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平成14年広審第2号
件名

遊漁船ワールドIIIプレジャーボート藤原丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年4月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(?橋昭雄、坂爪 靖、横須賀勇一)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:ワールドIII船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:一級小型船舶操縦士 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
ワールドIII・・・船首外板に擦過傷
藤原丸・・・船体中央部を大破し、廃船、船長が頭部に打撲傷

原因
ワールドIII・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
藤原丸・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、航行中のワールドIIIが、見張り不十分で、前路で錨泊中の藤原丸を避けなかったことによって発生したが、藤原丸が、動静監視不十分で、注意を喚起するための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月26日07時20分
 瀬戸内海 小豆島妙見埼北方沖

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船ワールドIII プレジャーボート藤原丸
全長 15.40メートル 6.64メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 323キロワット 58キロワット

3 事実の経過
 ワールドIIIは、FRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、遊漁の目的で、釣り客6人を乗せ、船首0.8メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成13年5月26日06時30分岡山県宇野港県営桟橋を発し、香川県小豆島妙見崎東側沖の釣り場に向かった。
 ところで、ワールドIIIは、船体中央部やや後方に設けられた操舵室内の右舷側に操舵輪及びいすが取り付けられ、いすに腰掛けた姿勢で操舵を行った際の眼高が立った姿勢に比べて約20センチメートル低くなり、また航行中の機関音が高いため他船から発せられる音響などの信号の聴取が難しい状況であった。そして航行中の速力が微速力(約10ノット)時では船首は浮上しないものの、半速力(約15ノット)時では約40センチメートル浮上して前方の見通しが多少妨げられる状態となるが、全速力(約20ノット)時では船首浮上が収まり見張りに支障を生じることはなかった。
 離桟後、A受審人は、播磨灘北西部の団子瀬南側を経て小豆島北岸沿いに東行し、07時03分讃岐千振島灯台から090度(真方位、以下同じ。)480メートルの地点で、針路を072度に定め、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの速力で手動操舵により進行した。その後、妙見埼に近づくに伴って同埼西側沿岸寄りに多数の釣り船を認めるようになり、07時19分少し前機関を一時的に微速力前進に減じて注意しながら同釣り船群の北側近距離を続航した。同時19分同釣り船群を航過したところで、同じ針路のまま再び機関を半速力前進にして15ノットに増速するとき、前路約450メートルのところに錨泊中の藤原丸を視認することができ、その後同船に向首したまま接近する状況であったが、釣り船群を航過したことで、もう前方には他船がいないと思い、前路の見張りを十分に行わず、さらに半速力に増速したことにより前方の見通しも多少妨げられた状態にもなって、これに気付かず、同船を避けないまま進行中、船首わずか右至近に藤原丸の中央部から後ろ部分を認めて急いで機関を減じたが及ばず、07時20分大部港1号防波堤灯台から294度2,100メートルの地点において、ワールドIIIは、ほぼ原針路、原速力のまま、その船首が藤原丸の左舷中央部に前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、藤原丸は、長さ7メートル未満であることから汽笛の装備も錨泊船としての形象物の表示も緩和された、船体中央やや前部に屋根付き操縦席が設けられたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日04時30分岡山港を発し、05時30分小豆島妙見崎東側沖に至り、潮上りを繰り返しながら竿釣りを始めた。
 ところで、07時少し前B受審人は、持参した朝食をとるため前示衝突地点(水深約30メートル)で錨を入れ、全長200メートルの錨索(直径12ミリメートル)の約半分を延出し、風潮流などの影響で船首が297度を向き3本の竿に餌を付けて糸を垂らして錨泊を続けた。同時19分操縦席の下に置いた弁当を取り出そうとして操縦席室に首を入れたとき、自船に接近する他船の高い機関音を聞いてその方を見張ると、左舷船首45度450メートルに自船に向首したワールドIIIを初めて認め、引き続き同船が自船に向首したまま接近する状況であったが、近づけば自船を避けるものと思い、その動静監視を十分に行わず、その後同船が避航動作をとらないまま接近することに気付かなかったので、注意を喚起するための有効な音響による信号を行わず、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないまま留まり続けて船尾方で弁当を開き、ふと左舷方を見たとき、至近に迫った同船を認め、大声を発し両手を振ったが効なく、急いで船尾方から海中に飛び込むや、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ワールドIIIは船首外板に擦過傷を生じ、藤原丸は船体中央部を大破して廃船され、更にB受審人が頭部に打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、播磨灘北西部小豆島妙見崎沖において、釣り場に向け航行中のワールドIIIが、見張り不十分で、前路で錨泊中の藤原丸を避けなかったことによって発生したが、藤原丸が、動静監視不十分で、注意を喚起するための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、播磨灘北西部小豆島妙見崎沖において、遊漁客を乗せて釣り場に向かう際、単独で見張りを兼ねて操船にあたる場合、多数の釣り船が点在した水域を航行中であり、また速力の増減によっては船首が浮上して前方の見通しが多少妨げられる状態にもなるから、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、減速して釣り船群を航過したことで、もはや前方には他船がいないと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の藤原丸に気付かず、同船を避けないまま進行して、藤原丸との衝突を招き、ワールドIIIの船首部外板に擦過傷を生じさせ、藤原丸の船体中央部を大破して廃船させ、更にB受審人に頭部打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、播磨灘北西部小豆島妙見崎沖において、多数の釣り船群から離れて釣りを行いながら錨泊中、自船に向かって接近するワールドIIIを認めた場合、同船が避航動作をとるかどうか判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、近づけば自船を避けるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、ワールドIIIが避航動作をとらないまま接近することに気付かず、注意を喚起するための有効な音響による信号を行うことも、機関を使用して衝突を避けるための措置もとらないまま留まり続け、ワールドIIIとの衝突を招き、両船に前示の損傷・負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:21KB)





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