(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年3月11日18時00分
長崎県樺島沿岸
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート瞳丸 |
登録長 |
7.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
3 事実の経過
瞳丸は、昭和54年12月に進水し、航行区域を限定沿海区域とするFRP製プレジャーボートで、主機始動用及び船内給電用として公称電圧12ボルト、容量96アンペア・アワーの蓄電池が2個直列使用され、主機直結駆動の充電発電機によって主機運転中に充電されるようになっていた。
蓄電池の計器は、充電系統の異常を示す充電異常ランプのみで、電圧計や電解液比重計など充電状態を示すものは装備されていなかった。
A受審人は、平成2年6月釣りなどの娯楽目的で瞳丸を購入し、以後冬季は月に2ないし3回、春及び秋季は同約10回、夏季は同12ないし13回の頻度で瞳丸を運航し、主機は係留地から2海里以内の釣り場への往復と釣り場移動時に運転し、釣りをするときは停止する取扱いであったので、蓄電池が充電不足になりがちであったが、係留中定期的に蓄電池を充電せず、また、予備蓄電池を積み込まず、主機のかかりが悪くなった平成7年ごろ及び同12年9月に蓄電池を新替えし、その後蓄電池の電解液が蒸発して減少すると適宜補充していた。
A受審人は、平成13年3月11日釣りの目的で瞳丸に赴き、正午前主機を始動したところ正常に始動したので出港することとしたが、同始動によって蓄電池が過放電状態になったことに気付かなかった。
瞳丸は、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水で、同日12時00分定係地の長崎県樺島漁港を発し、約10分後樺島灯台から真方位296度620メートルの地点に至った。
A受審人は、再度主機を始動できるようになるまでにはまだ蓄電池の充電が不十分であったが、出港時正常に始動できたので問題ないものと思い、主機の運転を継続して蓄電池を十分充電することなく、同時10分平素のとおり主機を停止し、投錨して釣りを行った。
こうして瞳丸は、A受審人が釣りを終え、帰途に就こうとして主機を始動しようとしたが、蓄電池の充電が不十分であったことから始動できず、18時00分前示地点において、運航不能となった。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、海上は穏やかであった。
この結果、A受審人は海上保安部に救助を要請し、瞳丸は水難救済会の救助船にえい航された。
(原因)
本件運航阻害は、電気始動式主機の瞳丸が、出港後約10分間の航走で釣り場に至って投錨した際、主機運転の継続による蓄電池の充電が不十分で、洋上で主機が始動不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が、出港後約10分間の航走で釣り場に至って投錨した場合、瞳丸は航海頻度が少なく、航海中の主機の運転時間も短い運航状況で、蓄電池が充電不足になりがちであったから、出港始動時の蓄電池放電量に対する充電量が不足して洋上で主機が始動不能になることのないよう、主機の運転を継続して蓄電池を十分に充電すべき注意義務があった。ところが、同人は、出港時正常に始動できたので問題ないものと思い、蓄電池が十分に充電されるまで主機を運転しなかった職務上の過失により、充電不足から主機が始動不能となり、運航不能を生じさせるに至った。