(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月21日06時45分
三重県三木埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船しんせい |
貨物船美豊丸 |
総トン数 |
499トン |
498トン |
全長 |
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75.24メートル |
登録長 |
72.35メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
しんせいは、主に鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材約1,650トンを積載し、船首3.8メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成12年6月20日17時00分兵庫県東播磨港を発し、名古屋港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士による5時間交替の単独2直制とし、翌21日02時59分樫野埼灯台から137度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、一等航海士から当直を引き継ぎ、針路を047度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、自動操舵によって進行した。
A受審人は、04時41分日出となったのちも航海灯を点灯したまま続航し、06時19分三木埼の南東方沖合に達したころ、霧で視界が制限され、視程が100メートルばかりとなったことから、自動吹鳴装置により霧中信号を開始したが、安全な速力に減じることなく、全速力のまま続航した。
A受審人は、06時28分三木埼灯台から121度10.2海里の地点に達したとき、12海里レンジとしたレーダーで右舷船首4度6.0海里に美豊丸の映像を初めて探知し、手動操舵に切り換えて進行したところ、同時39分半同映像が右舷船首5.5度2.0海里となったが、同映像の変化を目視しただけで、同船と右舷を対して無難に航過できるものと思い、レーダープロッティングその他の系統的な観察を行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、その後著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
A受審人は、06時45分少し前船首間近に霧の中から現れた美豊丸の船体を視認し、直ちに機関停止、右舵一杯としたが及ばず、06時45分三木埼灯台から106度11.4海里の地点において、しんせいは、原針路、原速力のまま、その船首が美豊丸の左舷船尾に後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、視程は100メートルであった。
また、美豊丸は、主に鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、B及びC両受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同月20日09時00分千葉港を発し、徳島県橘港に向かった。
ところで、B受審人は、船橋当直を航海士2人と自らによる4時間交替の単独3直制とし、00時から04時までを一等航海士、04時から08時までをC受審人、08時から12時までを自らとする各当直時間を定め、以後その輪番として運航に従事していたが、船舶の交通が輻輳したり、視界が制限されたりすれば報告があるものと思い、各当直航海士に対し、視界制限状態となったときの報告について指示を徹底していなかった。
こうして、翌21日03時50分ごろ大王埼沖合で昇橋したC受審人は、一等航海士から視程が約3海里であることを引き継いで当直を交替し、同3時51分大王埼灯台から130度5.9海里の地点に達したとき、針路を235度に定め、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの速力とし、自動操舵によって進行した。
C受審人は、04時45分日出となったのちも航海灯を点灯したまま続航し、06時26分三木埼東方沖合に達したころ、霧となって視界が更に制限されるようになり、間もなく視程が100メートルになったことを知ったが、行き会い船が少なかったことから、B受審人に報告することも、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせず、全速力のまま進行した。
自室で休息していたB受審人は、視界制限状態となった旨の報告を受けられず、自ら操船指揮をとることができなかった。
06時36分半C受審人は、三木埼灯台から101度12.5海里の地点に達したとき、3海里レンジとしたレーダーで左舷船首4度3.0海里にしんせいの映像を初めて探知し、同時39分半同映像が左舷船首2.5度2.0海里となったが、同船の船尾方へ伸びる航跡の残像を目視して、同船が前路を右方へ通過して行くものと思い、レーダープロッティングその他の系統的な観察を行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、その後著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
C受審人は、06時44分しんせいのレーダー映像が前路620メートルとなったのを認め、思いのほか接近するので危険を感じ、慌てて手動操舵に切り換えて右舵一杯とし、電話でB受審人に昇橋を求めて右転中、船首が327度を向き、速力が7.6ノットとなったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、しんせいは船首部を、美豊丸は左舷船尾部及び係船ウインチをそれぞれ大破したが、のちいずれも修理され、美豊丸機関長Sが2週間の加療を要する頚椎捻挫を負った。
(原因)
本件衝突は、霧で視界制限状態となった三重県三木埼東方沖合において、北東進するしんせいが、安全な速力に減じて航行せず、レーダーによる動静監視不十分で、前方に探知した美豊丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、南西進する美豊丸が、霧中信号を行うことも安全な速力に減じて航行することもせず、レーダーによる動静監視不十分で、前方に探知したしんせいと著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
美豊丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、視界制限状態となったときの報告について指示を徹底しなかったことと、船橋当直者が、視界制限状態となったことを船長に報告しなかったばかりか、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、霧で視界制限状態となった三木埼東方沖合を北東進中、レーダーで前方に美豊丸の映像を探知した場合、その後著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、レーダープロッティングその他の系統的な観察を行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、美豊丸の映像の変化を目視しただけで、同船と右舷を対して無難に航過できるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して衝突を招き、自船の船首部及び美豊丸の左舷船尾部をそれぞれ大破させたほか、美豊丸のS機関長に頚椎捻挫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、船橋当直を4時間交替の輪番制として運航に従事する場合、各当直航海士に対し、視界制限状態となったときの報告について指示を徹底すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船舶の交通が輻輳したり、視界が制限されたりすれば報告があるものと思い、視界制限状態となったときの報告について指示を徹底しなかった職務上の過失により、視界制限状態となったときに報告が受けられず、自ら操船指揮をとることができないまま進行してしんせいとの衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせたほか、S機関長を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、霧で視界制限状態となった三木埼東方沖合を南西進中、レーダーで前方にしんせいの映像を探知した場合、その後著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、レーダープロッティングその他の系統的な観察を行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、しんせいの船尾方へ伸びる航跡の残像を目視しただけで、同船が前路を右方へ通過して行くものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせたほか、S機関長を負傷させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文平成13年7月10日横審言渡
本件衝突は、しんせいが、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、美豊丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。