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平成13年広審第76号
件名

貨物船第二十一幸栄丸作業員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年2月14日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(伊東由人、?橋昭雄、坂爪 靖)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第二十一幸栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
作業員が脳挫傷で死亡

原因
甲板上の旋回式ジブクレーン起動テスト施行時の安全に対する配慮不十分

主文

 本件作業員死亡は、甲板上の旋回式ジブクレーン起動テスト施行時の安全に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月26日09時10分
 広島県佐伯郡能美町 中谷造船株式会社内

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十一幸栄丸
総トン数 498.26トン
全長 52.4メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 882キロワット

3 事実の経過
 第二十一幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)は、鈴江重機株式会社製のSE200LG型と称する制限荷重9.0トンの旋回式ジブクレーン(以下「クレーン」という。)1基を装備した、船尾船橋型鋼製砂利採取運搬船で、鹿児島県阿久根港に係船されていたところ、有限会社浦崎商店から広島県呉市に所在する日幸産業有限会社に売却されることになり、売船前に中間検査を受ける目的で、同社の派遣したA受審人ほか2人が乗り組み、平成12年12月13日08時00分同港を発し、同月15日17時00分広島県佐伯郡能美町の中谷造船株式会社(以下「中谷造船」という。)沖合に至って仮泊し、翌16日09時00分同社第1号ドックに入渠した。
 幸栄丸は、船体中央部に長さ16.5メートル幅5.7メートル深さ5.3メートルの船倉1個を備え、前部甲板の船体中心線上に円形台座が設置されていて、右側前部に運転室を備えたクレーン機械室(以下「機械室」という。)が、同台座上に倉口の前部コーミングの上方にその前面が位置するよう据え置かれていた。機械室には、バッテリーにより起動される1基のディーゼルエンジンと、同エンジンにより減速器及びクラッチを介して駆動される各種ドラムがあって、グラブバケットを操作するためのワイヤの巻き込み装置として、開閉のための開閉索ドラムと吊り揚げのための支持索ドラムとがあり、それぞれのドラム付きクラッチ及びブレーキを個別に操作するため、運転席の前に支持ブレーキ、開閉ブレーキ、支持クラッチ及び開閉クラッチの手動操作レバーが設置されていた。また、運転室の左側壁に接して電源のメインスイッチ及びエンジンのスタータースイッチなどのある操作台が設けられ、運転席前の床上に機械室そのものを旋回させるための操作ペダルがあった。
 入渠時、倉口にハッチビーム、ハッチカバーは置かれておらず、クレーンブームは船体中心線に沿って倉口の上方を縦断し、その先端部がハウス前に設けられたブームレストに納められており、一方グラブバケットは船倉内後部に、船倉の左舷側壁にその側面を接して置かれていて、クラブバケット頂部から、支持及び開閉ワイヤが斜め上向きの方向にブーム先端部のポイントシーブに向かって張り合わされていた。また、支持ドラムと開閉ドラムのクラッチは内部拡張式で、クラッチドラム本体とクラッチライニングの間隙はクラッチ支点部が0.2ないし0.3ミリメートルに末端部が1.5ないし2.0ミリメートルとなるよう調整されていたが、数箇月使用しない場合は錆などによって固着し、ブレーキを締めずにエンジンを起動すると、エンジンの回転に伴ってドラムが連れ回りするおそれがあった。
 ところで、A受審人は、クレーンが同年7月末に前乗組員によって運転されて以来、作動テストも行われていない状態のまま、前乗組員からエンジン起動用のバッテリーが放電していることや最後に運転したときは異常がなかったことなどの引継を受けて交替し、クレーン及びグラブバケットなどの格納状態を確認したものの、クレーンを使用する予定もなくエンジンが起動できないこともあって運転も作動テストも行っていなかった。
 越えて同月26日08時ごろA受審人は、中間検査のためクレーンブームを移動する必要があることを知って、中谷造船の技師にバッテリーの充電を依頼して本船の前部甲板上で塗装作業を行っていたところ、機関科担当者Oが「バッテリーを見たが状態が悪いので新替えする方が良い。」といってきたので新替えしてもらうことにして新品のバッテリーのある場所を教えた。その後、船尾甲板へ行く用事があって倉口のそばを通過したとき船倉内で中谷造船作業員Cほか1人が作業をしているのに気付き声をかけて、前部甲板に戻り塗装作業を続けた。
 08時50分A受審人は、バッテリーの新替えを終えたO担当者からテストを行うよう頼まれて塗装作業を中断しクレーン運転室に入り、運転席に腰掛けてメインスイッチを入れて電源表示ランプの点灯で通電を確かめその旨同人に告げたところ、せっかくだからエンジンも起動してみて欲しいというので起動することにした。その際、開閉と支持両ブレーキレバーが共に開の位置となっていることを認めていたが、わずかな間エンジンをかけるだけなので、開閉と支持の両クラッチレバーを開の位置にしておけばワイヤが巻き込まれることはないと思い、起動前にクラッチなどの装置の点検及び作業圏内への立ち入りを禁止して安全確保を行うなどの、安全に対する配慮を十分に行うことなく、09時10分少し前スタータースイッチを回してエンジンを起動したところ、支持クラッチが固着していてエンジンの回転と共に同ドラムが連れ回りし、グラブバケット頂部に連結された支持ワイヤが巻き込まれて頂部が斜め上向きに引かれて同バケットが傾き、09時10分同バケットの自重によってクラッチの固着が解消されると同時にグラブバケットが転倒した。
 一方、C作業員は、08時00分ごろ研修員Mと共に船倉内に入り、ガス切断機とハンマーなどを使用して傷んだ内底鋼板の張り替え作業に従事し、09時00分ごろからグラブバケットの右舷方に移動して同バケットに背を向けて、座って鋼板の加熱を行い、M研修員を傍らに立たせ作業を補佐させていたところ、09時10分転倒したグラブバケットと内底鋼板との間に挟まれた。
 当時、天候は晴れ、風力3の西風が吹いていた。
 作業員C(昭和12年4月4日生)は、救急車で病院に搬送されたが、脳挫傷によりすでに死亡していた。

(原因)
 本件作業員死亡は、広島県佐伯郡能美町の中谷造船に入渠中、長期間使用されていなかったクレーンの起動テストを行う際、安全に対する配慮が不十分で、クラッチが固着したままエンジンを始動して支持索ドラムが連れ回り、ワイヤが巻き込まれて船倉内に置かれていたグラブバケットが転倒し、船倉内で作業中の作業員がその下敷きになったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、中谷造船に入渠中、長期間使用されていなかったクレーンの起動テストを行う場合、起動前にクラッチなどの装置の点検及び作業圏内への立ち入りを禁止して安全確保を行うなどの、安全に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、わずかな間エンジンをかけるだけなのでクラッチレバーを開の位置にしておけばワイヤが巻き込まれることはないと思い、安全に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、クラッチが固着したままエンジンを始動して支持索ドラムが連れ回り、ワイヤが巻き込まれて船倉内に置かれていたグラブバケットが転倒し、船倉内で作業中の作業員がその下敷きになり死亡するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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