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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成13年神審第75号
件名

はしけRB−1作業員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年3月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正、黒田 均、西田克史)
参審員(北條 卓、児玉正浩)

理事官
杉?忠志、加藤昌平

指定海難関係人
M重工業株式会社神戸造船所 業種名:造船業

損害
作業員2人が酸素欠乏症により窒息死

原因
酸素欠乏危険に対する安全衛生管理不十分

主文

 本件作業員死亡は、造船業者が、酸素欠乏危険に対する安全衛生管理を十分に行わなかったことによって発生したものである。
 指定海難関係人M重工業株式会社神戸造船所に対し勧告する。

理由

(事実)
第1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月2日11時40分ごろ
 神戸港M重工業株式会社神戸造船所岸壁

第2 船舶の要目
船種船名 はしけRB−1
総トン数 2,797トン
全長 90.00メートル
20.00メートル
深さ 5.50メートル

第3 事実の経過
 1 指定海難関係人M重工業株式会社神戸造船所の組織等
 (1) 沿革及び組織
 指定海難関係人M重工業株式会社神戸造船所(以下「M神戸」という。)は、明治38年創業し、M重工業株式会社の全国9箇所にある事業所及び工場の1つで、各種船舶の建造や修繕等を行い、その組織は、次図のとおりで、管理部門及び製品部門の2部門、管理部門は総務部や病院等4部、製品部門は船舶・海洋部や造船工作部等20部、他に二見工場及び鯛尾工場を置き、社員数は5,182人であった。
以下余白
 M神戸組織図(平成13年4月1日現在)
(拡大画面:42KB)

 (2) 総務部及び病院
 総務部には、安全保安課が置かれ、同課は、安全管理に関するM神戸の要領や基準(以下、要領や基準については「管理要領」という。)の制定・改廃等に当たっていた。
 病院には、衛生・放射線管理課が置かれ、同課は、衛生管理に関するM神戸の管理要領の制定・改廃等に当たっていた。
 (3) 造船工作部
 造船工作部は、艤装、生産計画、艦艇、船殻、電装及び鯛尾修繕工作の6課、部直属の安全衛生係を含む15係、工務チームなど9チームを置き、部長としてEが当たっていた。
 安全衛生係は、所内船舶のパトロール、各安全衛生会議への参加、火気作業管理、ガス検定、危険・有害物の調査・措置及びその他特命事項を行い、係長としてQが当たっていた。
 艤装課は、安全衛生管理、課所掌工事の生産計画、生産管理及び工事取りまとめを課長直属としていたほか、船渠海洋係、艦艇一係、艦艇二係、装置係、艤装係及び塗装係の6係を置き、課長としてN(平成13年3月31日付退任)、P(同年4月1日付就任)が当たっていた。
 ア 工事の取りまとめ役としての工事担当チームは、主任チーム統括Fの下、工事担当者Cらが当たっていた。
 イ 船渠海洋係は、商船及び海洋製品のドック、岸壁における鉄艤装、木艤装、管艤装及びその修理工事に関する事項等を行い、係長Iの下、船渠班と海洋班の2系列となっていた。
 船渠班は、修繕船のマンホール開閉作業等に、海洋班は、船体の鉄工等にそれぞれ当たり、同班の鉄工や塗装等の作業には構内協力社員(以下「協力社員」という。)と呼ばれる下請け会社(以下「協力会社」という。)の作業員が当たることもあった。
 2 M神戸の安全衛生管理
 M神戸は、労働災害の発生を未然に防止することを目的として、労働安全衛生法(以下「安衛法」という。)、安衛法施行令及び酸素欠乏症等防止規則等の法令に基づき、次のような管理要領を定めていた。
 (1) 衛生に関する管理要領
 同管理要領としては、M神戸に酸素欠乏症等防止管理要領(以下「所・酸欠防止管理要領」という。)、同要領を円滑に実施するため造船工作部に酸素欠乏症等防止管理要領(以下「部・酸欠防止管理要領」という。)等が定められていた。
 ア 所・酸欠防止管理要領
 同要領は、酸素欠乏症及び硫化水素中毒の発生を未然に防止することを目的として、次のように定められていた。
 (ア) 適用範囲
 安衛法施行令別表第6に掲げる酸素欠乏危険場所と同じ場所(以下「酸欠危険場所」という。)で行われる各種作業(以下「酸欠作業」という。)並びに酸素欠乏症及び硫化水素中毒のおそれのある特殊な作業(以下「特殊作業」という。)に適用する。
 (イ) 用語
 酸素欠乏とは、空気中の酸素濃度が18パーセント未満の状態をいい、酸素欠乏症とは、酸素欠乏の空気を吸入することにより生ずる症状が認められる状態をいう。
 (ウ) 課長(配下社員を酸欠作業並びに特殊作業に従事させようとする課長をいう。)の責務
 課長は、酸素欠乏症を防止するため作業計画に際し、酸欠危険場所又は特殊作業の有無を把握し、以下に掲げる具体的な措置のほか作業方法の確立、作業環境の整備その他必要な措置を講じなければならない。
 a 酸素欠乏危険作業主任者の選任
 酸欠作業を行う場合には、第1種酸素欠乏危険作業主任者講習又は第2種酸素欠乏危険作業主任者講習を修了した者のうちから、酸素欠乏危険作業主任者(以下「酸欠主任者」という。)を選任し、同主任者の職務遂行が可能な範囲ごとに配置する。
 b 監視人の配置
 酸欠作業を行う場合は、作業中異常が発生したときに、直ちに酸欠主任者及びその他の関係者にわかるように常時作業の状況を監視する監視人を配置しなければならない。
 c 立入禁止等の措置
 酸欠危険場所の酸素濃度等測定結果が判明するまでは測定者以外の者の立入りを禁止するとともに、関係者以外立入禁止の注意標識を掲示する。
 (エ) 酸欠主任者の責務
 酸欠主任者は、酸素欠乏症等を防止するため、酸欠作業方法の決定及び作業者への指示、酸欠作業場所の酸素濃度を測定及び同結果を課長に報告する。
 (オ) 監視人の責務
 監視人は、酸素欠乏症等を防止するため、作業場における作業の状況を常時監視し、異常を認めたときは直ちに酸欠主任者及びその他の関係者に連絡、作業に関係ない者の立入りを禁止し、その他酸欠主任者に指示された事項を行う。
 (カ) 協力会社に対する指導
 課長は、協力会社に工事を発注するに際し、酸欠作業及び特殊作業を伴う工事については、協力会社に対して所・酸欠防止管理要領に基づき作業を実施するよう指導しなければならない。
 ところで、所・酸欠防止管理要領は、昭和47年4月12日制定され、酸欠危険場所として、安衛法施行令別表第6に掲げる酸欠危険場所のうち、第4号の「相当期間密封されていた鋼製のボイラ、タンク、反応塔、船倉その他その内壁が酸化されやすい施設(その内壁がステンレス鋼製のもの又はその内壁の酸化を防止するために必要な措置が講ぜられているものを除く。)の内部」と規定されていた。
 その後、労働省労働基準局長の同57年6月14日付基発第407号通達により、「なお、その措置が講じられていた場合において、その保守管理の不備等により内壁の酸化を防止する効果がなくなったときには、『内壁の酸化を防止するために必要な措置が講ぜられている』ことには該当しないものであること。」(以下「なお書」という。)と解釈例規されたが、衛生・放射線管理課は、同58年6月15日所・酸欠防止管理要領を改訂したにもかかわらず、平成14年1月1日(以下、平成については年号を省略する。)まで、なお書を追記しなかった。
 イ 部・酸欠防止管理要領
 同要領は、所・酸欠防止管理要領に基づいて作成されるものであるが、修繕船等の作業において、水バラストタンク、燃料タンク、ボイドスペース、コファダム、ダクトキール、カーゴタンク、ラダートランク及び二酸化炭素ルーム等の場所を危険場所として例示し、同所が酸素欠乏場所であるとしているが、所・酸欠防止管理要領で定めた酸欠危険場所と用語を変えて記載し、酸素欠乏場所で行う作業及び酸素欠乏症、硫化水素中毒のおそれがある場所での作業に適用する等と定められていた。
 (2) 安全に関する管理要領
 同管理要領としては、M神戸に安全作業実施要領、造船工作部に修繕船工事における統括安全衛生管理要領などが定められていた。
 ア 安全作業実施要領
 同要領は、安全管理の完遂を期する目的で、作業別の安全管理点及びその責任区分について定め、社員が行う全ての作業に適用、また、M神戸が発注して協力社員が行う作業にも準用され、課長の責務で、爆発、感電、墜落、化学薬品災害その他特に危険を伴うおそれのある作業については、あらかじめ必要な事項を協力社員へ的確に通知し、その他安全管理上必要な措置を講じる等と定められていた。
 イ 修繕船工事における統括安全衛生管理要領
 同要領は、工事における混在に伴う労働災害の防止と工事の円滑な推進を図ることを目的とし、統括安全衛生管理の徹底を期するため、担当区域ごとに責任者を置き、その任務等が定められていた。
 (ア) 統括安全衛生管理組織
 a 船統括安全衛生責任者
 船統括安全衛生責任者(以下「船統括」という。)は、総合作業指揮者(以下「作業指揮者」という。)、総合安全衛生作業指揮者(以下「安全指揮者」という。)及び火気作業管理者(以下「火気管理者」という。)等を指揮し、担当する修繕船全般について、混在作業による事故あるいは災害を防止するため、連絡調整の徹底につき統括管理をするとともに、各職制にまたがる安全衛生対策の実施に努めるもので、主たる任務として船統括安全衛生工程会議(以下「工程会議」という。)を開催、主要工事の安全衛生及び工程に関する方針を決定、安全衛生管理上必要な事項について、処置方針の決定を行う等と定められていた。
 b 作業指揮者
 同指揮者は、船統括を補佐し、担当する区域内における混在作業の総合的連絡調整事項に関して計画立案、安全指揮者及びその他関係者に連絡、推進フォローを行うもので、主たる任務として工程会議の内容を踏まえて安全衛生連絡会を開催、工事内容、工程等、工事実施上の問題点につき連絡調整を行う等と定められていた。
 c 安全指揮者
 同指揮者は、作業指揮者からの連絡調整事項を作業責任者に徹底させ、担当区域内における混在作業に関わる調整のフォロー、安全衛生対策事項の実施を確認して必要な連絡及び調整を行うもので、主たる任務として作業指揮者を補佐、作業環境や作業実施上の不具合、不安全と判断される事項については、その排除・是正・作業中止などの指示あるいは指導を行う等と定められていた。
 d 火気管理者
 同管理者は、船統括の指示を受け、特別火気警戒区域における火気作業の管理を行うもので、主たる任務として個別火気作業実施について、ガス濃度・スラッジ掃除基準等より可否を判定し、許可を与え、火気作業判定結果を安全指揮者に連絡する等と定められていた。
 e 作業責任者
 社員の作業責任者は、作業指揮者からの連絡調整事項を配下作業員に徹底させ、工事施工面における安全衛生指導を行うもので、主たる任務として連絡調整会議に出席、作業実施に際し、作業方法・工程等の変化により、自ら又は他の作業グループが不安全状態になると判断されるときは直ちに作業を中止して作業指揮者へ報告し、その指示を受ける等と定められていた。
 また、協力社員の作業責任者は、社員の作業責任者と同様の任務を行う等と定められていた。
 (イ) 連絡調整方法
 船統括安全衛生管理を推進するため、工程会議、連絡調整会議及び日常業務連絡会等を開催し、必要な連絡及び詳細事項の確認を行う等と定められていた。
 工程会議は、危険箇所等の船の特徴に関する事項及び工程推進上の問題点の把握と対策等の連絡・確認等の目的で工事着工前及びその他必要の都度開催し、協力社員を含む統括安全衛生管理組織の全ての責任者が出席する等と定められていた。
 (ウ) 職制及び協力会社の任務
 課長、係長及び作業長並びに協力会社事業主は、工程会議等の決定事項など安全衛生対策に必要な処置を実施する等と定められていた。
 3 RB−1
 (1) 建造
 RB−1は、昭和47年6月に建造された、全長90.00メートル幅20.00メートル深さ5.50メートルの非自航式鋼製土砂運搬用のはしけで、約6,200トンの土砂積載量を有していた。
 (2) 船体構造
 RB−1は、スプーン型船首、両側スケグ付船尾の一層甲板型箱型式で、2個の水密横置隔壁により船首側から順に船首倉、土砂倉及び船尾倉の3区画に分割されていた。
 土砂倉は、長さ70.0メートル幅14.0メートルの倉口と左右舷側にそれぞれ約73度の傾斜を有する水密縦通傾斜壁の側壁と、船底から3.0メートル上方に幅12.4メートルを有する倉底部とからなっており、倉口船首部に高さ約3メートルの円弧形状の土砂落下防止用コーミング(以下「船首コーミング」という。)及び倉口船尾部に高さ約50センチメートル(以下「センチ」という。)のコーミングがそれぞれ設けられ、また、側壁から1.5メートル両舷外板寄りの甲板上に、それぞれ高さ1.05メートルの架台(以下「側部コーミング」という。)が備えられ、その頂部にホイルローダー走行用レール1条が設けられていた。
 また、土砂倉の下部及び両舷は、水密横置隔壁及び水密縦通隔壁各3個により、16区画に分割された浮力タンクと称するボイドスペースが設けられ、土砂倉の下部に各舷4個、同倉の両舷に各4個(以下、右舷側を船首方から順に「1、3、5及び7番サイドタンク」、左舷側を同様に「2、4、6及び8番サイドタンク」という。)ずつ備えられていた。
 (3) サイドタンク
 各サイドタンクは、長さ17.5メートル幅約3.4メートル高さ5.5メートル容積約350立方メートルで、甲板上に長径600ミリメートル(以下「ミリ」という。)短径400ミリの楕円形のマンホールを有し、その周囲に径22ミリの植込みボルト22個が取り付けられ、厚さ6ミリのゴム製パッキンを挟み、長径770ミリ短径570ミリ厚さ12ミリの鉄製マンホール蓋をかぶせナット締めで閉鎖するようになっており、マンホールからタンク底部まで、昇降用の鉄製垂直はしごが備えられ、タンク内部に梁など多数の鋼構造物があった。また、建造時には、各サイドタンク用の、径50ミリのキャップ式空気抜管が側部コーミング近くにそれぞれ設けられていたが、その後、海水の浸入を防ぐ目的からか、同管にめくら蓋が取り付けられて閉鎖状態となっていた。
 (4) 建造後の保守及び管理等
 RB−1は、昭和55年3月から昭和62年10月の間シンガポール港で埋め立て工事に従事したほか、主に阪神地区で埋め立て工事等に使用され、7年10月1日以降、9年3月入渠時を除いて兵庫県尼崎西宮芦屋港の西宮防波堤に係留され、月に1回程度係留状態の見回りが行われ、また、元年からの修理状況は、次のとおりであった。
 ア 元年8月24日から9月1日までの間
 側部コーミング等の修理目的でM神戸に入渠し、同コーミング頂部ホイルローダー走行用レール上に当て金施工等を行った。
 イ 5年8月16日から27日までの間
 各部点検修理の目的で川崎重工業株式会社神戸造船工場に入渠し、各タンク等のマンホールを開放して内部点検ののち、腐食部補強等の修理を行い、船体は塗装されたが、タンク内部は塗装されなかった。
 ウ 9年3月10日から4月7日までの間
 ウインドラス新替及び甲板ダブリングプレート取付工事等の目的で川崎重工業株式会社神戸造船工場に入渠し、同工事を行った。
 4 本件時の工事内容等
 K建設株式会社(以下「K建設」という。)は、RB−1を関西国際空港第2期工事に従事させるため、各倉及びタンクの内部検査工事(以下「工事」という。)を行う目的で、13年3月14日同社船舶部工務課長AがM神戸船舶海洋部営業課海洋修繕船営業チームの主任チーム統括Bに各倉及びサイドタンク等のマンホール開閉、酸欠及びガス検査、換気、内部鋼構造点検及び板厚計測等を記載した点検工事仕様書(以下「工事仕様書」という。)を送付して発注した。
 B主任は、造船工作部主席プロジェクト統括D及びC工事担当者に工事仕様書を渡して打ち合わせ、工期を4月1日から同8日までとして受注した。
 5 M神戸の対応
 (1) 統括安全衛生管理組織の各責任者の選任
 13年3月27日D主席は、E部長に代わって船統括に工事取りまとめ役のF主任、作業指揮者にC工事担当者、安全指揮者に船殻課社員のG、火気管理者に安全衛生係社員のHをそれぞれ選任することとした。
 また、I船渠海洋係長は、マンホールの開放等の作業に、船渠班作業長Jの下、作業責任者Wを当て、内部鋼構造点検と称する各倉及びサイドタンクと土砂倉下のタンクとの隔壁に錐穴・工事穴開口を行う作業に、海洋班作業長Vの下、協力会社である富士装備株式会社に依頼してその配下の大崎組の作業責任者Oを当てた。
 RB−1の工事に関わる職制及び統括安全衛生管理組織にまたがる者(以下、船統括、作業指揮者、安全指揮者、火気管理者、船渠海洋係長、作業長及び作業責任者を総称して「管理責任者」という。)は次図のとおりである。

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 (2) 酸欠主任者の選任
 ア 従来の酸欠主任者の選任等
 M神戸は、従来から修繕船等の工事において、工事場所が所・酸欠防止管理要領に記載してある酸欠危険場所に該当するところであっても、酸素濃度を測定してみなければ酸欠危険場所か否かわからないとして、安全衛生に関する法令及び自ら定めた管理要領を順守しないまま火気管理者を選任し、作業場所において、マンホールの開放後、工事開始前に同管理者に酸素濃度を測定させ、酸素濃度が18パーセント未満であれば、作業指揮者に報告させ、同人が課長に報告して初めて酸欠危険場所と認定し、酸欠主任者の選任や監視人の配置をするという作業方法(以下「従来からの作業方法」という。)により作業を行っていた。
 しかしながら、実際は火気管理者が測定した酸素濃度が20パーセント未満であれば、換気して作業を行っていたので、修繕船工事において、酸欠主任者の選任等が行われたことはなかった。
 イ 本件時の酸欠主任者の選任等
 工事は、各倉及びサイドタンク等が安衛法施行令別表第6、第4号の、相当期間密封されその内壁が酸化されやすい施設で、5年8月27日から約8年間密封状態であったことから、約30年前の建造時にその内壁が酸化を防止するために塗装されていたとはいえ、内壁の酸化を防止する効果がなくなった酸欠危険場所に該当するところで行う作業で、すなわち酸素欠乏危険作業(以下「酸欠危険作業」という。)であるから、作業計画に際し、同作業に従事する作業者が酸素欠乏症に陥ることがないよう、作業の方法を決定し、作業者を指揮する酸欠主任者の選任や監視人の配置、立入禁止等の措置をとらなければならないものであった。
 ところが、管理責任者等の対応は次のとおりであった。
 (ア) C作業指揮者
 同作業指揮者は、工事受注時RB−1の船齢が古く、発錆による酸素欠乏の危険があることを聞いていたので、同船が元年M神戸で側部コーミング等の修理したときの資料から建造時の仕様書を探し、昭和47年建造であることを知ったが、各倉及びサイドタンク等の保守管理状況をK建設のA工務課長に問い合わせるなどして精査せず、建造時にサイドタンク等の内部を錆止め塗料で2回塗装してあるから酸欠危険場所でないと判断し、従来からの作業方法で十分と思い、酸欠主任者の選任等をN前課長に進言しなかった。
 こうして、C作業指揮者は、3月29日各責任者名及び工事内容を記載した修繕船作業指図書(以下「作業指図書」という。)及び工程を記載した内検予定表を作成し、D主席、N前課長、F船統括、G安全指揮者、H火気管理者及びI船渠海洋係長らに配布した。
 (イ) N前課長
 同課長は、作業指図書等を見て、各倉及びサイドタンク等のマンホール開閉、酸欠及びガス検査を行うことを知ったが、従来からの作業方法で十分と思い、安全衛生に関する法令及び管理要領を順守せず、酸欠主任者の選任や監視人の配置、立入禁止等の措置をとらなかった。
 (ウ) F船統括
 同船統括は、作業指図書等を見て、各倉及びサイドタンク等のマンホール開閉、酸欠及びガス検査を行うことを知ったが、従来からの作業方法で十分と思い、酸欠主任者の選任等をN前課長に進言しなかった。
 (エ) 工程会議出席者
 3月30日09時F船統括が所用で出席できず、C作業指揮者が代わって工程会議を開催し、D主席、I船渠海洋係長、G安全指揮者、H火気管理者、V海洋班作業長及びW作業責任者らが出席したものの、協力社員のO作業責任者に出席を要請しないまま管理責任者及び諸工事に関すること等を決定した。
 そして、各出席者は、古い船で発錆が多く酸素欠乏の危険があること等が話し合われたが、従来からの作業方法で十分と思い、酸欠主任者の選任や監視人の配置、立入禁止等の措置をとるなどの意見を出さず、だれもこのことをN前課長に進言しなかった。
 (オ) D課長
 同課長は、艤装課生産計画担当の職務に就いていたことから、作業指図書等を見て、各倉及び各タンクで酸欠及びガス検査を行うことを知り、4月1日就任したが、従来からの作業方法で十分と思い、安全衛生に関する法令及び管理要領を順守せず、酸欠主任者の選任や監視人の配置、立入禁止等の措置をとらなかった。
 6 作業員死亡に至る経緯
 RB−1は、13年4月1日12時30分神戸港和田防波堤灯台から真方位329度240メートルにあたる、神戸港のM神戸第5岸壁に左舷付けで係留された。
 翌2日08時30分ごろ日常業務連絡会を終えたW作業責任者は、作業員X及び同Yを伴いRB−1に乗船し、X作業員とともにレンチやたがねなどによりマンホールのナット取外し作業に当たり、Y作業員にマンホール蓋の開放と墜落防止用スタンション(以下「墜防用スタンション」という。)を設置する作業を行わせ、1、5、7及び8番サイドタンク並びに船尾倉のマンホール蓋の開放作業を開始した。
 F船統括は、船体を見回ったのち、C作業指揮者に横揺れが激しいので墜落防止措置を厳重に行わせるよう、H火気管理者にガス検査を確実に行うようそれぞれ指示したが、管理要領を順守することなく、酸素濃度測定が完了するまで、作業全般を監督する者を常駐させることなど、管理責任者と労働災害防止上の連絡及び調整を十分に行わないまま08時55分ごろ下船した。
 G安全指揮者は、動力機材や溶断機材の準備状況を見回って09時25分ごろ下船したが、その際、管理要領を順守することなく、マンホール開放後酸素濃度測定が完了するまで不安全な状態にしないなど、管理責任者と労働災害防止上の連絡及び調整を十分に行わなかった。
 I船渠海洋係長、J船渠班作業長及びV海洋班作業長らは、各作業間の連携など、管理責任者と労働災害防止上の連絡及び調整を十分に行わないまま09時30分ごろまでに下船した。
 また、H火気管理者は、電装課社員Rを見習いとして伴い、船渠班が開放した8番サイドタンクの酸素濃度を新コスモス電気株式会社製で酸素、可燃性ガス及び有毒ガスを測定できるモデルXPO−317と称する複合型ガス検知器により測定したところ、酸素濃度が21パーセントで、酸欠作業該当の有無、ガス濃度、立入りの可否、測定日時及び測定者を管理要領に定められているガス検定結果票に記載しなければならなかったが、管理要領を順守せず、同票を持参しなかったので、ガス検定結果票を掲示することなく、R社員に命じ、マンホール横の側部コーミング側壁に白チョークにより「OK」と書かせ、その後、船尾倉(酸素濃度21パーセント)、7番サイドタンク(同21パーセント)、5番サイドタンク(同20パーセント)及び1番サイドタンク(同21パーセント)の酸素濃度を測定して、同様に「OK」と書かせた。
 一方、C作業指揮者は、09時30分過ぎ酸素濃度測定が終了した8番サイドタンク内部を点検するため、同タンクに入ったところ、同タンクと土砂倉下のタンクとの隔壁に、以前穴をあけたのち塞いだと思われる二重張板を見つけ、同タンクを出たのち、タンク内で錐穴・工事穴開口作業の準備に当たるO作業責任者に、新しく穴をあけるより、とりあえず二重張板を外してみたらどうかなどと告げたのち09時50分ごろ下船したが、その際、管理要領を順守せず、各作業間の連携など、管理責任者と労働災害防止上の連絡及び調整を十分に行わなかった。
 O作業責任者は、RB−1に乗船前V海洋班作業長から日常業務連絡会で酸欠及びガス検査結果を確認して工事に当たることなどの指示を受けて部下の作業員Uを伴い乗船したが、C作業指揮者から舷側に墜防用スタンションを立てる作業などの指示を受けて同作業に当たったのち、一旦休息のため10時00分ごろU作業員とともに下船した。
 また、H火気管理者は、従来から火気管理者は酸素濃度を測定する作業を行えばよいものと認識していたところから、船渠班が残っているマンホール開放作業に手間取っており、換気の準備ができていなかったので、事務所で休息することとし、各作業間の連携など、管理責任者と労働災害防止上の連絡及び調整を十分に行わないままR社員を伴い10時15分ごろ下船した。
 W作業責任者は、管理責任者や海洋班が下船したのちも作業を続け、4番サイドタンクのマンホールのナットの取外しを終え、Y作業員が開放作業に取りかかったところ、マンホールと同蓋との隙間からシューと空気を吸い込む音を聞き、負圧となっていることを知ったが、このことを管理責任者に報告しないまま休息のため10時25分ごろ下船した。
 10時50分ごろ再び乗船したW作業責任者は、自らとX作業員とで船首倉や2及び3番サイドタンクの開放作業に取りかかることとし、Y作業員に4番サイドタンクの開放作業を行うよう指示し、同人が11時25分ごろ同タンクを開放して墜防用スタンションの設置作業を終えたが、酸素濃度を測定していないタンクにだれも入ることがないよう、マンホール蓋を載せ、2ないし3箇所ナット締めをしておくように指示せず、開放したまま放置した。
 一方、O作業責任者は、10時30分ごろU作業員とともに再び乗船し、従来からM神戸の社員から作業開始の可否などの連絡もないまま作業を行っていたところから、マンホール横の各ハッチコーミング側壁に「OK」と書いてあるのを見て、U作業員に7番サイドタンクに入って作業を行うよう指示し、自らは8番サイドタンクに入った。
 11時05分ごろO作業責任者は、8番サイドタンクの作業を終え、同タンクを出ると、U作業員も7番サイドタンクの作業を終えていたので、同人に5番サイドタンクに入るよう指示し、4番サイドタンクを見たところ、マンホールが開放され、墜防用スタンションが設置してあるのを認めた。
 O作業責任者は、これまでに入ったサイドタンクのマンホール横の各コーミングに「OK」と書いてあったので、4番サイドタンクも同様に安全であると思ったか、C作業指揮者から新しく穴をあけるより、とりあえず二重張板を外してみたらどうかなどと指示されていたことから、安全であると思ったかして、危惧感を持たないまま、同サイドタンクで作業を行うこととし、溶断機材やホースなどの準備をしたのち、11時40分少し前昇降用のはしごを降り、船首側へわずかに歩いたところ、11時40分ごろ酸素欠乏症で失神し、その場で昏倒した。
 一方、Y作業員は、船首倉や2及び3番サイドタンクの開放作業状況を見て回ったのち、11時40分わずか前再び4番サイドタンクに戻ったところ、タンク内に倒れているO作業責任者を発見し、咄嗟に救助しようと、昇降用のはしごを降りたところ、11時40分ごろ酸素欠乏症で失神し、その場で昏倒した。
 当時、天候は晴で、風力3の南西風が吹き、神戸港内は平穏で、気温は摂氏16度、湿度は49パーセントであった。
 U作業員は、5番サイドタンク内の作業を終えてマンホールから出たのち、1番サイドタンクに行き、溶断機材やホースなどの準備をしたのち、昼休みの時刻に近いのでO作業責任者を捜し、見あたらないので開放してある4番サイドタンクに行き、11時44分ごろマンホールからタンク内を覗いたところ、底部でO作業責任者及びY作業員が倒れているのを発見し、下船の途中であったW作業責任者にその旨を告げた。
 W作業責任者は、3番サイドタンクの開放を終え、マンホール横の側部コーミング頂部に白チョークで「酸欠マダ、1130」と記載して船首倉に行き、X作業員が同倉の開放を終えて先に下船していたので、船首コーミング頂部にも白チョークで同じ時刻を記載し、開放してある4番サイドタンクマンホール横の側部コーミング頂部に時計を見ないまま白チョークで「酸欠マダ、1140」と記載して昼食のため下船中、U作業員に呼び止められて、2人が4番サイドタンク内で倒れている旨を告げられ、同時45分ごろタンク内を覗いて確認後、各方面に緊急連絡した。
 7 救助模様等
 E部長、D課長及びF船統括は、RB−1に急行し、H火気管理者が4番サイドタンクの酸素濃度を測定したところ8パーセントであったことから、同人が11時55分ごろ空気呼吸器を装着して同タンクに入って2人を搬出し、救急車でM神戸病院に急送されたが、13時08分O作業責任者(昭和32年2月23日生)、同時22分Y作業員(昭和29年2月26日生)の各死亡が確認され、その後、神戸大学医学部において解剖の結果、ともに酸素欠乏(推定)により11時40分ごろ窒息死したものと検案された。
 また、H火気管理者は、2人を送り出したのち、12時45分ごろ6番サイドタンクの酸素濃度を測定したところ、8パーセントの値を得た。
 8 本件後にM神戸がとった措置
 M神戸は、本件発生後、直ちに事故対策本部を設置して対応に当たり、部災害・事故対策会議及び全社災害対策会議・安全衛生専門委員会等を開催し、再発防止対策として次のような措置をとった。
 (1) 酸欠危険場所等の明確化
 ア 各部課の酸欠危険場所・酸素欠乏のおそれ(以下「酸欠のおそれ」という。)のある作業を明確にし、再発防止を徹底する。
 イ 各部課の酸欠危険場所に酸欠危険場所・立入禁止の標識を掲示して、当該場所が酸欠危険場所であることを認識させる。
 (2) 酸欠危険場所の管理強化
 ア 酸欠危険場所での作業がある場合は、その工事開始までに酸欠危険作業事前検討会の開催を義務付ける。(毎日の作業開始前には事前検討会で決めた必 要事項を周知する)なお、酸欠のおそれのある作業については、今一度、管理体制・作業手順等を再確認し、作業者に内容を周知する。工事期間中に、作業手順、工法、作業者等に変更があった場合は、都度、連絡・調整を行い、作業者全員に周知する。
 イ 特に危険度の高い修繕船の酸欠危険作業事前検討会には、安全・衛生担当課も出席し、内容をチェックする。
 ウ 酸欠危険場所でガス溶接、溶断及び火気を取り扱う作業にあっては、立入者にはポータブル酸素濃度計(18パーセントでアラーム)を携帯させ、酸素濃度18パーセント以下での作業を禁止する。
 (3) 酸欠危険作業における安全意識の高揚
 ア 4月を酸欠災害防止強化月間とし、酸欠作業者に対する追教育、職場の総点検等を行い、風化防止を図る。
 イ 酸欠作業主任者及び酸欠作業特別教育受講者に対し、年1回の追教育を実施する。
 ウ 酸欠危険作業事前検討会開催ごとに、作業者全員に対し、酸欠作業に対する教育を実施する。
 エ 二次災害防止のため、空気呼吸器等の使用方法を含め、救出訓練を実施する。
 (4) M神戸総点検の実施
 M神戸において、死亡・重大災害につながる可能性のある作業・場所とその対策の是非を総点検する。(安全ミーティング等で各班ごとに洗い出す)
 (5) 造船工作部特別安全対策
 造船工作部を特別安全対策部とし、M神戸として特別管理をする。
 所長直轄特別査察班を編制し、安全管理の強化を図る。
 また、造船工作部は、M神戸の再発防止対策を基とし、次のような措置をとり、部・酸欠防止管理要領や修繕船工事における統括安全衛生管理要領等の見直しを行った。
 (1) 酸欠危険場所への立入管理の強化(勘違いしても入らない・連絡調整に不備があっても入らせない)
 ア 修繕船工事において任命する船専任安全スタッフは、酸素濃度測定の結果、立入禁止・立入許可の措置が完了するまで、現場に常駐し、関連作業者の乗船を禁止する。
 イ マンホール開放者は、酸素濃度測定未完のマンホールを開放状態で放置しないことを徹底する。(開放と同時に測定することを原則とする。測定の結果 酸素欠乏状態にある場合、測定が遅れる場合は、再度マンホール蓋を2個以上のナットで締め付け、閉鎖状態にする。)
 ウ 作業者は、立入許可票の表示のないタンクに入らないことを徹底する。
 (2) 酸欠危険場所での管理体制再構築
 ア 部・酸欠防止管理要領の見直しを実施し、下記事項を明記する。
 (ア) 部内酸欠危険場所・酸欠作業を明確にする。(酸欠危険場所・救急器具設置場所マップ作成)
 (イ) 酸素濃度測定結果は、立入許可票又は立入禁止標識の表示をもって行い、それ以外(チョーク等)の表示を一切禁止する。
 (ウ) 工事担当者(作業指揮者予定者)は、酸欠危険作業が想定される場合、当該課長に連絡し、課長は、酸欠主任者を選出する。
 (エ) 工事担当者(作業指揮者予定者)は、酸欠危険作業が想定される場合、関係する作業責任者(含む酸欠主任者)全員参加による事前検討会議を開催する。各作業責任者は、各作業者にその結果を周知する。
 (オ) チェックリストに基づいて、マンホール開放・測定・立入許可の一連作業を確実に実施する。また、チェックリストをマンホール入口に掲示し、関係作業者に状況を周知する。
 イ 修繕船工事において任命する船専任安全スタッフは、酸欠危険場所における必要な措置が管理要領に定めるとおり実施されているかを監督する。
 ウ 工事担当課長が、協力会社への工事発注時に必要な資格者(酸欠作業主任者・特別教育受講)を確認するとともに、管理要領を順守するよう指導する。
 (3) 酸欠作業主任者・酸欠作業者全員に対する教育演練(含む協力社員)
 ア 酸欠作業主任者・酸欠作業者全員に追教育を実施する。さらに、特別教育未受講者の中から必要な者に対し、特別教育を実施する。
 イ 酸欠危険作業については、着工前、関係作業者に対して酸素欠乏教育を実施する。
 ウ 4月を酸欠災害防止強化月間とし、下記の教育訓練を実施し風化防止を図る。
 (ア) 衛生・放射線管理課主催の年1回の追教育の受講
 (イ) 二次災害防止のための空気呼吸器等の演練
 (4) 造船工作部安全衛生管理体制強化
 ア 統括安全衛生管理体制を再構築
 (ア) 作業手順変更時の作業指示・連絡調整の徹底等、役割・責任を明確にした上で統括安全衛生管理体制とその役割・責任を社員に対して再教育する。
 (イ) 危険度の高い修繕船に対する特別管理船の指定と船専任安全スタッフの任命を実施する。
 イ 総括(ライン)安全衛生管理強化
 (ア) 各係スタッフに係内安全管理業務を所掌させる。(部・課安全スタッフ任せにしない。)
 (イ) 作業長による作業場点検を、点検時間を定める等により強化する。
 ウ 管理要領の総点検と風化防止
 (ア) 年1回実施中の業務監査に安全管理を監査項目として加え、安全管理の監査を実施する。
 (イ) 過去の重大災害の洗出しとそれに基づいて作成する災害防止カレンダーにより、定期的に当該作業場の点検、管理要領の教育等を実施する。

(主張に対する判断)
 本件は、M神戸岸壁において、総トン数2,797トンの大型鋼製はしけRB−1のサイドタンク等の点検工事に当たる際、サイドタンクに入った作業員2人が酸素欠乏症により死亡したものである。
 M神戸は、S所長及び各代理人の当廷における各供述、「酸欠危険場所、酸欠のおそれのある場所の定義について」と題する書面及び補佐人の弁論などで、
1 本件時、従来からの作業方法によって作業を行ったことは、何ら法律の趣旨に悖るものではないから、酸欠主任者を選任していなかったことは、本件発生の原因となるものではない旨主張するので、この点について検討する。
 M神戸は、所・酸欠防止管理要領に安衛法施行令別表第6に基づき、酸欠危険場所を定め、かつ、酸欠主任者を選任するように定めておきながら、従来から修繕船等の工事において、工事場所が酸欠危険場所に該当するところであっても、酸素濃度を測定してみなければ酸欠危険場所か否かわからず、修繕船工事では酸素欠乏災害と同等に火災・爆発災害のおそれもあるとして、火気管理者を選任し、作業場所において、マンホールの開放後、工事開始前に同管理者に酸素濃度を測定させ、酸素濃度が18パーセント未満であれば、作業指揮者に報告させ、同人が課長に報告して初めて酸欠危険場所と認定し、酸欠主任者の選任や監視人の配置に至る流れで、いわゆる、従来からの作業方法に甘んじていたものであり、これら作業方法は、安全衛生に関する法令及び自ら定めた管理要領を順守していなかったものである。
 すなわち、作業計画に際し、工事仕様書の各倉及びサイドタンク等のマンホール開閉、酸欠及びガス検査等の記載から、作業場所が安衛法施行令別表第6、第4号に該当するか否かを検討する必要があり、安全衛生に関する法令や管理要領を順守していれば、作業場所が、酸欠危険場所に該当し、酸欠危険作業であるから、作業開始前に、単にガス濃度を測定することのみを任務とする火気管理者ではなく、同作業に従事する作業員が酸素欠乏症による死亡に至ることがないよう、作業の方法を決定し、作業員を指揮する酸欠主任者の選任等をすべきであったから、同主張は当を得ない。
2 死亡した作業員2人が自らの判断により、あるいは、立入許可があったものと誤認したことにより4番サイドタンクに立ち入ったことが本件発生の主因である旨主張するので、この点について検討する。
 前示のごとく、酸欠主任者を選任していれば、同人が、サイドタンク等で作業に従事する作業員が酸素欠乏の空気を吸入しないように作業の方法を決定し、作業員を指揮することができ、また、監視人の配置や立入禁止等の措置を講じていたならば、死亡した作業員2人が4番サイドタンクに立ち入ることを防止することができたものであって、酸素欠乏状況は作業員の五感によって認めることが不可能であるにもかかわらず、両作業員の過失を強調した同主張は当を得ない。

(原因の考察)
 本件は、事実及び主張に対する判断により、以下の原因が考えられる。
1 衛生管理状況
 (1) N前課長及びP課長が、作業開始前、ともに安全衛生に関する法令及び管理要領を順守せず、酸欠主任者の選任や監視人の配置、立入禁止等の措置をとらなかったこと
 (2) C作業指揮者が、工事受注時RB−1の各倉及びサイドタンク等の保守管理状況等をK建設のA工務課長に問い合わせるなどして精査せず、酸欠主任者の選任等をN前課長に進言しなかったこと
 (3) F船統括が、酸欠主任者の選任等をN前課長に進言しなかったこと
 (4) 工程会議に出席したD主席、I船渠海洋係長、G安全指揮者、H火気管理者、V海洋班作業長及びW作業責任者らが、だれも酸欠主任者の選任や監視人の配置、立入禁止等の措置を講じるなどの意見を出さず、このことをN前課長に進言しなかったこと
 (5) 衛生・放射線管理課が、昭和58年6月15日所・酸欠防止管理要領を改訂したにもかかわらず、14年1月1日まで、なお書を追記しなかったこと
2 安全管理状況
 (1) F船統括が、下船時、管理要領を順守せず、酸素濃度測定が完了するまで、作業全般を監督する者を常駐させることなど、管理責任者と労働災害防止上の連絡及び調整を十分に行わなかったこと
 (2) C作業指揮者が、下船時、管理要領を順守せず、各作業間の連携など、管理責任者と労働災害防止上の連絡及び調整を十分に行わなかったこと
 (3) G安全指揮者が、下船時、管理要領を順守せず、マンホール開放後酸素濃度測定が完了するまで不安全な状態にしないなど、管理責任者と労働災害防止上の連絡及び調整を十分に行わなかったこと
 (4) I船渠海洋係長、J船渠班作業長及びV海洋班作業長らが、下船時、各作業間の連携など、管理責任者と労働災害防止上の連絡及び調整を十分に行わなかったこと
 (5) H火気管理者が、管理要領を順守せず、ガス検定結果票を持参しなかったので、酸素濃度を測定した各タンクのマンホール付近に同票を掲示することなく、マンホール横のコーミング側壁に白チョークにより「OK」と書かせたこと、及び下船時、各作業間の連携など、管理責任者と労働災害防止上の連絡及び調整を十分に行わなかったこと
 (6) W作業責任者が、4番サイドタンクが負圧となっていることを管理責任者に報告しなかったばかりか、部下に対して開放した同タンクのマンホール蓋を仮閉めをしておくように指示せず、開放したまま放置したこと
 これらを総合すると、M神戸が、酸素欠乏危険に対する安全衛生管理が不十分で、安全衛生に関する法令及び自ら定めた管理要領を順守しなかったことは本件発生の原因となる。

(原因)
 本件作業員死亡は、神戸港M神戸岸壁において、造船業者が、大型鋼製はしけRB−1のサイドタンク等の工事に当たる際、酸素欠乏危険に対する安全衛生管理が不十分で、安全衛生に関する法令及び自ら定めた管理要領を順守せず、酸欠主任者の選任等や管理責任者間の労働災害防止に関する連絡及び調整等を十分に行わなかったことから、酸欠危険場所である同タンクに入った作業員2人が酸素欠乏症に陥ったことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 M神戸が、神戸港M神戸岸壁において、大型鋼製はしけRB−1のサイドタンク等の工事に当たる際、酸素欠乏危険に対する安全衛生管理が不十分で、安全衛生に関する法令及び自ら定めた管理要領を順守せず、酸欠主任者の選任等や管理責任者間の労働災害防止に関する連絡及び調整等を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 なお、M神戸は、本件発生後、直ちに事故対策本部を設置して対応に当たり、災害対策会議・安全衛生専門委員会を開催し、管理要領の一部改訂などを行った。
 しかしながら、M神戸は、従来からの作業方法によって作業を行ったことは、法律の趣旨に悖るものではなく、死亡した作業員2人が自己判断により、あるいは、立入許可があったものと誤認したことにより、4番サイドタンクに立ち入った自過失によるもので、何ら管理面に問題はなかったと一貫して主張し、安全衛生に関する法令及び自ら定めた管理要領を順守せず、酸素欠乏危険に対する安全衛生管理を徹底する意識が希薄であることは、誠に遺憾である。
 M神戸に対しては、海難審判法第4条第3項の規定により勧告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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