(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年2月17日05時45分
愛知県野間埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船朝凪丸 |
総トン数 |
19.25トン |
登録長 |
20.06メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
58キロワット |
3 事実の経過
朝凪丸は、伊勢湾や三河湾において船舶の補油作業に従事するレーダーを装備しない船尾船橋型油送船で、A受審人ほか1人が乗り組み、軽油約40トンを積載し、船首1.25メートル船尾1.70メートルの喫水をもって、平成12年2月17日03時00分名古屋港内奥の名古屋市港区潮凪町の泊地を発し、愛知県日間賀漁港へ向かった。
離岸操船に引き続き単独の船橋当直に就いたA受審人は、操舵スタンド後方のいすに腰を掛けて操舵操船に当たり、外港第1航路を南下して高潮防波堤を通過したのちは、伊勢湾灯標、トーガ瀬北灯浮標の各灯光を順次探しながらこれらを左舷側に見て航行し、05時00分野間埼灯台から335度(真方位、以下同じ。)5.8海里の地点に至り、広瀬灯浮標を左舷側450メートルに並航する同灯台沖合に向ける定針予定地点に達したとき、その灯光を左舷船首方に認めた。
ところで、知多半島西岸一帯には、8月15日から翌年の5月15日までの間、のり及びわかめの養殖施設が多数設置され、当時、野間埼灯台から148度1,200メートル、170度1,300メートル、278度600メートル及び298度100メートルの各点を結んだ線により囲まれた区画にものり養殖施設が敷設されており、その周囲には光達距離5キロメートルの黄色点滅灯を付けた簡易標識灯が200ないし300メートルの間隔で10個設置されていた。
A受審人は、平成4年ごろから小型油送船の船長として伊勢湾や三河湾での運航に従事し、前示のり養殖施設が陸岸から500メートルばかり沖合まで張り出していることなども知っており、夜間、レーダー設備のある他船で野間埼を1,100ないし1,300メートル離して航行した経験が何回もあったが、レーダー設備のない船舶で知多半島西岸沿いを航行するのは今回が初めてで、離岸距離の確認が容易でないことを承知していた。
こうしてA受審人は、定針予定地点で針路をのり養殖施設が存在する野間埼沖合に向けることとしたが、他船で経験した広瀬灯浮標付近からの野間埼灯台灯光の見え具合を思い起こして針路を設定すればよいものと思い、野間埼を十分に離すことができるよう同灯光を大きく左方に見る針路とするなど、針路を適切に選定することなく、自らの勘により同灯光を左舷船首4度に見る157度の針路に定め、機関を全速力前進とし、7.5ノットの対地速力で手動操舵により進行したところ、前示のり養殖施設西端に向首することとなった。
A受審人は、離岸距離の確認手段がなかったことからのり養殖施設に向首していることに気付かず、定針後考えごとをしていたこともあって簡易標識灯も見つけられずに続航中、05時45分朝凪丸は、野間埼灯台から275度500メートルの地点において、原針路、原速力のまま同養殖施設に乗り入れた。
当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候はほぼ満潮時であった。
その結果、朝凪丸は、推進器翼に絡網しただけで損傷はなかったが、のり養殖施設は、のり網及び錨索が損傷した。
(原因)
本件のり養殖施設損傷は、夜間、知多半島西岸沿いを南下する際、針路の選定が不適切で、のり養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、レーダーを装備しない船舶で知多半島西岸沿いを南下中、広瀬灯浮標西方の定針予定地点において針路をのり養殖施設が存在する野間埼沖合に向ける場合、離岸距離の確認が容易でない状況にあったから、野間埼を十分に離すことができるよう野間埼灯台の灯光を大きく左方に見る針路とするなど、針路を適切に選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダー設備のある他船で経験した広瀬灯浮標付近からの野間埼灯台灯光の見え具合を思い起こして針路を設定すればよいものと思い、針路を適切に選定しなかった職務上の過失により、野間埼沖合ののり養殖施設への乗り入れを招き、同養殖施設ののり網及び錨索を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。