(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年7月2日17時27分
沖縄島南東方沖の北太平洋
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八幸丸 |
総トン数 |
19.98トン |
登録長 |
14.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
190 |
船種船名 |
貨物船マースクシー |
総トン数 |
27,887トン |
全長 |
157.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
8,973キロワット |
3 事実の経過
第十八幸丸(以下「幸丸」という。)は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成13年6月28日18時00分沖縄県泊漁港を発し、沖縄島南東方750海里の北緯16度00分東経136度00分付近の漁場に向かった。
A受審人は、発航時、漁場の南南東方に発達中の熱帯低気圧が西進していることを知り、いずれ台風となることが予想されたので、その動静に注意しながら南下し、越えて7月1日早朝南東方からの波浪が強まったので針路を東方に転じ、20時00分機関を中立運転として漂泊を開始した。
翌2日06時00分A受審人は、南東方からの波浪が更に強まったので、北上して避航することとし、針路を045度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を微速力前進に掛け、3.0ノットの対地速力で進行しているうち、09時00分熱帯低気圧が台風4号となり、発達しながら北西進していることを知った。
16時00分A受審人は、北緯21度48分東経134度7分の地点で、単独の船橋当直に就き、台風の影響による風力7の東北東風と東寄りのうねりとを右舷側から受け、白波の立った状況下、レーダーを作動させていたが、主に肉眼による見張りを行い、左右各舷に5ないし10度の船首振れを伴いながら、同じ針路、速力で、自動操舵により進行した。
A受審人は、沖縄県漁業無線局が17時00分から10分間にわたって発信する台風情報を聴取することとしたが、無線室は操舵室右舷後方にあり、同室からは前方の見張りができなかったものの、周囲に他船を認めなかったので大丈夫と思い、休息中の甲板員を昇橋させて見張りを行わせることなく、操舵室を離れて台風情報の聴取を始めた。
17時10分A受審人は、台風情報の聴取を終えたが、その後、無線室に留まって天気図等の検討に当たる傍ら、僚船間で台風についての連絡を取りあっている交信を傍受していた。
17時21分半少し前A受審人は、左舷船首9度2.0海里のところにマースク シー(以下「マ号」という。)を視認でき、その後ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、僚船間の無線交信の傍受に気を取られていてこれに気付かず、マ号の左舷側を通過することができるように針路を右に転じず、同じ針路のまま進行した。
幸丸は、17時27分北緯21度51分東経134度10分の地点において、その右舷側が、原針路、原速力のまま、マ号の右舷船首部に前方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力7の東北東風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、衝撃を感じて衝突に気付き、事後の措置にあたった。
また、マ号は、船首船橋型の自動車運搬船で、E船長、B指定海難関係人ほか22人が乗り組み、自動車1,814台3,026.7トンを載せ、船首7.30メートル船尾7.85メートルの喫水をもって、平成13年6月30日15時54分京浜港横浜区を発し、オーストラリアフリーマントル港に向かった。
越えて7月2日15時00分E船長は、台風4号が北西進することから避航することとし、針路を215度に定め、機関を全速力前進に掛け、18.5ノットの対地速力で進行した。
16時00分B指定海難関係人は、北緯22度13分東経134度27分の地点で、単独の船橋当直に就き、台風の影響による風力7の東北東風と東寄りのうねりとを左舷側から受け、白波の立った状況下、レーダーを2台作動させていたが、主に肉眼による見張りを行い、左右各舷に2度の船首振れを伴いながら、同じ針路、速力で、自動操舵により続航した。
17時21分B指定海難関係人は、折から入電した台風情報と航海情報の整理作業を行うため海図台に赴き、その後、見張りを行うことなく、同作業を続けた。
17時21分半少し前B指定海難関係人は、右舷船首1度2.0海里のところに幸丸を視認でき、その後ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、台風情報等の整理作業を行っていてこれに気付かず、幸丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じず、原針路、原速力のまま進行中、前示のとおり衝突した。
B指定海難関係人は、衝撃音を聞いて右舷ウイングに出たところ幸丸を認めて衝突したことに気付き、また、E船長は、自室で休息していたところ衝撃を感じて昇橋し、幸丸とVHFにより交信を試みたが応答が得られず、同船の近くを約20分間旋回して様子を見守っていたが異状を認められなかったことから、同船に支障はないものと判断し、航行を再開した。
衝突の結果、マ号は、右舷船首部外板に軽微な凹損を生じたのみであったが、幸丸はマストを折損し、右舷側外板が損傷して破口から浸水し、排水しながら帰航中、翌3日05時20分機関室に浸水を生じて航行不能となり、乗組員は随伴していた僚船に移乗し、船体は放棄された。
(原因)
本件衝突は、台風の影響による荒天下、沖縄島南東方沖の北太平洋において、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、幸丸が、見張り不十分で、マ号の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったことと、マ号が見張り不十分で、幸丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、台風の影響による荒天下、単独の船橋当直に就き、沖縄島南東方沖の北太平洋を北上中、無線室で台風情報の収集を行うため船橋を離れる場合、同室からは前方の見張りができなかったのであるから、休息中の甲板員を昇橋させて見張りを行わせるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、周囲に他船を認めなかったので大丈夫と思い、休息中の甲板員を昇橋させて見張りを行わせなかった職務上の過失により、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近するマ号の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま進行して衝突を招き、マ号の右舷船首部外板に軽微な凹損を生じさせ、幸丸のマストを折損させ、右舷側外板の破口から機関室に浸水を生じさせて航行不能となり、船体を放棄するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B指定海難関係人が、台風の影響による荒天下、単独の船橋当直に就き、沖縄島南東方沖の北太平洋を南下中、台風情報等の整理作業に気を取られ、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
よって主文のとおり裁決する。