日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年神審第66号
件名

貨物船第六拾八宝来丸旅客船圭誠丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年4月11日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正)

副理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:第六拾八宝来丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:圭誠丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第六拾八宝来丸甲板員

損害
宝来丸・・・損傷ない
圭誠丸・・・右舷船首部に擦過傷、ダイビング客1人が右下腿挫滅創

原因
宝来丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
圭誠丸・・・注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第六拾八宝来丸が、見張り不十分で、錨泊中の圭誠丸を避けなかったことによって発生したが、圭誠丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月10日11時10分
 和歌山県田辺港北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第六拾八宝来丸 旅客船圭誠丸
総トン数 499トン 2.2トン
全長 71.30メートル 10.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 58キロワット

3 事実の経過
 第六拾八宝来丸(以下「宝来丸」という。)は、船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成12年10月10日10時50分和歌山県田辺港を発し、兵庫県坊勢港に向かった。
 ところで、宝来丸は、船首甲板にクレーン運転室及び同室屋根上の構造物(以下「運転室等」という。)が装備され、操舵室中央の操舵位置から船首方を見るとき、運転室等により、正船首から左右各舷3度の間が死角となっていた。
 A受審人は、10時58分少し前田辺沖ノ島灯台(以下「沖ノ島灯台」という。)から088度(真方位、以下同じ。)1,930メートルの地点において、針路を327度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力としたのち、昇橋したB指定海難関係人に単独で船橋当直を行わせることとした。
 その際、A受審人は、B指定海難関係人が海上経験豊富で、平成8年9月から本船に乗船し、単独の船橋当直に慣れているから大丈夫と思い、操舵位置から身体を移動するなど、死角を補う見張りを行うよう十分に指示することなく、同人に当直を行わせて降橋した。
 B指定海難関係人は、11時01分沖ノ島灯台から049度1,700メートルの地点で、針路を280度に転じて手動操舵により西行し、同時07分少し過ぎ同灯台から325度1,850メートルの地点に達したとき、正船首方1,000メートルのところに、船首を北西方に向けて静止している圭誠丸を視認し得る状況にあったが、同船を見落とさないよう、操舵位置から身体を移動するなど、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、圭誠丸の存在に気付かないまま続航した。
 こうして、B指定海難関係人は、風向と静止状態から錨泊中と分かる圭誠丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど、同船を避けることができないまま進行中、11時10分沖ノ島灯台から310度2,650メートルの地点において、宝来丸は、原針路原速力のまま、その左舷船首部が、圭誠丸の右舷船首部に後方から35度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、圭誠丸は、FRP製旅客船で、C受審人が1人で乗り組み、スキューバダイビング(以下「ダイビング」という。)客4人を乗せ、ダイビング支援の目的で、船首尾0.15メートルの等喫水をもって、同日10時00分田辺港を発し、同港北西方沖合のポイントに向かった。
 10時20分C受審人は、衝突地点付近に至り、水深13メートルのところで機関停止のうえ、右舷船首部から重さ20キログラムの鋼製錨を投じ、長さ1メートルのステンレス製鎖を繋いだ太さ20ミリメートル長さ100メートルの合成繊維索を延出して錨泊したのち、錨泊中であることを示す法定の形象物を表示しないまま、操舵室前部マストに他船の避航を期待する意味で国際信号旗のA旗を掲げ、まもなく客にダイビングを行わせた。
 C受審人は、自らは左舷船尾で周囲の監視に当たり、11時07分少し過ぎ、船首が315度に向いていたとき、右舷船尾35度1,000メートルのところに、来航する宝来丸を初めて視認し、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが、やがて宝来丸が避けるものと思い、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、間近に接近したとき、機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく見守るうち、同時10分少し前宝来丸が至近に迫ったとき、ようやく危険を感じ、大声で叫んだが、圭誠丸は、船首を315度に向けて、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、宝来丸は損傷がなかったが、圭誠丸は右舷船首部に擦過傷を生じ、また、ダイビング客1人が右下腿挫滅創を負った。

(原因)
 本件衝突は、和歌山県田辺港北西方沖合において、宝来丸が、見張り不十分で、錨泊中の圭誠丸を避けなかったことによって発生したが、圭誠丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 宝来丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の甲板員に単独の船橋当直を行わせるに当たり、見張りについて十分に指示を行わなかったことと、同甲板員が、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、和歌山県田辺港北西方沖合を西行中、無資格の甲板員に単独の船橋当直を行わせる場合、操舵位置から船首方に死角があったから、同方向で錨泊している他船を見落とすことのないよう、操舵位置から身体を移動するなど、死角を補う見張りを行うよう十分に指示すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、同甲板員が単独の船橋当直に慣れているから大丈夫と思い、死角を補う見張りを行うよう十分に指示しなかった職務上の過失により、同甲板員が見張り不十分で錨泊中の圭誠丸の存在と接近に気付かず、同船を避けることができないまま進行して圭誠丸との衝突を招き、同船の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、ダイビング客1人に右下腿挫滅創を負わせるに至った。
 C受審人は、和歌山県田辺港北西方沖合において、錨泊してダイビングの支援中、宝来丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った場合、機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、やがて同船が避けるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 B指定海難関係人が、単独で船橋当直に当たって和歌山県田辺港北西方沖合を西行中、操舵位置から身体を移動するなど、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。


参考図
(拡大画面:26KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION