(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月6日20時17分
千葉県九十九里浜沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船ニュー維新 |
貨物船海王丸 |
総トン数 |
497トン |
468トン |
全長 |
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61.32メートル |
登録長 |
60.04メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
1,323キロワット |
3 事実の経過
ニュー維新は、専ら鹿島港から四日市港への石油化学製品の輸送に従事する船尾船橋型油タンカー兼引火性液体物質ばら積船兼液体化学薬品ばら積船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、石油製品902トンを積載し、船首3.20メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成12年3月6日15時35分鹿島港を発し、四日市港に向かった。
A受審人は、船橋当直を単独の4時間交代3直制とし、08時から12時及び20時から00時を自らが担当し、00時から04時及び12時から16時を次席一等航海士に、04時から08時及び16時から20時をB受審人にそれぞれ行わせており、出航操船後同人に当直を引き継ぎ、自室で休息した。
B受審人は、茨城県東岸に沿って南下し、17時35分犬吠埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、針路を216度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して10.0ノットの対地速力で進行した。
定針したころB受審人は、日没となったことを認めたが、前日に休暇を終えて乗船したばかりだったので、船内生活に順応していなかったこともあり、航海灯の点灯を失念し、その後も同灯の点灯確認を行うことなく無灯火のまま続航し、19時50分太東埼灯台から063度13.0海里の地点に達したとき、付近の船舶の状況を引き継いだだけでA受審人と当直を交代した。
当直交代時A受審人は、航海灯の点灯確認を行わなかったので、同灯が点灯していないことに気付かず、視界が良かったことからレーダーをスタンバイに切り替え、引き続き無灯火のまま進行した。
20時ごろA受審人は、右舷船首10度から左舷船首45度にかけて数隻の船舶の白灯を認めたものの、それらの動静を確認しないまま、最も近いもので5ないし6海里の距離があるように思えたことから、反航船にしても接近するまでまだ間があるものと判断し、船橋後部右舷側に置かれた遮光カーテン設備のない海図台の照明灯を、輝度を下げて点灯し、船尾方を向いて同台で書類の整理を始めた。
20時10分少し前A受審人は、太東埼灯台から072度10.2海里の地点に至ったとき、居眠り防止装置のアラームが鳴ったため、操舵スタンドに装備されたスイッチでリセットした。その際、同人は、船橋内を左右に歩いて前方を一べつしたが、先に見た状況と変わっていないように見えたことから、すぐに接近する他船はいないものと思い、再び前の体勢に戻って書類整理に取りかかり、見張りを十分に行わなかったため、そのころ白、白、紅、緑4灯を表示した海王丸がほぼ正船首2.6海里に存在し、方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かなかった。
その後、A受審人は、大きく右転するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、20時17分ニュー維新は、太東埼灯台から076度9.3海里の地点において、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が、海王丸の右舷船首部にほぼ真正面から衝突した。
当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、視界は良好で、衝突地点付近には約1ノットの北東流があった。
また、海王丸は、専ら福島県久之浜港で積んだ石材を東京湾内各港に輸送する船尾船橋型石材運搬船で、C受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.80メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、同日14時20分千葉県館山港を発し、久之浜港に向かった。
ところで、海王丸の船橋当直は、船長、一等航海士及びC受審人の3人による単独4時間交代3直制で、当直時間は、航海時間等を考慮してその都度船長が決めることとしており、当時、館山港出航後船長、C受審人、一等航海士の順に当直に就くことにしていた。
18時50分C受審人は、勝浦灯台から108度2.4海里の地点において、船長から針路等の引継ぎを受け、航海灯の点灯確認を行って当直を交代し、針路を038度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じ、12.0ノットの対地速力で4度右方に圧流されて進行した。
C受審人は、船橋内を歩きながらときどき3海里レンジとしたレーダーを監視して当直を続け、19時50分太東埼灯台から109度6.0海里の地点に至ったころから右方への圧流がなくなり、その後038度の針路線に沿って続航した。
20時10分少し前C受審人は、太東埼灯台から082度8.2海里の地点に達したとき、レーダーによりほぼ正船首2.6海里のところに映像を探知し、船橋前面に移動して肉眼で同方向を確かめたところ、何も見えなかったため、偽像か漁具の一部が映ったものと思い、その後、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、同映像が無灯火で航行中のニュー維新のもので、方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
20時16分半C受審人は、ほぼ正船首にぼんやりとした暗い明かりを認め、それが何であるか判断できないまま、機関のガバナーレバーを下げ、同時17分わずか前左舵一杯としたが及ばず、海王丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ニュー維新は、右舷船首部に亀裂を伴う凹損を生じたうえ、船橋楼右舷側前部を圧壊し、海王丸は、右舷船首部に破口を伴う凹損を生じたが、のち両船とも修理され、A受審人が、2週間の治療を要する頭部打撲等を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、千葉県九十九里浜沖合において、ニュー維新が、航海灯の点灯確認が不十分で、無灯火で航行したばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、海王丸が、レーダーによる動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、千葉県九十九里浜沖合を単独の船橋当直について航行する場合、船首方から来航する海王丸の灯火を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、すぐに接近する他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、海王丸の存在に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、ニュー維新の右舷船首部に亀裂を伴う凹損を生じさせたうえ、船橋楼右舷側前部を圧壊させ、また、海王丸の右舷船首部に破口を伴う凹損を生じさせ、自身も頭部打撲等を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、日没時、単独の船橋当直に就いて航行する場合、航海灯の点灯確認を行うべき注意義務があった。しかるに同人は、休暇明けの乗船直後で船内生活に順応していないこともあってこれを失念し、航海灯の点灯確認を行わなかった職務上の過失により、無灯火のまま航行して次直のA受審人に引き継ぎ、海王丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、同人に頭部打撲等を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、千葉県九十九里浜沖合を単独の船橋当直について航行中、レーダーにより船首方に映像を探知した場合、船舶の映像であるかどうか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、肉眼で船首方を確かめたところ何も見えなかったため、偽像か漁具の一部が映ったものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同映像が無灯火で航行中のニュー維新のものであることに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、A受審人に頭部打撲等を負わせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。