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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 施設等損傷事件一覧 >  事件





平成13年仙審第62号
件名

漁船第一佐吉丸養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成14年3月26日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(喜多 保)

副理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:第一佐吉丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
指定海難関係人
B 職名:第一佐吉丸漁ろう長

損害
佐吉丸・・・損傷ない
わかめ養殖施設・・・損傷

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件養殖施設損傷は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年2月23日04時30分
 宮城県岩井埼南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一佐吉丸
総トン数 119トン
全長 38.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 592キロワット

3 事実の経過
 第一佐吉丸(以下「佐吉丸」という。)は、可変ピッチプロペラを装備したまぐろはえ縄漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか14人が乗り組み、操業の目的で、船首1.5メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成13年1月15日11時00分宮城県気仙沼港を出港し、越えて同月19日15時ごろ北緯35度28分東経161度37分の北太平洋中部の漁場に至って操業を開始し、翌2月16日16時00分まぐろ、めかじきなど70トンを漁獲して操業を終え、北緯31度55分東経169度23分の地点を発進し、同港へ向け帰途に就いた。
 A受審人は、発進してから船橋当直を自らと甲板員7人による単独の2時間8直制として西航し、越えて同月23日00時ごろ北緯38度25分東経142度34分の地点において、入港に備えて甲板員と船橋当直を交代して当直に就き、03時ごろ岩井埼灯台から118度(真方位、以下同じ。)17.0海里ばかりの地点に達したとき、B指定海難関係人が昇橋してきたので2人で当直に当たった。
 ところで、宮城県岩井埼の南東方沖合には、9月1日から翌年5月30日までの期間わかめ養殖業の施設が設定されており、同施設は、岩井埼灯台を基点として、同基点から161度45分1,880メートルの点(ア)、同基点から175度45分710メートルの点(イ)、同基点から059度470メートルの点(ウ)及び同基点から131度15分1,220メートルの点(エ)の各点を順次結んだ線によって囲まれた区域にあり、各点には光達距離3キロメートル以上の夜間識別可能な標識が設置されており、A受審人及びB指定海難関係人は、同施設の存在を知っていた。
 A受審人は、04時00分少し前入港準備を令して、船首部に7人の乗組員を、船尾部に7人の乗組員をそれぞれ配置し、同時14分岩井埼灯台から132度3.2海里の地点に達したとき、気仙沼西湾から気仙沼港に入港するため針路を322度に定め、機関を全速力前進にかけて、もやのため視界がやや狭められた中を10.0ノットの対地速力で、自動操舵として進行した。
 その後A受審人は、夜間、気仙沼西湾から気仙沼港に入港する際、自ら操船した経験がなかったこと、B指定海難関係人が同港に幾度も入港した経験を有し、同港の事情にも詳しかったことなどから、同指定海難関係人に操船を任せ、自らは船橋右舷のウイングに出て肉眼による見張りに当たった。
 B指定海難関係人は、舵輪を前にして操船に当たり、04時18分岩井埼灯台から129度2.5海里の地点に達したとき、6海里レンジとしたレーダー画面の船首輝線のすぐ左右1.6海里ばかりのところに2隻の停泊船の映像を認めたので、操舵を手動として針路を274度に転じ、同時24分少し前同灯台から143度2.0海里の地点で、前示2隻の停泊船が元の針路に戻しても右舷側に替わる状態となったことから、針路を元の322度とし、前示わかめ養殖施設に向首することになったのを認めたものの、いずれ大きく右転するつもりで続航した。
 A受審人は、B指定海難関係人が針路を元に戻したとき、佐吉丸がわかめ養殖施設に向首することになったが、同指定海難関係人に操船を任せているので大丈夫と思い、船橋内に入ってレーダーを監視するなどして船位の確認を十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 B指定海難関係人は、04時27分岩井埼灯台から144度1.3海里の地点において、船首部配置の乗組員から気仙沼西湾第1号灯浮標を右舷方に視認した旨の連絡を受けたものの、同乗組員が左舷方に視認したものと思い込み、もう少し同一針路で航行できると思い、同じ針路、速力で進行中、04時30分わずか前船首部配置の乗組員の「筏だ。」という声で船首至近にわかめ養殖施設を認め、右舵一杯、翼角0度としたが及ばず、04時30分岩井埼灯台から146度1,420メートルの地点において、佐吉丸は、原針路、原速力のままわかめ養殖施設に進入した。
 当時、天候はもやで風力2の西北西風が吹き、視程は1海里以下で、潮候は上げ潮の末期であった。
 進入後A受審人は、わかめ養殖施設の設置状況を調査したのち、微速力前進で同施設内の水路から脱出して、06時10分気仙沼港魚市場岸壁に着岸した。
 その結果、佐吉丸には損傷はなかったが、わかめ養殖施設に損傷が生じた。

(原因)
 本件養殖施設損傷は、夜間、宮城県気仙沼港に入港する際、船位の確認が不十分で、同県岩井埼南東方沖合のわかめ養殖施設に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、宮城県岩井埼南東方沖合から気仙沼港に入港する際、前路に認めた停泊船を避けるため針路を変更し、その後原針路に復して進行する場合、同埼南東方沖合にはわかめ養殖施設が設定されていることを知っていたのであるから、同施設に乗り入れないよう、レーダーを監視するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、気仙沼港に幾度も入港した経験を有し、同港の事情に詳しい漁ろう長に操船を任せているので大丈夫と思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、わかめ養殖施設に向かって進行し、同施設への進入を招き、同施設を損傷させるに至った。
 B指定海難関係人が、夜間、宮城県気仙沼港に操船を任されて入港するにあたり、前路に認めた停泊船を避けるため針路を変更し、その後原針路に復して進行中、船首部配置の乗組員から気仙沼西湾第1号灯浮標を右舷方に視認した旨の連絡を受けた際、同乗組員が同灯浮標を左舷方に視認したものと思い込んだことは、本件発生の原因となる。





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