(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月16日16時30分
沖縄県那覇港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートふみと丸 |
全長 |
5.40メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
36キロワット |
3 事実の経過
ふみと丸は、昭和55年1月に進水したFRP製プレジャーボートで、主機としてトーハツ株式会社が製造したM50D型と称する船外機を備え、同機をセルモータで始動するようになっていた。
電気系統は、直流電圧12ボルトの蓄電池1個から主機始動用セルモータ、航海灯、停泊灯などのほか、古野電気株式会社が製造したFCV−668型と称する電源電圧が直流11ないし30ボルトで消費電力が最大30ワットの魚群探知機にも給電され、蓄電池は主機で駆動される充電器で充電されるようになっていた。
蓄電池は、株式会社ユアサコーポレーションが製造した75D26L型と称し、発泡スチロール製の箱に入れられて操縦席の下に格納されていた。
操縦席前方の計器盤には、主機回転計及び船体傾斜計などが取り付けられ、その下に停泊灯、魚群探知機などの各電源スイッチとしてスナップスイッチが取り付けられていた。また、同盤の下には主電源スイッチとして気中遮断器が取り付けられていた。
ところで、過去に20年間以上漁師の経験があるA受審人は、主機を停止して蓄電池を充電しないまま魚群探知機を長時間使用し続けると、蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能となるおそれがあることを十分に承知していた。
A受審人は、平成13年8月21日購入予定のふみと丸の試運転を30分ほど行ったのち主電源スイッチを切り、同月24日同船を購入し、最大搭載人員の変更などの臨時検査を受検して沖縄県宜野湾漁港に係留していた。
こうして、ふみと丸は、A受審人が単独で乗り組み、息子2人及び息子の友人2人を乗せ、購入後初めて、同年9月16日11時00分同漁港を発し、釣りの目的で同県那覇港北西方沖合の釣場に向った。
A受審人は、発航したのち11時40分魚群探知機のスイッチを入れて魚群を探索し、12時10分魚群を見つけたことから主機を停止して釣りを始めたものの、釣りをすることに気を取られ、魚群探知機のスイッチを切ることを失念し、魚群探知機の電源スイッチの状態確認を十分に行うことなく、魚群探知機の使用を続けていた。
ふみと丸は、釣果を得たA受審人が帰途に就くために主機の始動を試みたが、主機停止中に蓄電池が充電されないまま魚群探知機が長時間使用され続けたことから蓄電池が過放電し、16時30分神山島灯台から真方位319度0.9海里の地点において、主機が始動不能になり、航行不能となった。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹いていた。
この結果、ふみと丸は、16時40分携帯電話で海の緊急電話に救助を求め、来援した巡視船に曳航されて那覇港に引き付けられ、のち蓄電池の充電が行われた。
(原因)
本件運航阻害は、沖縄県那覇港北西方沖合で釣りを行う際、魚群探知機の電源スイッチの状態確認が不十分で、蓄電池を充電しないまま魚群探知機を長時間使用し続け、蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県那覇港北西方沖合で釣りを行う場合、主機を停止して蓄電池を充電しないまま魚群探知機を長時間使用し続けると、蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能となるおそれがあることを承知していたのだから、魚群探知機の電源スイッチの状態確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、釣りをすることに気を取られ、魚群探知機の電源スイッチの状態確認を十分に行わなかった職務上の過失により、蓄電池を充電しないまま魚群探知機を長時間使用し続け、蓄電池の過放電を生じさせ、主機が始動不能となる運航阻害を招き、救援を求めた巡視船に救助されるに至った。