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平成13年那審第25号
件名

貨物船第七海宝丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年1月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、清重隆彦)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:第七海宝丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
指定海難関係人
O砂利採取事業協同組合 業種名:砂利採取販売業

損害
機関長が体幹部打撲、肺出血及び溺水により死亡

原因
甲板作業時の安全措置不十分、船舶管理者に対する監督不十分

主文

 本件乗組員死亡は、甲板作業時の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 船舶所有者が、安全管理業務について、船舶管理者に対する監督が十分でなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月13日09時40分
 沖縄県辺戸岬南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第七海宝丸
総トン数 915トン
全長 77.12メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
(1) 上甲板配置
 第七海宝丸(以下「海宝丸」という。)は、平成7年5月に進水した全通二層甲板船尾船橋型の砂利採取運搬船で、船首楼甲板の両舷に揚錨機が、右舷側揚錨機の船尾方に係船機が、船首楼甲板と船倉との間に制限荷重18.0トンの旋回式ジブクレーンが、同クレーンの船尾方に満載すると1,400立方メートルの海砂が積載できる船倉1個が、船倉と居住区との間に海砂の選別機が、選別機の右舷側に係船機が、居住区の船尾方両舷に係船機などがそれぞれ配置されていた。
 また、上甲板左舷側には、海砂採取装置の操作用として船首方から順番号が付された4基のダビットが配置され、水中サンドポンプ(以下「サンドポンプ」という。)、採砂管及び採砂ホースを上甲板左舷側の舷側に格納するようになっていた。
(2) 海砂採取装置
 同装置は、小松ドレッジシステム株式会社が製造したYS800型と称する装置で、電動渦巻式で揚程30メートル、揚水量毎時4,200トンの主ポンプと吸込管が詰まり気味になったときに海水量の補助をする電動渦巻式で揚程35メートル、揚水量毎時360トンの副ポンプ(以下「ジェット水ポンプ」という。)とで構成されたサンドポンプ、吸込部口径1,100ミリメートル(以下「ミリ」という。)でラッパ形をした鋼製吸込管(以下「ラッパ管」という。)、鋼管溶接補強型で呼び径550A、長さ36.5メートルの採砂管、耐摩耗性で口径537ミリ、長さ9メートルのゴムホースを4本繋いだ採砂ホースなどで構成され、全長が82.5メートルであった。
 同装置の操作は、1号ダビットでサンドポンプを、2号ダビットで採砂管を、3号及び4号ダビットで採砂ホースをそれぞれ吊り下げ、同装置の昇降を行うようになっていた。
 ラッパ管などを取り付けたサンドポンプは、高さ約3メートル、幅約2メートル、長さ約10メートル、重量23.9トンで、水深45ないし65メートルの海底に降ろされ、主ポンプの水流で撹乱浮遊された堆積物を海水とともに吸い揚げるようになっていた。
 ところで、海宝丸のサンドポンプは、平成12年9月頃ジェット水ポンプのインペラが摩耗して性能が低下し、海砂採取時に海砂と海水との割合がくずれて海砂の方が多くなり、採砂管が再々閉塞するようになったが費用の関係で同年11月21日主ポンプの吸込み側に自然吸水管を新設し、採砂管が海砂中に没したときでも海水が同吸水管から吸引され、常に安定した海砂採取ができるように改造が施されていた。
(3) 受審人A
 A受審人は、冷凍貨物船、トロール漁船などに乗り組んだのち、平成8年10月O砂利採取事業協同組合に入社し、海宝丸の乗組員として10日間就労して5日間休日をとる就労体制のもと、船長と一等航海士との職務を交互に繰り返し、船長として乗船時には統括管理者として安全担当者記録簿の記載などを行っていた。
(4) 指定海難関係人O砂利採取事業協同組合
 指定海難関係人O砂利採取事業協同組合(以下「組合」という。)は、昭和47年11月に8企業を組合員として同事業に対する沖縄県の許認可を取得する目的で設立され、業務内容を沖縄島周辺海域での砂利の共同採取、共同販売、採取運搬に係る海運業務などとしていた。
 組合は、設立当初、船舶を所有することができなかったことから、船舶の所有と船舶管理を行う目的で、株式会社R(以下「R」という。)を前示組合員の出資によって設立し、その後の規制緩和によって組合の船舶所有が可能となったことから、Rの自社船5隻の内2隻を処分して新たに海宝丸他1隻を組合の所有船として建造し、船舶管理については従前の通りRに委託していた。
(5) 組合とRとの関係
 組合とRとの関係は、出資者が同じであったこと、Rが組合の所有船建造に設計段階から深く関与していたこと、処分船の乗組員がRを退職してそのまま新造船の乗組員として組合に移籍したこと、代表取締役社長が組合の理事を兼務していたこと、組合の職員とRの社員とが混在する職場環境であったことなどから、法人としては全く別組織であったものの、Rは自社を船舶に関する組合の一部門であると認識し、船舶管理に関する契約書類などがないまま、運航、保船、配乗、購買、労務、安全衛生などの船舶管理を組合の所有船に対しても自社船と同様に行い、組合も同様の認識であった。
(6) 安全管理体制
 海宝丸の安全管理体制は、統括管理者による安全担当者記録簿への作業設備・用具の点検及び整備に関する事項の記載、安全標語の船内掲示、不定期に開催される船内安全会議などを行っていたものの、安全担当者の業務に対する認識がなく、甲板作業を行う際に出入港時を除いて作業用救命衣など安全保護具の着用を励行していないなど、安全に対する意識が低い状況であった。
 組合の安全管理体制は、Rの船員27人、組合の船員18人及び県外用船の船員18人、合計7隻63人に対する安全管理者の実務をRの船舶部長に委託し、各船に対しては船長に任せきりとしていた。
 Rは、毎月1回の訪船による安全点検のほか、各船の船機長、組合の代表者、Rの船舶部社員などが20人ほど出席する船機長会議と称する会議を毎月1回開催し、許認可条件の遵守などの注意喚起を行うとともに安全について指導を行っていたが、揚荷作業など陸上と船舶との共同作業についての安全指導であり、甲板作業など船舶独自の作業については具体的な安全指導を行っていなかった。
 また、組合は、Rが船舶に関する組合の一部門であるという認識から、船側に対する甲板作業の安全指導の実施及び結果の報告など安全管理業務について、船舶管理者に対する監督が行える体制であったものの十分に監督を行っていなかった。
(7) 本件発生に至る経緯
 海宝丸は、A受審人及び機関長Kほか4人が乗り組み、テレビの天気予報で時化ることが予想されたことから平素より30分早い、平成13年1月13日01時00分那覇港新港埠頭を発し、海砂を採取する目的で沖縄県国頭郡国頭村佐手沖合に向い、同日06時30分水深約50メートルの海砂採取現場に至り、右舷錨を投じ、錨鎖75メートルを延出して錨泊したのち、規則に従って07時00分から海砂採取を開始したところ、08時30分頃天候が悪化し始めるとともに風向が南風から北風に変わり、船体の振れ回り、動揺、錨鎖の弛みなどでいつしか錨鎖がサンドポンプに乗り掛かる状況となった。
 A受審人は、海上に白波が立ち初めて時化模様となったことから1,200ないし1,300立方メートルの海砂を採取した時点で採取を中止し、08時50分サンドポンプを格納するために同ポンプを引き揚げ始めたところ、09時00分同ポンプに新設した自然吸水管に錨鎖が乗り掛かっていることを認めた。
 A受審人は、右舷錨がサンドポンプとともに引き揚げられたことから、北風の影響で海宝丸が陸に向って流されていることに気付き、操舵室に赴いて主機を微速力前進にかけ、沖合に向って約10分間航走した。
 錨鎖の不具合を認めた乗組員は、サンドポンプから錨鎖を引き外す作業に取り掛かり、錨鎖にホーサーを巻き付けて固定し、同ポンプを上下させることで引き外そうとするなどしたが引き外せず、そのうち採砂管に溶接付けされた自然吸水管用架台の支柱が同架台からいつしか外れ、生じた隙間に弛んだ錨鎖が入り込み、錨鎖が支柱に引っ掛かる状況となったことを認めた。
 A受審人は、操舵室から09時15分作業現場に戻り、K機関長が錨鎖を外す目的で、舷側から約2メートル離れた舷外となるサンドポンプの据付け台に作業用救命衣を着用しないまま乗り、外れた支柱をガス切断器で溶断しようとしていることに気付いたものの、作業用救命衣の着用及び支柱が溶断されたとき重量物である錨鎖が動かないよう、錨鎖の固定を指示するなど、甲板作業時の安全措置を十分に行うことなく、同時30分Rとの電話連絡を操舵室で約5分間行ったのち再度作業現場に戻って作業に加わった。
 K機関長は、屈んで支柱の溶断を行っていたところ、約半分を溶断したとき錨鎖の重さで溶断されていない残余の支柱が引きち切られ、錨鎖の弛んでいた部分が突然動いたことから、09時40分辺戸岬灯台から真方位204度4.0海里の地点において、体の平衡を失って海中に転落した。
 当時、天候は曇で風力5の北風が吹き、海上は白波があった。
 A受審人は、K機関長が転落したことに気付き、救命浮環を投げ入れたが届かず、自船から離れて行く同機関長に近付くよう、海宝丸を操船し、その間、乗組員が順次海に飛び込んで意識を失った同機関長を救助し、10時10分船上に引き揚げて人工呼吸を行うとともに救援を求めた。
 その結果、K機関長(昭和34年3月30日生、五級海技士(機関)(機関限定)免状受有)は、海上保安庁の救難ヘリコプターなどで病院に搬送されたが、体幹部打撲、肺出血及び溺水により死亡と検案された。
(8) 事後の措置
 海宝丸は、乗組員に対し、甲板作業を行うとき、作業用救命衣を含め安全保護具の着用を義務付けることで同種事故の再発防止に努めることとした。
 組合は、サンドポンプの開放整備を行い、不要となった自然吸水管を撤去するとともに、安全大会と称する安全に関する会議を半年に1回開催し、外部講師を招いて講習会を行うことなどを船舶管理者に行わせ、陸上職員及び乗組員の安全意識の高揚を図ることで同種事故の再発防止に努めることとした。


(原因)
 本件乗組員死亡は、サンドポンプに乗り掛かった錨鎖を引き外す作業を行う際、甲板作業時の安全措置が不十分で、舷外で溶断作業を行っていた乗組員が、体の平衡を失って海中に転落したことによって発生したものである。
 安全措置が不十分であったのは、船長が、甲板作業を行う乗組員に対し、作業用救命衣の着用、錨鎖の固定などの指示を行わなかったことと、乗組員が、作業用救命衣の着用、錨鎖の固定などを行わないまま同作業を行ったこととによるものである。
 船舶所有者が、甲板作業の安全指導など安全管理業務について、船舶管理者に対する監督が不十分であったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、サンドポンプに乗り掛かった錨鎖を引き外す作業を行う場合、乗組員が舷外で支柱の溶断作業を行うと体の平衡を失って海中に転落するおそれがあったから、作業用救命衣の着用、錨鎖の固定など、甲板作業時の安全措置を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、作業時の安全措置を十分に行わなかった職務上の過失により、作業用救命衣を着用していなかった乗組員の海中転落を招き、溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 組合が、船舶所有者として、甲板作業の安全指導など安全管理業務について、船舶管理者に対する監督を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 組合に対しては、本件後、安全大会と称する安全に関する会議の定期的な開催を船舶管理者に行わせ、陸上職員及び乗組員の安全意識の高揚を図った点に徴し勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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