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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成13年門審第85号
件名

プレジャーボートりょう丸同乗者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年2月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、原 清澄、相田尚武)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:りょう丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:りょう丸同乗者

損害
船長が左脚挫滅創、のち左足切断

原因
同乗者に船首部で見張りを行わせる際の安全措置不十分

主文

 本件同乗者負傷は、同乗者に船首部で見張りを行わせる際の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月23日05時54分
 鹿児島県万之瀬川河口

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートりょう丸
全長 7.83メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 47キロワット

3 事実の経過
 りょう丸は、船体中央からやや後方に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、B指定海難関係人ほか友人1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.55メートルの喫水をもって、平成12年7月23日05時40分鹿児島県万之瀬川左岸の、烏山山頂から006度(真方位、以下同じ。)2.0海里の係留地を発し、同川河口沖合約2海里の釣り場に向かった。
 ところで、A受審人は、平成4年にりょう丸を購入し、翌5年に長さ1.2メートル幅0.7メートルのやりだし板を船首部甲板上に同甲板から約0.3メートル前方に突き出した状態で増設したうえ、高さ0.5メートルでその両端と中央部にそれぞれ支柱を有する、直径22ミリメートルのステンレス製パイプの手すりを同板の左舷端のみに取り付け、同板上に縦0.5メートル横0.4メートル高さ0.35メートルの塩化ビニール製角かごを置いて手すりの支柱及び船首部甲板後端中央部のたつにロープで固縛し、その中に錨索を収納していた。
 また、万之瀬川は、鹿児島県西部を西方に流れて東シナ海に注いでいる川で、幅約600メートルの河口は吹上浜と称する砂丘に開き、河口付近では両岸から砂が堆積して州が形成され、同河口沖合一帯も遠浅となっており、東シナ海からのうねりが浅海域に打ち寄せると、しばしば磯波が発生することがあった。
 A受審人は、昭和50年からプレジャーボートを所有して万之瀬川河口沖合で魚釣りを楽しんでいたところ、知り合いのB指定海難関係人が自らも長年プレジャーボートを所有して同沖合で魚釣りを行い、釣り場や仕掛けに詳しかったので、5年ばかり前から時々同人と一緒にりょう丸で魚釣りに出かけるようになっていたもので、同受審人及び同指定海難関係人ともに同河口付近の州や磯波発生状況などについて十分に承知していた。
 発進後A受審人は、干潮直後で水深が浅く、州も大きく現れて可航水域が著しく制限された状況下、操舵室舵輪後方に立つと船首至近の水深を十分に確認することができず、河口から約1,600メートル上流に架かるサンセット ブリッジの下を通過したころ、プロペラ翼が砂を掻(か)いたので、同室後方にいたB指定海難関係人と友人に対し、船尾側を軽くするために船首部へ移動するとともに前路の見張りを行うよう依頼したところ、B指定海難関係人がやりだし板に上がり、友人が船首甲板後方へ移動したのを認めた。
 A受審人は、やりだし板には手すりが左舷側にしかなかったうえ、錨索用角かごを置いていたので見張りを行う十分な余裕面積がなく、磯波などにより船体が動揺すると同板から転落するおそれがあったが、B指定海難関係人が万之瀬川河口付近の状況を十分に承知していたうえ、りょう丸に時々乗船して慣れていたので、まさか転落することはあるまいと思い、同板から下りるよう指示するなど、船首部で見張りを行わせる際の安全措置を十分にとることなく下航を続けた。
 こうしてA受審人は、B指定海難関係人が救命胴衣及び命綱を使用しないで錨索用角かごの右側に右足のみを立膝として座り、左手でハンドレールあるいは錨索用角かごを握った姿勢のまま右手で行う合図にしたがって操舵に当たり、万之瀬川左岸寄りをゆっくりとした速力で進行したのち、左岸から中央部に延びる州を避けて右岸寄りに移動し、05時53分烏山山頂から001度2.4海里の地点に達したとき、針路を275度に定め、水深が深くなったことから機関を回転数毎分1,200に上げて7.0ノットの対地速力で続航した。
 A受審人は、間もなく磯波発生水域に近づき、05時54分少し前B指定海難関係人が正船首方に浅瀬を認め、後方を振り返りながら右手で左転するよう合図をしたので、左舵をとってゆっくり回頭中、磯波を左舷前方から受けて船体が大きくピッチングし、05時54分烏山山頂から358.5度2.4海里の地点において、B指定海難関係人がやりだし板から水中に転落し、その直後同人の左足をプロペラ翼が強打した。
 当時、天候は曇で風力1の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、南西から波高約1メートルのうねりがあった。
 その結果、B指定海難関係人は、A受審人及び友人に救助されたが左足挫滅創を負い、のち病院において左足切断の手術が行われた。

(原因)
 本件同乗者負傷は、鹿児島県万之瀬川沖合の釣り場に向けて同川河口を下航中、同乗者に船首部で見張りを行わせる際の安全措置が不十分で、同乗者が水中に転落し、プロペラ翼で左足を強打したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、鹿児島県万之瀬川沖合の釣り場に向けて同川河口を下航中、同乗者に船首部で見張りを行わせるに当たり、同乗者がやりだし板に上がったのを認めた場合、同板上には手すりが左舷側にしかなかったうえ、錨索用角かごを設置して見張りを行う十分な余裕面積がなく、磯波などにより船体が動揺するとやりだし板から転落するおそれがあったから、同板から下りるよう指示するなど、船首部で見張りを行わせる際の安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同乗者が万之瀬川河口付近の状況を十分に承知していたうえ、りょう丸に時々乗船して慣れていたので、まさか転落することはあるまいと思い、やりだし板から下りるよう指示するなど、船首部で見張りを行わせる際の安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、同乗者を同板に上げたまま、磯波発生水域に近づき、船体が動揺して同乗者の水中転落を招き、プロペラ翼で強打して左足挫滅創を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、鹿児島県万之瀬川沖合の釣り場に向けて同川河口を下航中、A受審人に依頼されて船首部で見張りに当たる際、船首部のやりだし板に上がって見張りを行ったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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