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平成13年第二審第18号
件名

漁船第五八幡丸防波堤衝突事件〔原審仙台〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年4月17日

審判庁区分
高等海難審判庁(田邉行夫、宮田義憲、吉澤和彦、根岸秀幸、川本 豊)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:第五八幡丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
八幡丸・・・右舷側船体を大破、のち廃船、船長が骨盤骨折、同乗者1人が脳挫傷

原因
飲酒運航の防止措置不十分

二審請求者
理事官熊谷孝徳

主文

 本件防波堤衝突は、飲酒運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月26日22時30分
 岩手県崎浜漁港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五八幡丸
総トン数 0.8トン
全長 7.8メートル
機関の種類 電気点火機関
漁船法馬力数 30

3 事実の経過
 第五八幡丸(以下「八幡丸」という。)は、船首部に操縦スタンドを設け、日没から日出までの間の航行を禁止されたFRP製の小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、若い男女2人を同乗させ、船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成11年7月26日22時28分岩手県崎浜漁港の北側泊地の係留地を発し、同港南側泊地内に入って一周したのち発進地に引き返す遊覧の目的で、同港南側泊地入口に向かった。
 これに先立ち、A受審人は、同日夕食前に焼酎を2合ほど飲んだのち、18時10分ごろ犬を連れて崎浜漁港の海岸を散歩中、若い男女2人に出会ったので同海岸に座り込んでビールを飲みながら雑談し、22時過ぎまでに3人で500ミリリットル入り缶ビール8缶を飲んでいた。
 A受審人は、女性から船に乗せて欲しい旨の申し入れを受けたとき、既に足元がふらつく程に酒に酔って注意力が散漫な状態となっていたが、崎浜漁港内の運航には慣れているので大丈夫と思い、申し入れを断って発航を中止するなどの飲酒運航の防止措置をとることなく、同港内に係留中の知人所有の八幡丸を借用して発航することとした。
 ところで、崎浜漁港は、北側泊地と南側泊地からなり、北側泊地は、陸中崎浜港東防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)を西端として東方に200メートル延びる東防波堤と、同灯台北方130メートルの陸岸から南南東方に70メートル延びる防波堤先端との間、幅50メートルが水路となっており、また、南側泊地は、南北方向に300メートル延びる南第1防波堤の南端と、南東に100メートル延びたのち南に70メートル延び更に東方の陸岸まで100メートル延びる南第2防波堤の北西端との間、幅70メートルが水路となっていた。そして、南第1防波堤の南端上には太陽電池を電源とする、光達距離7.5キロメートルで4秒間に緑色閃光1回を発する標識灯が、南第2防波堤の北西端上には、同電源、同光達距離で4秒間に紅色閃光1回を発する標識灯がそれぞれ設置されていた。
 A受審人は、同乗者の男性を船体中央部の右舷側に、女性を左舷側にそれぞれ座らせ、自らは船首から1メートル後方で右舷側に位置する操縦スタンドの後に立って操舵操船に当たったものの、これまでに船首に位置して操船したことがなかったことから操縦に戸惑い、後方を時々見ながら機関を微速力として左右に蛇行しつつ北側泊地入口に向け進行し、22時28分半防波堤灯台を左舷側に30メートル離して並航したとき機関を増速した。
 A受審人は、北側泊地入口を通過した後、左にゆっくり旋回しながら小刻みに機関を増速して南側泊地入口沖合に進行し、22時29分半防波堤灯台から200度(真方位、以下同じ。)350メートルの地点に達したとき、南側泊地入口を示す緑色と紅色の標識灯の灯火に気付かないまま、同泊地背後に点在する陸上灯火などにより見当で針路を
105度に定め、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの速力で進行した。
 定針した後、A受審人は、南第2防波堤北西端に向首する態勢となったが、酒に酔って注意力が散漫な状態となっていたことから、これに気付かず、南側泊地入口まで距離は十分にあると思って続航中、22時30分わずか前、前方至近に黒く見える防波堤を認めて急ぎ左舵を取ったが効なく、22時30分八幡丸は、原針路、原速力のまま、その右舷側が防波堤灯台から162度415メートルの南第2防波堤北西端に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 衝突の結果、八幡丸は右舷側船体を大破して、のち廃船となり、A受審人が、2箇月の入院を要する骨盤骨折を、男性の同乗者が1箇月の入院を要する脳挫傷をそれぞれ負った。

(原因)
 本件防波堤衝突は、夜間、岩手県崎浜漁港において、飲酒運航の防止措置が不十分で、発航を中止しなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、岩手県崎浜漁港の海岸で若い男女と飲酒中、港内遊覧の申し入れを受けた場合、酒に酔って注意力が散漫な状態になっていたから、申し入れを断って発航を中止するなど飲酒運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同港内の運航に慣れているので大丈夫と思い、飲酒運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、発航して防波堤との衝突を招き、船体の右舷側が大破して全損にさせ、自らは2箇月の入院加療を要する骨盤骨折を負い、男性同乗者に1箇月の入院加療を要する脳挫傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成13年5月25日仙審言渡
 本件防波堤衝突は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

参考図
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