(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月16日09時30分
千葉県木更津市盤州沖
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートみなとII |
全長 |
10.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
209キロワット |
3 事実の経過
みなとIIは、FRP製のプレジャーボートで、A受審人が船長として乗り組み、知人1人を同乗させ、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、遊走と魚釣りの目的で、平成12年12月16日06時30分東京都江戸川区新中川瑞江大橋下流左岸にある係留地を発し、神奈川県城ケ島沖合に向かった。
A受審人は、ヨット・モーターボート用参考図第H−172号(以下「参考図」という。)を船内に備えていて、発航前に東京湾中央部についての調査を済ませ、旧江戸川を下航して同川河口に至って西方に迂回し、隅田川河口左岸の東京都中央区豊海町に寄せて燃料油を補給したのち、東京西航路を経て南下し、08時50分東京灯標から233度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点に達したとき、東京湾アクアラインの橋梁下通航の体験をする気になり、針路を木更津人工島の少し東側に向く153度に定め、機関を毎分2,200回転にかけ、14.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、09時23分半東京湾アクアライン海ほたる灯(以下「海ほたる灯」という。)から130度1,000メートルの地点で、速力を12.0ノットに減じ、次の針路目標を東京電力株式会社富津火力発電所構内の並列する2本の煙突方向とすることとし、盤州沖に向け、徐々に右転を始めた。
ところで、千葉県木更津市盤州沖には、毎年9月から翌年5月までの間、のり養殖施設が設置され、同施設の区画は、参考図に記載されていたが、A受審人は、東京湾中央部についての水路調査を済ませてあったので大丈夫と思い、機関を停止して用意してある参考図に当たるなどして、同湾東部にある盤州沖の水路調査を十分に行うことなく、同州の沖合にあるのり養殖施設の存在を知らないまま続航した。
09時29分少し過ぎA受審人は、盤州沖ののり養殖施設が前路350メートルとなり、このまま右転を続けると、同施設に乗り入れる状況となったものの、依然、付近の水路調査が不十分で、同施設に向首進行し、同時30分少し前左舷前方至近に同施設に設置されていた標識用黄色灯浮標を視認したが、どうすることもできず、09時30分海ほたる灯から173度3,200メートルの地点で、船首が202度を向き、原速力で同施設に乗り入れた。
当時、天候は晴で、風力3の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
その結果、のり養殖施設は、のり網及びアバ綱等に損傷を生じ、みなとIIは、プロペラシャフトに絡網して航行不能となり、A受審人及び同乗者は、海上保安庁のヘリコプターで救助され、船体は、後日、地元の漁船の援助で引き出された。
(原因)
本件のり養殖施設損傷は、木更津人工島南東方沖合において、東京湾東部の盤州沖に向け右転する際、同沖の水路調査が不十分で、同沖に存在するのり養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、木更津人工島南東方沖合を航行中、東京湾東部の盤州沖に向け右転する場合、前路ののり養殖施設の存在を確認できるよう、機関を停止して用意してある参考図に当たるなどして、盤州沖の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、事前に東京湾中央部について水路調査を済ませてあったので大丈夫と思い、盤州沖の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同沖ののり養殖施設に向首進行して同施設に乗り入れる事態を招き、同施設ののり網及びアバ綱等を損傷させるに至った。