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平成13年横審第105号
件名

貨物船清浦丸貨物船鶴形衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年4月24日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、黒岩 貢、花原敏朗)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:清浦丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:清浦丸二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:鶴形船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
清浦丸・・・右舷船首部に破口を伴う凹損
鶴 形・・・左舷前部ハッチカバーランプレール等に曲損、左舷後部外板に凹損

原因
清浦丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(主因)
鶴 形・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、清浦丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、鶴形が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月26日04時23分
 千葉県太東埼南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船清浦丸 貨物船鶴形
総トン数 674トン 499トン
全長 78.70メートル 77.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,397キロワット 1,471キロワット

3 事実の経過
 清浦丸は、専ら京浜港と塩釜港との間のコンテナ輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、コンテナ15本205.4トンを積載し、船首1.55メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成13年6月25日10時20分塩釜港仙台区を発し、京浜港東京区に向かった。
 A受審人は、船橋当直体制を単独の4時間3直制とし、08時から12時まで及び20時から24時までを自らが就き、00時から04時まで及び12時から16時までを一等航海士に、04時から08時まで及び16時から20時までをB受審人にそれぞれ受け持たせていた。
 ところで、A受審人は、平素、船橋当直のほかに出入港時には、自ら昇橋して操船指揮を執り、他の当直者に対して何かあれば知らせることや、視界制限時には予定針路線の沖側を航行するように言っていたが、狭水道通航時、船舶輻輳(ふくそう)時あるいは視界制限時には、一等航海士及びB受審人がそれぞれ船長の経験もあり、長年一緒に乗船していて何事もなかったことから、自ら指揮を執らなくても安全に運航できるものと思い、これらの状況を報告するよう指示することなく、両人に操船を任せていた。
 こうして、B受審人は、翌26日03時45分船橋当直交代のため昇橋し、折から視程約50メートルの霧模様で視界制限状態のもと、同時55分太東埼灯台から091度(真方位、以下同じ。)5.8海里の地点で、12海里レンジとしたレーダーにより、右舷船首23度10.5海里に鶴形の、同10度4海里に第三船の各映像を初めて探知した。
 04時00分B受審人は、太東埼灯台から099度5.8海里の地点で、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、引き続き針路を190度に定め、航行中の動力船の灯火を表示し、前直者が始めた自動吹鳴による霧中信号を続けたものの、A受審人から特段の指示の引継ぎがなく、また、視界の状況について同受審人への報告の有無を前直者に確かめず、その後自らも報告しないまま、安全な速力にすることもなく、機関を全速力前進にかけ、折からの北北東流に抗して10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により進行した。
 04時01分B受審人は、太東埼灯台から101度5.8海里の地点に達したとき、レーダーにより右舷船首25度8.2海里となった鶴形と、方位が変わっていない第三船とをそれぞれ探知し、第三船と著しく接近することを避けるため右舵をとり、針路を210度に転じ、右方に1度圧流されながら、10.5ノットの速力で続航した。
 B受審人は、第三船と左舷を対して航過したのち、04時14分太東埼灯台から124度5.4海里の地点に至ったとき、鶴形が右舷船首5度3.0海里となり、このまま進行すると同船と著しく接近することになる状況であったが、右転したので無難に航過できるものと思い、レーダー画面を見てはいたものの、引き続き鶴形に対するレーダープロッティング等による系統的な動静監視を十分に行うことなく、このことに気づかず、速やかに大角度の右転をするなどしてこの事態を避けるための動作をとらず、更にこのとき同船が16度右転したことにも気づかないまま、同じ針路、速力で進行した。
 04時16分B受審人は、太東埼灯台から128度5.5海里の地点に差し掛かったとき、6海里レンジに切り替えたレーダーにより鶴形を右舷船首3度2.2海里に探知し、同船と著しく接近することになる状況であると判断したが、右転後の経過時間が長くなったことや、視界制限時には沖合を航行するよう言われていたこともあり、右転してからこれまで同船の映像をずっと右舷船首方に探知していたので、左転して同船との右舷側の航過距離を離すつもりで、針路を左に転じ、当直交代時の針路である190度とし、10.5ノットの速力で続航した。
 B受審人は、転針直後にレーダーレンジを3海里に切り替えて画面を一瞥(べつ)したところ、同船を右舷船首23度2.2海里に探知し、その後鶴形と著しく接近することを避けることができないと判断し得る状況となったが、このまま右舷を対して航過できるものと思い、依然、レーダーによる動静監視が不十分で、このことに気づかず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて停止することもなく、同じ針路、速力で進行した。
 04時21分半B受審人は、太東埼灯台から136度5.9海里の地点に達したとき、ふとレーダー画面を見たところ、鶴形の映像が画面中心の海面反射の中に入って見えなくなったことに気づき、針路を左に転じたときに同船が右舷側にいたことを思い出し、更に大きく左転して同船との航過距離を離すつもりで左舵一杯にとり、同時23分少し前針路を090度に転じ、自動操舵として続航中、04時23分太東埼灯台から135度6.1海里の地点において、清浦丸は、090度の針路で原速力のまま、その船首が、鶴形の左舷前部に後方から35度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視程は約50メートルで、衝突地点付近には0.5ノットの北北東流があった。
 A受審人は、自室で休息中、船体に波浪を受けたような2回の衝撃を感じて目を覚まし、船首側の窓から船外を見たところ、右舷側に接舷した状態の鶴形を認め、急いで昇橋して事後の措置に当たった。
 また、鶴形は、専ら京浜港と塩釜港あるいは小名浜港との間のコンテナ輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、C受審人ほか4人が乗り組み、コンテナ24本560トンを積載し、船首2.60メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、同月25日22時15分京浜港横浜区を発し、小名浜港に向かった。
 C受審人は、翌26日03時50分船橋当直交代のため昇橋し、折から視程約50メートルの霧模様で視界制限状態のもと、同時55分太東埼灯台から179度8.8海里の地点で、12海里レンジとしたレーダーにより、左舷船首6度10.5海里に清浦丸の映像を初めて探知し、04時00分太東埼灯台から174度8.0海里の地点で、前直の一等航海士から単独の船橋当直を引き継ぎ、引き続き針路を039度に定め、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力にすることもなく、航行中の動力船の灯火を表示し、機関を全速力前進にかけ、折からの北北東流に乗じて左方に1度圧流されながら、13.0ノットの速力で、自動操舵により進行した。
 04時05分C受審人は、太東埼灯台から168度7.2海里の地点に達したとき、レーダーにより清浦丸を左舷船首4度6.5海里に再び探知し、引き続きレーダーにより同船の動静を監視しながら続航した。
 04時14分C受審人は、太東埼灯台から153度6.1海里の地点に差し掛かったとき、3海里レンジに切り替えたレーダーにより清浦丸を左舷船首4度3.0海里に探知し、このまま進行すると同船と著しく接近することになる状況であると判断したが、左舷側に航過する同船との距離を少し離そうと針路を055度に転じ、16度右転しただけで、より大角度の右転をするなどこの状況を避けるための動作を適切にとることなく、左方に1度圧流されながら、12.9ノットの速力で進行した。
 転針後C受審人は、右転したのでそのうち航過距離が大きくなり、清浦丸と著しく接近することを避けることができない事態にはならないものと思い、引き続き同船に対するレーダープロッティング等による系統的な動静監視を十分に行うことなく、船橋の左舷ウイングに出て霧の状況を見たり、船橋内に戻ってレーダー画面を見たりしながら続航した。
 04時16分C受審人は、太東埼灯台から149度6.1海里の地点に達したとき、清浦丸が左舷船首22度2.2海里のところで左転し、その後著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、レーダーによる動静監視が不十分で、このことに気づかず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて停止することもなく、同じ針路、速力で進行した。
 04時21分半C受審人は、清浦丸の霧中信号に気づかないまま、左舷ウイングから船橋内に戻ってレーダーレンジを1.5海里に切り替えたところ、同船の映像を左舷船首39度0.25海里に探知し、驚いて機関を半速力前進に落とし、再び左舷ウイングに出て左舷側を見張っていたところ、同時23分わずか前左舷正横至近に同船の船体を初めて視認し、衝突の危険を感じて急いで船橋内に戻り、操舵を手動に切り替えて右舵一杯、機関を中立としたが効なく、鶴形は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、清浦丸は右舷船首部に破口を伴う凹損及び右舷前部から後部にかけての水線上外板に擦過傷を生じ、鶴形は左舷前部ハッチカバーランプレール等に曲損及び左舷後部外板に凹損を生じたが、のちそれぞれ修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、清浦丸及び鶴形の両船が、霧のため視界制限状態となった太東埼沖合を航行中、南下する清浦丸が、安全な速力とせず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した鶴形と著しく接近する事態となった際、この事態を避けるための動作をとらなかったばかりか、針路を左に転じ、更に同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて停止しなかったことによって発生したが、北上する鶴形が、霧中信号を行わなかったばかりか、安全な速力とせず、前路に探知した清浦丸と著しく接近する事態となった際、この事態を避けるための動作を適切にとらなかったうえ、レーダーによる動静監視不十分で、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて停止しなかったことも一因をなすものである。
 清浦丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して視界制限時の報告についての指示が十分でなかったことと、同当直者の視界制限時の報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、船橋当直者に操船を任せる場合、視界制限時には、自ら昇橋して直接指揮を執ることができるよう、同当直者に対して視界制限の状況を報告するよう指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、船橋当直者がそれぞれ船長の経験があり、長年一緒に乗船していて何事もなかったことから、自ら指揮を執らなくても安全に運航できるものと思い、同当直者に対し、視界制限の状況を報告するよう指示しなかった職務上の過失により、夜間、霧のため視界制限状態となった太東埼沖合を南下中、船橋当直者から視界制限の状況について報告が得られなかったので、自ら昇橋して直接指揮を執ることができず、同当直者が視界制限時の措置を適切にとらずに進行して鶴形との衝突を招き、清浦丸の右舷船首部に破口を伴う凹損及び右舷前部から後部にかけての水線上外板に擦過傷を生じさせ、鶴形の左舷前部ハッチカバーランプレール等に曲損及び左舷後部外板に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった太東埼沖合を南下中、レーダーにより前路に鶴形を探知した場合、同船と著しく接近することとなるかどうかを判断できるよう、レーダープロッティング等による系統的な動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、鶴形と同時に探知した第三船と著しく接近することを避けるため右転したので、鶴形とも無難に航過できるものと思い、同船に対するレーダープロッティング等による系統的な動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と著しく接近する事態になったことに気づかず、大角度の右転をするなどしてこの事態を避けるための動作をとらなかったばかりか、右舷船首方に探知していた同船との右舷側の航過距離を離すつもりで、針路を左に転じ、更に同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて停止することなく進行して鶴形との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった太東埼沖合を北上中、レーダーにより前路に清浦丸を探知した場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダープロッティング等による系統的な動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、大角度の右転をするなど清浦丸と著しく接近することを避けるための動作を適切にとっていなかったが、右転したのでそのうち航過距離が大きくなり、同船と著しく接近することを避けることができない状況にはならないものと思い、レーダープロッティング等による系統的な動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と著しく接近することを避けることができない状況になったことに気づかず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて停止することもなく進行して清浦丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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