。)6.7海里の地点に至り、機関を中立運転として漂泊し、乗客の魚釣りを開始した。
 06時36分A受審人は、前示地点で漂泊を続け、操舵室から乗客の釣りの様子を見守っていたとき、110度に向首した自船の右舷船尾20度1.0海里のところに、自船に向首して接近してくる金比羅丸を視認することができたが、次々に魚が釣り上げられることに気を奪われ、周囲の見張りが不十分となり、同船に気付かなかった。
 A受審人は、その後も金比羅丸が衝突のおそれのある態勢で接近してくることに気付かず、警告信号を行うことも、クラッチを入れて移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けているうち、06時40分わずか前乗客の1人の叫び声により同船が至近距離に迫っているのを初めて認めたが、どうすることもできないまま、同時40分前示地点において、明神丸は、その船首が110度に向首したまま、右舷船尾に金比羅丸の左舷船首部が後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、金比羅丸は、船びき網漁に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、こおなご漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日03時55分同県釣師浜漁港を出港し、同漁港沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、海岸線から5ないし6海里離れたところでしばらく操業したのち、僚船より沖合の漁模様が良いとの無線連絡を受け、沖出しすることとし、06時32分鵜ノ尾埼灯台から053度5.0海里の地点で、機関を港内全速力に相当する毎分1,500回転にかけて移動を開始し、090度の針路及び15.0ノットの対地速力で進行した。
 ところで、金比羅丸は、機関を前示回転数にして航走すると、船首が著しく浮上して正船首方向に死角ができるので、船首を左右に振るなどの死角を補う見張りを十分に行う必要があった。
 06時36分B受審人は、鵜ノ尾埼灯台から059度5.8海里の地点に達したとき、正船首1.0海里のところに、明神丸が漂泊していたが、そのころ魚群探知器を見たり、無線の聴取に気を奪われていて、船首を左右に振るなどの死角を補う見張りを十分に行わなかったので、死角に入っていた明神丸に気付かなかった。
 B受審人は、その後も明神丸に気付かず、同船を避けることなく続航し、金比羅丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、明神丸は右舷船尾部に損傷を生じたほか乗客1人が腕、腰、大腿部に打撲傷などを負い、金比羅丸は左舷船首部に破口を伴う損傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、福島県松川浦漁港沖合において、金比羅丸が、漁場を移動するために航走中、見張り不十分で、前路で漂泊していた明神丸を避けなかったことによって発生したが、明神丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、松川浦漁港沖合において、漁場を移動するために航走中、船首の浮上により船首方向に死角ができている場合、前路の船舶を見落とさないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚群探知器を見たり、無線の聴取に気を奪われて死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の明神丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、明神丸の右舷船尾部及び自船の左舷船首部にそれぞれ損傷を生じさせ、明神丸の乗客1人が腕、腰、大腿部に打撲傷などを負うに至った。
 A受審人は、松川浦漁港沖合において、乗客の魚釣りのために漂泊する場合、衝突のおそれのある態勢で接近する他の船舶を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、次々に魚が釣り上げられることに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、金比羅丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもないまま同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じるに至った。


参考図
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