(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月2日04時10分
大分県国東半島臼石鼻東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第3貴丸 |
漁船清栄丸 |
総トン数 |
4.99トン |
4.98トン |
登録長 |
10.77メートル |
10.78メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
15 |
15 |
3 事実の経過
第3貴丸(以下「貴丸」という。)は、小型機船底びき網漁業に従事する、船体のほぼ中央部に操舵室を設け、モーターサイレンを装備したFRP製漁船で、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成12年8月1日17時00分大分県守江港を発し、臼石鼻東方沖合5海里ばかりの漁場に向かった。
ところで、貴丸の底びき網漁は、袋網及び袖網並びに網口を広げるためのビームをつけた手綱及び曳き(ひき)綱用鋼索からなる全長約220メートルの漁具を水深40メートルほどの海中に投下し、これを船尾甲板にあるネットローラーにとり、低速で約3時間曳き網したのち揚網してえび、あなご、かれいなどの底魚を漁獲するものであった。
18時00分A受審人は、前示漁場に到着して操業を開始し、やがて日没となったとき、マスト灯、舷灯一対及び船尾灯を表示したほか、操舵室上のマストにトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑、白の全周灯各1個を上下に連掲して操業を続けた。
翌2日01時15分A受審人は、3回目の投網にかかり、同時30分臼石鼻灯台から077度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点で、針路を210度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分2,000にかけ、1.2ノットの対地速力で曳き網を開始した。
このとき、A受審人は、周囲を一瞥(いちべつ)し、航行の支障となる他船がいなかったことから操舵室を離れ、60ワット及び100ワットの傘付きの作業灯で照明をした船尾甲板において、甲板員とともに、漁獲物の選別作業に取り掛かり、その後は、30分毎に操舵室に戻り、周囲の見張りと船位の確認を行っていた。
04時00分A受審人は、臼石鼻灯台から113度3.7海里の地点に達したとき、左舷正横後34度1,300メートルのところに清栄丸の白、緑2灯を視認でき、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、30分前に操舵室に戻って周囲を見まわしたとき、他船が見当たらなかったことから大丈夫と思い、漁獲物の選別作業も終わりに近づいていたので同作業に専念し、操舵室に戻ることなく、周囲の見張りを十分に行わなかったのでこのことに気付かなかった。
こうしてA受審人は、左舷後方から接近する清栄丸に気付かないで、装備しているモーターサイレンを使用して警告信号を行うことなく進行中、04時10分臼石鼻灯台から116度3.7海里の地点において、貴丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部に、清栄丸の船首が、後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期であった。
また、清栄丸は、小型機船底びき網漁業に従事する、船体のほぼ中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、8月1日16時00分大分県大神漁港を発し、安岐埼東方沖合6海里ばかりの漁場に向かった。
17時40分B受審人は、前示漁場に到着して操業を開始し、あじ、車えび、あなご等合計100キログラムを漁獲したので操業を終え、翌2日03時30分臼石鼻灯台から097度6.6海里の地点で、針路を255度に定めて自動操舵とし、マスト灯、舷灯一対及び船尾灯を表示し、機関を半速力にかけて、5.0ノットの対地速力で帰途に就いた。
発進後B受審人は、周囲を一瞥して、航行の支障となる他船がいなかったことから操舵室を離れ、100ワットの作業灯4個で照明をした船尾甲板において、漁獲物の選別作業にあたり、04時00分臼石鼻灯台から109度4.35海里の地点に達したとき、右舷船首11度1,300メートルのところに、貴丸が表示するトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑、白2灯及び作業灯を視認でき、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、周囲に他船はいないものと思い、漁獲物の選別作業に専念し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、B受審人は、低速力で前進しながらトロールにより漁業に従事している貴丸に気付かないで、同船の進路を避けないまま進行中、清栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、貴丸は左舷船首外板に破口を生じ、清栄丸は右舷船首部に擦過傷を生じたが、貴丸はのち修理された。
また、貴丸の甲板員が衝突時の衝撃で転倒し、頭部外傷及び前額部挫傷を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、大分県臼石鼻東方沖合において、清栄丸が操業を終え帰港する際、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している貴丸の進路を避けなかったことによって発生したが、貴丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、大分県臼石鼻東方沖合において、操業を終え帰港する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船尾甲板において漁獲物の選別作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を低速力で前進しながらトロールにより漁ろうに従事している貴丸に気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、清栄丸の右舷船首部に擦過傷を、貴丸の左舷船首部外板に破口をそれぞれ生じさせ、貴丸の甲板員に頭部外傷及び前額部坐創を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
A受審人は、夜間、大分県臼石鼻東方沖合において、トロールにより漁ろうに従事する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、船尾甲板において漁獲物の選別作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷後方から接近する清栄丸に気付かず、装備したモーターサイレンにより警告信号を行うことなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。