日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年長審第1号
件名

漁船第二十三錦生丸漁船浙漁(チェーリンユン)7516衝突事件
二審請求者〔補佐人村上 誠、補佐人儀部和歌子〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年4月24日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、亀井龍雄、河本和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第二十三錦生丸船長 海技免状:五級海技士(航海)免状

損害
錦生丸・・・右舷船首部外板に破口を伴う凹損
浙号・・・右舷後部外板に破口、浸水し沈没

原因
錦生丸・・・動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
浙号・・・動静監視不十分、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二十三錦生丸が、動静監視不十分で、漁ろうに従事する浙漁7516の進路を避けなかったことによって発生したが、浙漁7516が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月9日16時10分
 東シナ海

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十三錦生丸 漁船浙漁7516
総トン数 133トン 122トン
全長   31.47メートル
登録長 29.80メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット 235キロワット

3 事実の経過
 第二十三錦生丸(以下「錦生丸」という。)は、船体中央部に船橋を有する鋼製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、船首1.4メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、いか一本釣り漁の目的で、平成13年10月8日08時40分福岡県博多港を発し、東シナ海の漁場に向かった。
 A受審人は、甲板員2人と3人で4時間交替で船橋当直を行いながら九州西岸を南下し、男女群島南方海域を経て翌9日09時30分東シナ海の北緯30度52分東経127度27分ばかりの地点に至ったとき、単独で船橋当直に就き、操舵室左舷寄りのレーダーの前のいすに腰を掛け、針路を210度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、いすに腰を掛け、時折レーダーを監視しながら当直を行っていたところ、14時ごろ次直の甲板員が昇橋し、当直を交替する旨の申し出があったが、夕方から操業を始める予定であったことから、休息しているようにと指示をして、引き続き当直を行いながら南下した。
 15時40分A受審人は、北緯30度03.2分東経126度54.5分ばかりの地点に達したとき、前方7海里ばかりに中華人民共和国の底びき漁船と思われる大漁船群の映像を認め、間もなく、左舷船首38度6海里に1隻だけ群から離れた浙漁7516(以下「浙号」という。)の映像を視認し、同船が接近するので、これを適宜監視していたところ、同時55分同映像が左舷船首18度2.3海里となったことから、無難に前路を通過するものと思い、その動静を監視することなく進行した。
 A受審人は、その後浙号が投網を始め、16時00分左舷船首13度1.5海里のところから291度に向首してえい網を開始し、同船と衝突のおそれが生じ、浙号を視認すれば同船が漁ろうに従事していることが分かる状況にあったが、肉眼で同船を確認したり、引き続きレーダー映像を監視することなく、前方の漁船群の左右いずれを航過しようか考えていたので、このことに気付かず、その後も浙号と衝突のおそれのある態勢で接近し、同時03分少し過ぎ1海里となったが、同船の進路を避けないで続航中、16時10分北緯29度59.3分東経126度52.0分ばかりの地点において、錦生丸の船首が浙号の右舷中央部に後方から81度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力6の北西風が吹き、視程は3海里であった。
 また、浙号は、鋼製底びき網漁船で、船長Rほか7人が乗り組み、船首1.5メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同年9月29日12時00分中華人民共和国温 を発し、東シナ海の漁場に向かった。
 浙号は、東シナ海南部から操業を繰り返しながら北上し、越えて10月9日15時30分漁場を移動し、16時00分北緯29度59.2分東経126度52.4分の日本国排他的経済水域において投網を終え、針路を291度に定め、2.2ノットのえい網速力で手動操舵によって進行した。
 R船長は、えい網を開始したとき、右舷船首86度1.5海里のところを南下する錦生丸と衝突のおそれが生じ、16時03分少し過ぎ右舷船首86度1.0海里に同船のレーダー映像を初めて視認し、その後錦生丸と衝突のおそれのある態勢で互いに接近していたが、同船を僚船と思い、その動静監視を行わなかったので、このことに気付かず、錦生丸に避航の気配がなかったものの、警告信号を行わず、更に接近しても衝突を避けるための協力動作もとらないで続航中、同時10分少し前至近に迫った錦生丸を認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、錦生丸は右舷船首部外板に破口を伴う凹損を生じ、浙号は右舷後部外板に破口を生じて浸水し、間もなく沈没した。
 浙号乗組員は、全員錦生丸に救助された。

(原因)
 本件衝突は、東シナ海の日本国排他的経済水域において、錦生丸が、動静監視不十分で、漁ろうに従事する浙号の進路を避けなかったことによって発生したが、浙号が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、東シナ海を漁場向け航行中、レーダーで前路を右方に航過する態勢の底びき漁船らしき映像を視認した場合、同船の動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、無難に航過するものと思い、浙号の動静監視を行わなかった職務上の過失により、漁ろうに従事している浙号と衝突のおそれのあることに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、錦生丸の右舷船首部外板に破口を伴う凹損を生じさせ、浙号の右舷外板に破口が生じ、沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:15KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION