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平成13年那審第50号
件名

漁船海王運航阻害事件

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成14年2月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、清重隆彦)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:海王船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
燃料油こし器上蓋のパッキンを脱落

原因
主機燃料油系統の空気吸引に対する配慮不十分

主文

 本件運航阻害は、主機燃料油系統の空気吸引に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月19日17時50分
 鹿児島県奄美大島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船海王
総トン数 12トン
全長 18.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット

3 事実の経過
 海王は、平成13年4月に進水した一本釣り漁業を行うFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6KXHP−GT型と称する軽油を使用燃料とするディーゼル機関を装備し、定年退職したA受審人が遊漁や素潜りに使用する目的で発注し、同年5月1日に竣工した。
 主機の燃料油系統は、燃料油タンク底部の取出し弁から主機用燃料油集合管に導かれ、同集合管から燃料油こし器を経て主機燃料油供給ポンプに至る系統と発電機原動機用燃料油集合管に至る系統とに分岐し、余剰の燃料油が各燃料油集合管に戻るようになっていた。
 燃料油タンクの取出し弁は、ハンドル車ではなくハンドルで操作するコック状の弁でハンドルの方向で開閉状態が容易に分かる弁であり、また逆止弁ではなかった。
 燃料油タンクは、船体中央部の船体外板に沿って配置され、船首方から順に右舷側に1番及び2番タンクが、左舷側に3番、4番及び5番タンクが設けられ、2番タンクに接して船尾側に容量700リットルの清水タンクが設けられていた。また、各燃料油タンクの容量は、順に750、850、750、850及び400リットルで総量が3,600リットルであり、各燃料油タンクには透明プラスチック製の油面計がそれぞれ付設されていた。
 燃料油こし器は、輸入総代理店の株式会社スターファイブが取扱う、レイコー燃料フィルタ・油水分離器900FG型と称するこし器であった。
 海王は、発航に先だってA受審人が燃料油約3,000リットルが貯蔵されていることを確認し、1番及び2番燃料油タンクの取出し弁を閉弁した状態で同受審人が単独で乗り組み、息子1人及び造船所の社長を同乗者として乗せ、奄美大島大和村への回航及び社長の商用の目的で、5月14日14時30分熊本県牛深市に所在する造船所を発し、途中荒天のため鹿児島県枕崎漁港に避泊したのち、順に同県屋久島一湊漁港及び同県種子島西之表港に寄港して同月16日18時00分鹿児島港に入港し、商用を終えた社長が下船した。
 これより先、A受審人は、一湊漁港において船体が右舷側に傾斜していたことから、1番及び2番燃料油タンクの取出し弁を開弁して3番、4番及び5番燃料油タンクの取出し弁を閉弁し、鹿児島港入港時には船体傾斜がなくなったので同港にて5個の燃料油タンク全ての取出し弁を開弁したつもりであったが、4番燃料油タンクの取出し弁の開弁を失念していた。
 海王は、翌々18日11時00分鹿児島港を発して吐喇(とから)群島中之島へ向い、16時30分岩礁列である平瀬に寄ったとき、船体動揺の影響で残量が少なくなっていた燃料油タンクから燃料油系統に空気を吸引し、主機が自停した。
 A受審人は、主機を取り付けた業者に携帯電話で助言を求め、プライミングポンプによる空気抜きの方法と残量が少ない燃料油タンクの取出し弁を開弁する旨の助言を受け、同弁操作に疑問を感じたものの、1番、2番及び3番燃料油タンク各取出し弁を開弁し、4番燃料油タンク取出し弁の閉弁を確認して5番燃料油タンク取出し弁を閉弁し、燃料油系統の空気抜きを行ったのち主機を再始動して18時30分中之島に入港した。
 そして、海王は、発航に先だってA受審人が燃料油の残量を確認したのち、船首0.4メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、翌19日11時00分中之島を発して大和村へ向い、途中、吐喇群島諏訪瀬島南西方沖合で漂泊するなどして約1.5時間釣りを行った。
 A受審人は、釣果を得たのち再発航にあたり、燃料油残量の確認を自らではなく同乗者に行わせ、大丈夫との報告を受けたことから、1番、2番及び3番燃料油タンクの残量が少なく、同タンクから空気を吸引するおそれがあることに気付かず、燃料油残量が多い4番及び5番燃料油タンクを使用しないまま主機を始動して再発航した。
 こうして、海王は、航行を続けたものの、著しく油面が下がった1番、2番及び3番燃料油タンクから燃料油系統に空気を吸引し、16時50分笠利埼灯台から真方位321度25海里の地点において、燃料油が供給されなくなった主機が自停した。
 A受審人は、前示業者に再び助言を求め、燃料油こし器を開放して燃料油を満たしたのちに主機を始動する旨の助言を受け、同こし器を開放したところ約5センチメートル油面が下がっていたことから、燃料油系統に空気が吸引されていることを認め、その作業中に同こし器上蓋のパッキンを脱落させたことに気付いて再装着するなどして助言を実行したが10ないし15秒の運転で主機が自停し、更にもう1回同作業を行うも同様の状況であったことから、業者との連絡を再度行うこととし、同乗者に同作業の継続を指示して交代したものの、同乗者に対して同こし器上蓋のパッキンを脱落させないよう注意を促すなど、燃料油系統の空気吸引に対する配慮を十分に行うことなく、機関室を退室した。
 同乗者は、燃料油こし器を開放して燃料油を満たす作業を続けたが同作業中に同こし器上蓋のパッキンが脱落したことに気付かず、同こし器の気密が保たれない状態で同こし器を復旧した。
 海王は、A受審人が業者との連絡が終了したのち、4番及び5番燃料油タンクの取出し弁を開弁して業者の新たなる助言を実行したものの、主機を始動すると燃料油こし器上蓋のパッキン装着部から新たに空気を吸引し、17時50分笠利埼灯台から真方位318度26.5海里の地点において、4番燃料油タンクなどに合計約500リットルの燃料油を残したまま、主機が始動できない状況となり、航行不能となった。
 当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、海上は白波があった。
 その結果、林受審人は、主機の始動を断念し、漂流して鹿児島県横当島西方沖合に至り携帯電話の通話圏外となりそうなことから、翌20日06時41分海の緊急電話に救助を求め、08時30分来援した巡視船に救助され、海上保安官が発見した燃料油こし器上蓋のパッキンを再装着するなどしたのち、自力で航行して鹿児島県名瀬港に入港した。

(原因)
 本件運航阻害は、鹿児島県奄美大島北方沖合において、主機が自停した際、燃料油系統の空気吸引に対する配慮が不十分で、主機に燃料油が供給されなくなったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 林受審人は、鹿児島県奄美大島北方沖合において、主機が自停し、その原因が燃料油系統の空気吸引であることを認めた場合、自ら燃料油こし器を開放して燃料油を満たす作業を行ったとき、同こし器上蓋のパッキンを脱落させ再装着を行ったのであるから、交代して同乗者に同作業を行わせる際、同こし器上蓋のパッキンを脱落させないよう注意を促すなど、燃料油系統の空気吸引に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、燃料油系統の空気吸引に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、同乗者が同こし器上蓋のパッキンが脱落したことに気付かないまま、同こし器の気密が保たれない状態で同こし器を復旧したことによる、同パッキン装着部からの新たなる空気の吸引を生じさせ、燃料油が供給されなくなった主機の自停による運航阻害を招き、漂流したのち巡視船に救助されるに至った。
 以上の林受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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