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平成13年横審第52号
件名

プレジャーボートマシキャット号  
プレジャーボートキャピタルグラウンド号衝突事件
二審請求者〔受審人B、補佐人篠島正幸、補佐人岡村俊夫〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年4月9日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小須田 敏、黒岩 貢、葉山忠雄)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:マシキャット号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:キャピタルグラウンド号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
マ号・・・右舷前部外板に亀裂を伴う擦過傷等、船長と同乗者2人が骨折等
キ号・・・左舷中央部外板に亀裂を伴う擦過傷等、船長と同乗者が打撲等

原因
マ号・・・動静監視不十分、船員の常務(速力、衝突回避措置)不遵守
キ号・・・動静監視不十分、船員の常務(速力、衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、マシキャット号が、動静監視不十分で、周囲の状況に応じた安全な速力としなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、キャピタルグラウンド号が、動静監視不十分で、周囲の状況に応じた安全な速力としなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月4日14時31分
 茨城県北浦

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート マシキャット号 プレジャーボート キャピタルグラウンド号
登録長 5.21メートル 5.18メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 147キロワット 128キロワット

3 事実の経過
 マシキャット号(以下「マ号」という。)は、船体中央部右舷側に操縦席を設けた最大とう載人員4人のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、バスボート購入希望の2人を同乗させ、試乗の目的で、船首0.0メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成12年8月4日14時29分茨城県北浦の南西湖岸に位置する潮来マリーナの桟橋を発し、東北東方に向首して沖合に向かった。
 ところで、北浦においては、刺し網などの漁法を用いたえび漁やはぜ漁などが行われており、水面上に多くの漁具が設置されていたため、高速力で航走する際には、船首方の見張りを十分に行う必要があった。
 また、マ号は、バスボートと称するブラックバスを釣るためのプレジャーボートで、船首部に簡易電動推進器、操縦席の前後に起倒式の回転いす各1脚及び船尾に船外機を設け、水深の浅い所でも航走できるように平底船型で喫水が浅く、最高時速140キロメートルの性能を有しており、時速約40キロメートルに達すると滑走状態となって航走することができた。
 A受審人は、操縦席左側の助手席に同乗者2人を座らせて進行し、14時29分半同県行方郡潮来町釜谷三角点(以下「釜谷三角点」という。)から034.5度(真方位、以下同じ。)820メートルの地点で、東北東方に向首しているとき、正船首方460メートルのところに船首を南南東方に向けて停留中のキャピタルグラウンド号(以下「キ号」という。)とその艇上に立っている2人の姿を認め、同船が釣りに興じているものと判断し、これを右舷側に見る態勢のまま距離をおいて、その周りを航走するつもりで、一旦北西方に転針したのち、わずかな右舵をとったまま、アクセルペダルを調整して時速50キロメートルからゆっくりと増速しながら進行した。
 14時30分A受審人は、釜谷三角点から020度1,400メートルの地点で、船首が030度に向いたとき、船外機の冷却水排出状況を確認しようと振り返ったところ、右舷正横後20度650メートルのところにキ号を再度視認したが、同船が引き続き停留しているように見えたため、自船に接近して来ることはないものと思い、その後同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、キ号が発進したことに気付かず、高速力で航走しながら専ら船首方の見張りに当たって続航した。
 A受審人は、14時30分半釜谷三角点から028度1,860メートルの地点に達し、072度に向首して時速80キロメートルとなったとき、右舷船首88度700メートルのところにキ号が航走しており、自船がそのまま進行すると、増速中の同船と互いに接近する状況となっていたが、依然としてキ号に対する動静監視不十分でこのことに気付かず、周囲の状況に応じた安全な速力にすることなく続航した。
 14時31分少し前A受審人は、釜谷三角点から035.5度2,040メートルの地点で、針路をほぼ南東湖岸に沿う129度に定め、時速90キロメートルとしたところ、右舷船首43度540メートルに近づいていたキ号と衝突のおそれのある態勢で急速に接近することとなったが、直ちに減速するなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行中、同時31分わずか前同乗者の叫び声で右舷船首至近に迫ったキ号を認め、左舵一杯にとってアクセルペダルを離したが及ばず、マ号は、左方に船首を振るものの原進路線上をそのまま横滑りし、14時31分釜谷三角点から049度2,080メートルの地点において、099度に向いて時速80キロメートルとなったとき、その右舷船首部がキ号の左舷船首部に後方から47度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、視界は良好であった。
 また、キ号は、船体中央部右舷側に操縦席を設けた最大とう載人員4人のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、知人1人を同乗させ、ブラックバス釣りの目的で、船首0.0メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日13時00分潮来マリーナの桟橋を発し、北浦大橋付近で釣りをしたのち、14時29分釜谷三角点から047.5度1,220メートルの同マリーナ沖合において、船首を南南東方に向けて停留を始めた。
 ところで、キ号は、マ号と同様の構造及び船型のバスボートで、最高時速120キロメートルの性能を有していたものの、購入して間もないことから、船外機の慣らし運転のために毎分回転数4,500までとし、時速80キロメートルに抑えて運航していた。
 B受審人は、14時30分助手席に同乗者を座らせ、北東湖岸沖で再度釣りをするつもりで停留地点を発進し、ゆっくりと左転して針路を目的の釣り場に向かう052度に定めたとき、ほぼ左舷正横650メートルのところに高速力で航走しているマ号を認めたが、同船が北北東方に向かって遠ざかるように見えたことから、自船に接近して来ることはないものと思い、その後マ号に対する動静監視を十分に行わなかったので、同船が徐々に右回頭していることに気付かず、高速力状態に向けて次第に増速しながら専ら船首方の見張りに当たって進行した。
 14時30分半B受審人は、釜谷三角点から048度1,480メートルの地点で、時速60キロメートルとなったとき、左舷船首72度700メートルのところにマ号が航走しており、自船がそのまま増速を続けると、同船と互いに接近する状況となっていたが、依然としてマ号に対する動静監視不十分でこのことに気付かず、周囲の状況に応じた安全な速力にすることなく続航した。
 B受審人は、14時31分少し前釜谷三角点から048.5度1,680メートルの地点に差し掛かったとき、左舷船首60度540メートルのところで定針したマ号と衝突のおそれのある態勢で急速に接近することとなったが、直ちに減速するなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行中、同時31分わずか前同乗者の叫び声で左舷正横至近に迫ったマ号を認めたが、どうすることもできず、キ号は、原針路のまま時速80キロメートルとなったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、マ号は、右舷前部外板に亀裂を伴う擦過傷等を、キ号は、左舷中央部外板に亀裂を伴う擦過傷等を生じ、衝突の衝撃で、A受審人及びマ号同乗者2人が水中に転落した。また、A受審人が左中指基節骨粉砕骨折、マ号同乗者2人が左膝関節内側側副靭帯断裂等、B受審人が頚椎捻挫等、キ号同乗者が左下腿部打撲等をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、茨城県北浦において、両船が互いに接近する状況下、マ号が、動静監視不十分で、周囲の状況に応じた安全な速力としなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、キ号が、動静監視不十分で、周囲の状況に応じた安全な速力としなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、茨城県北浦において、停留しているキ号の周りを航走する場合、同船が発進したときの衝突の有無を判断できるよう、キ号に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、キ号が引き続き停留しているように見えたことから、自船に接近して来ることはないものと思い、高速力で航走しながら専ら船首方の見張りに当たり、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、キ号が発進したことも、自船がそのまま進行すると、増速中のキ号と互いに接近する状況となっていたことにも気付かず、周囲の状況に応じた安全な速力としなかったばかりか、その後衝突のおそれのある態勢で急速に接近することとなっても、直ちに減速するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま続航して同船との衝突を招き、マ号の右舷前部外板に亀裂を伴う擦過傷等を、キ号の左舷中央部外板に亀裂を伴う擦過傷等を生じさせ、マ号同乗者2人に左膝関節内側側副靭帯断裂等を、B受審人に頚椎捻挫等を、キ号同乗者に左下腿部打撲等をそれぞれ負わせ、自らも左中指基節骨粉砕骨折を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、茨城県北浦において、発進したときに自船の周辺で航走しているマ号を認めた場合、同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう、マ号に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、マ号が遠ざかるように見えたことから、自船に接近して来ることはないものと思い、高速力状態に向けて次第に増速しながら専ら船首方の見張りに当たり、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、マ号が徐々に右回頭していることも、自船がそのまま増速を続けると、マ号と互いに接近する状況となっていたことにも気付かず、周囲の状況に応じた安全な速力としなかったばかりか、その後衝突のおそれのある態勢で急速に接近することとなっても、直ちに減速するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま続航して同船との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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