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平成13年門審第70号
件名

漁船第二共福丸漁船大洋丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年4月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、西村敏和、島 友二郎)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第二共福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:大洋丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第二共福丸漁ろう長

損害
共福丸・・・球状船首に凹損を伴う擦過傷
大洋丸・・・右舷後部外板に破口、浸水し沈没

原因
共福丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
大洋丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二共福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の大洋丸を避けなかったことによって発生したが、大洋丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月1日03時00分
 山口県見島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二共福丸 漁船大洋丸
総トン数 85トン 75.55トン
登録長 28.30メートル  28.28メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット 529キロワット

3 事実の経過
 第二共福丸(以下「共福丸」という。)は、専ら沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首1.50メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、平成12年4月27日22時00分鳥取県境港を発し、翌28日08時00分山口県見島北方沖合45海里付近の漁場に至って操業を開始した。
 ところで、共福丸においては、航海当直部員の認定を受けたB指定海難関係人が、漁ろう長兼機関長として乗り組んでおり、漁場の決定や新しい漁場に移動する時機を含め、投網、曳網(えいこう)及び揚網などの操業全般にわたって指図していたものであるが、船長であるA受審人は、同指定海難関係人を指揮及び監督する職位にあった。
 A受審人は、出港したのち、乗組員の労働時間が平均するよう、同人を含めた甲板部の乗組員が漁港から漁場までの往復航及び曳網中に、B指定海難関係人が投網及び揚網並びに漁場を移動する際の航行中に、それぞれ単独で入直する船橋当直態勢としていたが、操業が連続するようになると、漁獲した魚の選別や破損した網の補修などの新たな作業が次々と派生するようになり、B指定海難関係人は、その都度、漁ろう長として要所において直接指図していたことから、睡眠不足となることが否めない状況であった。
 A受審人は、漁場を移動する際、B指定海難関係人が単独で船橋当直に当たる場合、前示のように睡眠不足となることが否めない状況であったことから、居眠り運航とならないよう、眠気を催したならば速やかに報告する旨を明確に指示する必要があったが、同指定海難関係人が、航海当直部員の認定を受けており、また、漁ろう長という責任ある職務に就いていたので、特に指示しなくても職責に鑑みて(かんがみて)無難に対応してくれるものと思い、その旨の明確な指示を行わなかった。
 B指定海難関係人は、前示漁場に至ったのち、連続して操業を行っていたところ、予備を含めた3カワ(カワ:網の俗称。)の曳き網が全て破損したことから、翌々30日18時30分一旦(いったん)操業を中断して総員で網の補修に当たり、23時00分補修を終えたのち、既に操業が二昼夜以上にわたって連続して乗組員が過労気味となっていたので、同時30分しばらく仮眠を取ることとして漂泊を開始し、同指定海難関係人は操舵輪後方の床で、A受審人は船橋の仮設ベッドで、他の乗組員は船室に下がって仮眠を始めた。
 そして、B指定海難関係人は、GPSプロッターにセットしていたブザー音で、3時間ばかりの仮眠から目覚めたのち、新しい漁場に移動するため、翌5月1日02時30分北緯35度32.9分東経131度06.5分の地点を発進すると同時に、自船の西南西方4.5海里付近に、多数の作業灯を点灯して漂泊していた大洋丸の南側に向首する246度(真方位、以下同じ。)の針路に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの海流及び風潮流の影響を受けて右舷側に圧流されながら、実航針路251度、対地速力9.2ノットで、法定灯火に加えて甲板上を照らす作業灯6個を点灯して進行した。
 発進後、B指定海難関係人は、船橋右舷側の機関操縦ハンドルの後方に設けられたいすに腰を掛け、後ろの壁に寄り掛かった姿勢で見張りを行っていたところ、それまでの操業による疲れや睡眠不足などが起因して眠気を覚えるようになったが、今し方仮眠を終えたばかりであったので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、船橋の仮設ベッドで仮眠中の船長に報告して当直を交替するか、または、2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置を取ることなく続航し、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、02時53分半B指定海難関係人は、北緯35度31.7分東経131度02.4分の地点に達したとき、右舷船首5度1.0海里のところに、多数の作業灯を点灯して漂泊中の大洋丸を視認することができ、その後、その方位に変化がないことや接近模様などから、同船の行きあしがあるか否かを判別できる状況となったが、居眠りに陥っていたため、このことに気付かず、同船を避けることなく進行中、03時00分北緯35度31.4分東経131度01.1分の地点において、共福丸は、原針路、原速力で、その船首が、大洋丸の右舷後部に前方から66度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、視界は良好であり、付近海域には北東へ流れる約1ノットの海流があった。
 A受審人は、前示ベッドで仮眠中、B指定海難関係人からの報告を受けて衝突の事実を知り、事後の措置に当たった。
 また、大洋丸は、専ら沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、C受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、4月28日18時00分鳥取県境港を発し、山口県見島北方沖合約45海里の漁場へ向かった。
 翌29日06時00分C受審人は、漁場に至り、約一昼夜半にわたって操業を行ったのち、明くる30日22時30分次の漁場へ向かって移動を開始した。
 5月1日01時00分C受審人は、新しい漁場に至ったところ、05時00分の操業開始予定時刻まで4時間ばかり余裕があったことから、しばらく仮眠を取ることとし、前示衝突地点付近で、行きあしを停止して機関を中立運転としたまま、法定灯火の他に甲板上を照らす作業灯を点灯して漂泊を開始した。
 そして、C受審人は、自船が、行きあしを停止したうえ、作業灯を煌々(こうこう)と点灯していたことから、接近する他船が自船の存在に容易に気付いて避航してくれるものと思い、また、次の操業に備えてなるべく全員に睡眠を取らせようと思い、他の乗組員に船橋当直を命ずることなく、見張り員を立てないまま船橋の仮設ベッドで仮眠を始めた。
 02時53分半C受審人は、右舷船首66度1.0海里のところに自船に接近する共福丸の白、白、緑、紅の4灯を視認することができ、その後、同船と衝突のおそれがある状況となったが、見張り員を立てず、船橋の仮設ベッドで仮眠していて周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、C受審人は、共福丸の接近に気付かず、注意喚起信号を行うことも、中立運転としていた機関のクラッチを入れて場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中、大洋丸は、その船首を北に向けた態勢で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、共福丸は、球状船首に凹損を伴う擦過傷を生じたが、のち修理され、大洋丸は、右舷後部外板に生じた破口から浸水して沈没するに至った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、山口県見島北方沖合において、漁場を移動中の共福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の大洋丸を避けなかったことによって発生したが、大洋丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 共福丸の運航が適切でなかったのは、船長が、航海当直部員の認定を受けた無資格者に単独で船橋当直を行わせる際、眠気を催したならば速やかに報告するよう明確に指示しなかったことと、単独で船橋当直に当たった同無資格者が眠気を催した際、その旨を船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、山口県見島北方沖合において、漁場を移動する際、航海当直部員の認定を受けた無資格者に単独で船橋当直を行わせる場合、居眠り運航とならないよう、眠気を催したならば速やかに報告するよう同人に対して明確に指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、単独で船橋当直に当たった同無資格者が、航海当直部員の認定を受けており、また、漁ろう長という責任ある職務に就いていたので、特に指示しなくても職責に鑑み無難に対応してくれるものと思い、眠気を催したならば速やかに報告するよう明確に指示しなかった職務上の過失により、船橋当直中の同無資格者が眠気を催したとき、その旨の報告を得られず、居眠り運航の防止措置をとることができないまま進行して大洋丸との衝突を招き、共福丸の球状船首に凹損を伴う擦過傷を生じさせ、大洋丸の右舷後部外板に破口を生じさせて同船を沈没させるに至った。 
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、山口県見島北方沖合において漂泊中、船橋の仮設ベッドで仮眠する場合、接近する共福丸を見落とすことがないよう、他の乗組員に船橋当直を命ずるなどして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、自船が、行きあしを停止したうえ、作業灯を煌々と点灯していたことから、接近する他船が自船の存在に容易に気付いて避航してくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する共福丸に気付かず、注意喚起信号を行うことも、機関を使用して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、眠気を催したとき、その旨を船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、その後、安全運航に努めていることに徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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