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平成13年第二審第38号
件名

旅客船フェリーかつらぎ貨物船栄徳丸衝突事件〔原審神戸〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年6月25日

審判庁区分
高等海難審判庁(田邉行夫、山?重勝、吉澤和彦、山田豊三郎、森田秀彦)

理事官
上野延之

受審人
A 職名:フェリーかつらぎ船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:栄徳丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
かつらぎ・・・右舷船首外板に破口
栄徳丸・・・船首部を圧壊

原因
栄徳丸・・・動静監視不十分、船員の常務(前路進出)不遵守 (主因)
かつらぎ・・・操船不適切(一因)

二審請求者
補佐人堀江孟史

主文

 本件衝突は、栄徳丸が、動静監視不十分で、無難に航過する態勢のフェリーかつらぎの前路に進出したことによって発生したものである。
 フェリーかつらぎが、港内の状況に合わせた操船をしなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月8日07時25分
 和歌山県和歌山下津港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリーかつらぎ 貨物船栄徳丸
総トン数 2,529トン 157トン
全長 108.00メートル 49.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 7,942キロワット 367キロワット

3 事実の経過
 フェリーかつらぎ(以下「かつらぎ」という。)は、2基2軸を有し、ジョイスティック式操縦装置を装備した船首船橋型の鋼製旅客船兼自動車航送船で、A受審人ほか14人が乗り組み、旅客40人及び車両23台を載せ、船首3.30メートル船尾4.70メートルの喫水をもって、平成11年10月8日午前和歌山下津港和歌山区第1区の南海フェリー桟橋(以下「フェリー桟橋」という。)を発し、徳島県徳島小松島港に向かうこととした。
 和歌山区第1区は、和歌山北防波堤灯台から北東方に延びる北防波堤の南端と、和歌山南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から東方に延びる南防波堤の西端とによって港口が形成され、そこから東北東方約1,200メートルに青岸橋があり、同橋の東奥には、中、小型船舶用の桟橋が設けられ、南防波堤の基部には、比較的大型の船舶用の中ふ頭があり、同ふ頭の北側の東部が第1岸壁、同側の西部が第2岸壁となっており、南防波堤灯台から068度(真方位、以下同じ。)860メートルの地点が、245度を向いた長さ約80メートルのフェリー桟橋の先端となっており、同桟橋の南側約100メートルには薬種畑桟橋が設けられていた。
 また、和歌山区第1区に入出航する船舶に対し、進路等の表示についての旗旒(きりゅう)信号の規定はなく、出航を開始する前に掲げる信号符字や汽笛またはサイレンの吹鳴に関する定めもなかったが、A受審人は、防波堤入口付近を通過後、青岸橋の方に向首する船舶のほとんどが、同橋奥の中、小型船舶用の桟橋に向かうことを経験上知っていた。
 07時15分A受審人は、出航の操船指揮に当たるため昇橋したとき、全長約150メートルの第三船が、中ふ頭第2岸壁に左舷係留するため右舷船首尾に曳船をとって右回頭中であり、防波堤の外側には、栄徳丸が入航の態勢であるのをそれぞれ視認した。
 A受審人は、07時20分出港予定時刻となったが、自船が発航して直進すると第三船との航過距離が十分でなかったので、しばらく待ち、同時22分発航した。
 ところで、A受審人は、付近住民からの強い要望もあったので、出港に際し、特に危急性のある場合を除いて、注意喚起のために汽笛を吹鳴することはしていなかった。
 07時22分半A受審人は、バウスラスタと舵とを併用し、フェリー桟橋と平行に5メートルばかり離したとき、第三船が、自船の針路とほぼ平行で、その航過距離が約100メートルとなり、また、港口を通過し、薬種畑桟橋の南角に向首して左舷側を見せていた栄徳丸が、右舷船首わずか右520メートルばかりのところで、青岸橋の方に向けて左転して同船の右舷側を見せたので、南防波堤灯台から067度840メートルの地点で、機関を翼角8度の微速力前進とし、針路を南防波堤灯台に向首する247度に定め、徐々に増速しながら、ジョイスティック式操縦装置を操作して進行した。
 A受審人は、07時23分半南防波堤灯台から067度800メートルの地点に達したとき、栄徳丸が少し前まで薬種畑桟橋の南角に向首しており、また、中ふ頭に着岸中の第三船の動きや同ふ頭第1岸壁付近の綱取り作業員の配置等から、栄徳丸が自船の前路に向けて右転して中ふ頭に向かう可能性があったが、最小限度の速力で航行するなど港内の状況に合わせた操船をすることなく、同船が青岸橋の方に向首していて右舷を対して60メートルばかり離して無難に航過する態勢であったので、10ノットまで増速することとし、翼角10度の半速力前進として続航した。
 07時24分半わずか前A受審人は、右舷前方至近となった栄徳丸が右転してくるのを認め、同時24分半南防波堤灯台から067度660メートルの地点で、6.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)となったとき、急ぎ全速力後進とし、続いて汽笛により短音数回を吹鳴し、栄徳丸の発した汽笛信号を聞いてバウスラスタを右一杯としたが及ばず、07時25分南防波堤灯台から067度600メートルの地点において、かつらぎは、ほぼ原針路のまま、速力が約2ノットになったとき、その右舷船首部に、栄徳丸の船首部が前方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、栄徳丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、B受審人ほか2人が乗り組み、水酸化アルミニウム500.75キロトンを積載し、船首2.60メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、同月7日16時愛媛県新居浜港を発し、翌8日05時和歌山下津港の外港に投錨仮泊し、07時05分同地を抜錨し、出船左舷係留の予定で、中ふ頭第1岸壁に向かった。
 B受審人は、他の乗組員を船首及び船尾にそれぞれ配置し、操舵室の窓を閉めたまま、1人で操舵と見張りに当たり、07時20分半港口の南防波堤灯台から326度100メートルの地点において、針路を薬種畑桟橋南角に向く084度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
 定針したときB受審人は、右舷前方で着岸操船中の前示第三船を視認し、07時22分少し前南防波堤灯台から062度240メートルの地点に至り、第三船の操船水域に接近しないよう、針路を青岸橋のほぼ中央に向けてゆっくりと左転を始め、機関を4.0ノットの微速力前進に減じて続航した。
 07時23分B受審人は、058度に向首したとき、右舷船首方向のフェリー桟橋付近にかつらぎを視認したが、同船が係留しているものと思い、その後、動静監視を十分に行わず、第三船の状況を見ており、船首配置の乗組員からの報告もなかったところから、かつらぎの発航に気付かなかった。
 B受審人は、07時24分少し過ぎ南防波堤灯台から062度530メートルの地点で、かつらぎが右舷船首方180メートルばかりに接近したとき、第三船の様子を見ながら、中ふ頭第1岸壁に向けることとしたが、依然、かつらぎの動静監視を十分に行わず、同船が既に離桟しており、自船の右舷側に向けて接近していることに気付かず、右舵30度をとって転針を始め、かつらぎの前路に進出する態勢となった。
 B受審人は、07時24分半かつらぎの発した汽笛信号を聞かないまま右転を続け、同時25分少し前船首方至近のところに、かつらぎの右舷側を認めて全速力後進とし、汽笛により長音を吹鳴したが及ばず、同時25分わずか前舵を中央に戻したところ、栄徳丸は、117度に向首し、3.5ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、かつらぎは、右舷船首外板に破口を伴う損傷を生じ、栄徳丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、和歌山県和歌山下津港において、栄徳丸が、動静監視不十分で、針路を転じ、無難に航過する態勢のかつらぎの前路に進出したことによって発生したものである。
 かつらぎが、港内の状況に合わせた操船をしなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人の所為)
 B受審人は、和歌山県和歌山下津港において、中ふ頭第1岸壁に着岸する予定で航行中、右舷船首方向のフェリー桟橋付近にかつらぎを視認した場合、その後、かつらぎがどのような動きをするのか知れるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、かつらぎが係留しているものと思い、動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、かつらぎが離桟して接近していることに気付かないまま右転して同船の前路に進出し、同船との衝突を招き、自船の船首部を圧壊し、かつらぎの右舷船首外板に破口を伴う損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、和歌山県和歌山下津港において、フェリー桟橋を離したのち、入航中の栄徳丸が右舷を対して無難に航過する態勢で接近中、栄徳丸が少し前まで薬種畑桟橋の南角に向かっており、また、中ふ頭に着岸中の第三船の動きや同ふ頭第1岸壁付近の綱取り作業員の配置等から、栄徳丸が自船の前路に向けて右転して同ふ頭に向かう可能性もあったから、最小限度の速力で航行するなどその時の港内の状況に合わせた操船をしなかったことは原因となる。しかしながら、栄徳丸が、転針開始前に、中、小型船舶用の桟橋がある青岸橋の方向に向かっていた点に徴し、職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成13年10月30日神審言渡
 本件衝突は、出航するフェリーかつらぎが、入出港時の特殊な状況に対する配慮不十分で、離桟したのち増速したことと、入航する栄徳丸が、入出港時の特殊な状況に対する配慮不十分で、係留岸壁に向け右転したこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。 


参考図
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