(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月24日06時30分
広島県江田島沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第五すみれ丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
21.07メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
132キロワット |
3 事実の経過
第五すみれ丸(以下「すみれ丸」という。)は、昭和60年3月に進水した航行区域を平水区域とする、貨物油タンク容量が約100キロリットルの船尾船橋機関室型鋼製油送船で、主機として、昭和精機株式会社が製造したヤンマー6HAK2型ディーゼル機関を備えていた。
主機の燃料油管系は、機関室後部隔壁の上部後方に区画された容量約1キロリットルの燃料油タンクに入れられたA重油が、燃料取出弁から油水分離器、機付きのプライミングポンプ及びこし器を順に経て、集合型の燃料噴射ポンプに送られ、同ポンプからの戻り油がプライミングポンプ入口側に戻るようになっていた。また、燃料油タンク右舷側の底部付近にはドレン抜き弁が設けられており、適宜ドレン排出を行うよう主機取扱説明書に明記されていた。
A受審人は、平成10年7月末にS株式会社がすみれ丸を購入したのを機に船長として乗り組み、広島県安芸郡江田島町切串を基地とし、専ら山口県岩国港の石油会社で積荷したA重油を近隣の船舶や陸上施設などへ給油する業務に従事するかたわら、月間運転時間が70時間ばかりの主機の運転及び保守に当たっていた。
ところが、A受審人は、主機の燃料油系統については半年ごとにこし器のエレメントを取り替えていたから大丈夫と思い、燃料油タンクばかりか油水分離器のドレンを排出したことが乗船以来一度もなかったので、その間に沈殿したスラッジや水分等が同タンク底に多量に堆積し、やがてこれらが油水分離器を経てこし器に流れ出す状況となっていることに気付かなかった。
こうして、すみれ丸は、A受審人と甲板員1人が乗り組み、積荷を行うため、空倉のまま船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同12年11月24日06時25分基地を発して岩国港に向けて航行を開始したところ、こし器が流入した多量のスラッジ等によって閉塞し、06時30分屋形石灯標から真方位261度1,050メートルの地点において、燃料供給の途絶えた主機が停止した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
積荷の準備を始めていたA受審人は、主機の異変に気付いて機関室に急行し、潤滑油や冷却清水には異常がなかったので、プライミングポンプを突いて再始動を試みたが、燃料油が通らないので運航不能と判断し、会社に救助を要請した。
すみれ丸は、手配した引船により基地に引き付けられ、翌25日A受審人らが各部の調査を行い、主機自体には異状がなく、油水分離器及びこし器がスラッジで閉塞し、燃料油タンクに多量の沈殿物が堆積しているのが確認され、のち、こし器のエレメントを取り替え、燃料油タンク及び管系の開放掃除が行われた。
(原因)
本件運航阻害は、主機の運転及び保守にあたり、燃料油タンクのドレン排出が不十分で、同タンク底に多量のスラッジ等が堆積し、燃料油管系に流出した堆積物がこし器を閉塞して主機の運転が不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転及び保守に当たる場合、燃料油管系がスラッジ等によって閉塞することのないよう、主機取扱説明書を参考にし、燃料油タンクのドレンを適宜排出すべき注意義務があった。ところが、同人は、半年ごとにこし器のエレメントを取り替えていたから大丈夫と思い、燃料油タンクのドレンを適宜排出しなかった職務上の過失により、同タンク底に多量のスラッジ等が堆積するまま運転を続け、同油管系に流出した堆積物がこし器を閉塞して主機の自停を招き、運航不能となって救助を要請するに至った。