(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年10月25日19時30分
出雲日御碕沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十五栄正丸 |
総トン数 |
19.95トン |
登録長 |
16.90メートル |
機関の種類 |
過給機付2サイクル12シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
290キロワット |
3 事実の経過
第二十五栄正丸(以下「栄正丸」という。)は、昭和52年3月に進水した、5隻からなる中型まき網船団に所属する一層甲板型のFRP製運搬船兼灯船で、船体ほぼ中央部に操舵室を、その船尾側下層に機関室をそれぞれ配置し、操舵室に主機の遠隔操縦レバー及びキースイッチ付計器盤を備えていた。
機関室は、船底から高さ50ないし60センチメートルのところに床板が敷かれ、ほぼ中央部に主機として、アメリカ合衆国ゼネラルモーターズ社製のGM12V−71N型と称する間接冷却式のV型ディーゼル機関を据え付け、前部の動力取出軸からエアクラッチを介してベルト駆動される交流発電機2台及び甲板機械用油圧ポンプなどの補機類を前部にそれぞれ配置しており、ビルジ高位警報装置を設置していなかった。
また、主機の冷却海水管系は、船底の海水吸入弁から直結の冷却海水ポンプにより吸引加圧された海水が、主機船首側上部の清水冷却器兼膨張タンク(以下「タンク」という。)を冷却したのち船外排出弁に至る主管のほか、タンク出口からユニオン継手を介して下方に分岐した外径18.5ミリメートルの枝管により、逆転減速機(以下「減速機」という。)の潤滑油冷却器を冷却したのち船外排出される経路が設けられていた。
A受審人は、平成9年5月に有限会社Eに入社し、一括公認を受けて甲板員などで船団の各船に乗り組んだのち、同11年5月に栄正丸の船長職を執り、機関の運転管理にも当っていたもので、毎年5月初めから11月中ごろまでの間、島根県恵曇漁港を基地として同県沖合でのいわゆる日帰り操業に従事しており、出漁後は機関室を無人とすることが多く、ときどき甲板通路右舷側に設けられた同室入口から内部を覗いて点検するようにしていた。
ところで、主機の冷却海水管系は、同年の操業開始前に各部の保護亜鉛が取り替えられたものの、経年により、減速機潤滑油冷却器の冷却海水入口管内部の腐食が進行し、タンク出口のユニオン継手部に亀裂が生じて海水が漏れ始めた。
越えて同年10月25日夕刻A受審人は、出漁に先立って機関室には入り、いつものように室内を見回り、主機の冷却清水量及び潤滑油量を確認したのち操舵室で主機を始動し、しばらく暖機運転を行うことにしたが、それまで機関室ビルジ量に急激な変化がなく、運転音などから正常な状態で運転されているものと思い、再び機関室に入って冷却海水管系など主機各部の点検を行わなかったので、タンク出口のユニオン継手部から海水が漏洩し、その量が徐々に増加する状況となっていることに気付かなかった。
こうして、栄正丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船尾トリムの状態で同日18時ごろ恵曇漁港を発し、主機の回転数を毎分1,900ばかりの全速力に定めて漁業に向っていたところ、前示亀裂が拡大してユニオンナットねじ込み付近で枝管が破断し、機関室に海水が噴出して船底に急激にたまるようになり、19時30分出雲日御碕灯台から真方位235度2海里の地点において、点検のため機関室入口から内部を覗いたA受審人が、主機フライホールが海水を巻き上げ、同室床板付近まで浸水しているのを発見した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
栄正丸は、主機を停止して同行中の僚船に救助を求め、接舷した僚船2隻によって機関室の排水作業が行われたのち、恵曇漁港に引き付けられ、主機及び減速機などが濡損したが、のち陸揚げして修理された。
(原因)
本件浸水は、島根県恵曇漁港を出漁するにあたり、主機始動後の点検が不十分で、減速機潤滑油冷却器の冷却海水入口管ユニオン継手部に生じた腐食亀裂からの漏水が放置され、航行中、亀裂の拡大した同継手部が破断し、多量の海水が機関室に流入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、島根県恵曇漁港を出漁するため、操舵室で主機を始動した場合、航行中は機関室を無人とすることが多かったのであるから、水や油の漏れなどの異状を放置することのないよう、機関室に入って冷却海水管系など主機各部を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、それまで機関室ビルジ量に急激な変化がなく、運転音などから正常な状態で運転されているものと思い、機関室に入って主機各部を点検しなかった職務上の過失により、減速機潤滑油冷却器の冷却海水入口管ユニオン継手部に腐食亀裂を生じて海水が漏洩していることに気付かないまま運転を続け、同継手部が破断して多量の海水の同室への流入を招き、主機及び減速機などを濡損させるに至った。