(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月12日03時01分
愛媛県木浦松漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船泰英丸 |
総トン数 |
4.6トン |
登録長 |
9.37メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
50 |
3 事実の経過
泰英丸は、昭和60年3月に進水した、網船1隻、灯船兼錨船1隻及び灯船兼交通船1隻で構成される小型まき網漁業船団所属のFRP製網船で、船体中央部からやや後方に操舵室が設けられ、同室右舷前方の前部甲板上に環巻用リール、同室中央部左舷側に錨巻揚用ローラ及び同室後方に網捌機がそれぞれ1基設置されていた。そして、操舵室後方の船尾甲板は網置場となっており、同甲板船尾端には、甲板上約97センチメートル(以下「センチ」という。)のところに長さ約35センチ直径約30センチの円筒型のゴム製ローラ2個を左右に垂直に配置したVローラ(以下「揚網ローラ」という。)が備えられ、その下端に移動用レールが設けられ、投網時に揚網ローラを左舷側に寄せ、揚網時には右舷側に寄せてローラ間に網を挟み込ませて巻き揚げるようになっており、同ローラ用操作レバーは操舵室後部右舷側に設置され、操舵室内にこれら漁ろう機器駆動用油圧ポンプの操作盤が設けられていた。
また、揚網ローラは、揚網作業中に作業者がローラに巻き込まれる危険があるため、甲板上約1.07メートルのところのローラ下部周囲に直径約8センチの巻き込み防止用鋼管製固定ガードを、ローラ最上部内側には巻き込み防止のほか浮子綱や網などがローラからはずれても飛び跳ねないようにするための水平方向に開閉できる同径の鋼管製ガード(以下「水平ガード」という。)をそれぞれ取り付け、揚網開始時にこれを開いて浮子の付いた浮子綱に取り付けたロープ(以下「手綱」という。)をローラ間に置いたあと閉じ、ピンを挿入して固定したのち、揚網ローラ用操作レバーでローラを船尾側から見て内側に回転させて手綱、浮子綱及び網などの巻揚げを行っていたが、ローラが内側に回転しているとき船尾側から接近するとこれに巻き込まれるおそれがあった。
泰英丸は、愛媛県北灘湾北部に位置する木浦松漁港家次(いえつぐ)地区を基地として専ら同漁港沖合でほぼ周年いわしを漁獲対象として操業を行っていたところ、A受審人が1人で乗り組み、翌朝の操業に備えて集魚の目的で、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成13年5月11日18時30分ごろ同人所有の登録長6.72メートル船外機付きのFRP製灯船兼交通船久英丸を曳いて同漁港家次地区を発し、同時32分ごろその南方約200メートル沖合に至り、船首から錨を投入し、集魚灯を点灯したあと、久英丸で発航地に戻り、次いで同人所有の総トン数2.8トン登録長9.37メートルディーゼル機関装備のFRP製灯船兼錨船第二泰英丸を自ら操縦して泰英丸から西方約20メートル離れた地点に至り、泰英丸と同じ作業を行ったあと19時00分ごろいったん帰港して休息した。
ところで、操業方法は、長さ約120メートル幅両端部約30メートル中央部約45メートルの網の手綱の一方を第二泰英丸に渡したのち投網を開始し、集魚中の久英丸を中心として魚群を囲むように右回りに網を入れ、投網を終えて揚網ローラと環巻用リールを使用して長さ約15メートル直径約23ミリメートルのクレモナロープ製手綱の片方と沈子側の環綱の巻取りを開始し、環綱を絞ったのち、同ローラと網捌機を使用して手綱、浮子綱及び網などの揚収にかかり、久英丸を網から出し、網の輪を小さくし、魚を取り込んでから網を船尾甲板に収納するもので、投網に5ないし10分揚網に30ないし40分を要していた。
こうして、翌12日02時00分A受審人は、久英丸に同人の妻と泰英丸甲板員Sを乗せて木浦松漁港家次地区を発し、同時02分第二泰英丸に接舷し、同船の錨を揚収したのち泰英丸に引き寄せ、その錨索を第二泰英丸に移し変え、泰英丸の投網準備を済ませたあと集魚灯を消灯し、第二泰英丸のものは点灯したまま、都合で遅くなった泰英丸甲板員Fを迎えに同時44分いったん帰港し、同時46分泰英丸に戻り、第二泰英丸にS甲板員が乗り込んで、手綱の一方を受け取り、同船の集魚灯を久英丸に乗ったA受審人の妻に渡し、自らとF甲板員が泰英丸に乗って同時51分第二泰英丸の船尾方約15メートルの久英丸を中心として右回りに投網を開始し、同時56分投網を終えて第二泰英丸の左舷側に船首を北東方に向けて右舷付けし、S甲板員を泰英丸に移乗させて同人と自ら及びF甲板員の3人で直ちに揚網作業にかかった。
A受審人は、右舷中央部で環綱の巻取り、環締め作業を行い、その間、F甲板員を揚網ローラと網捌機の操作に就け、同人とS甲板員に手綱、浮子綱及び網などの巻揚げ作業を行わせることとしたが、両甲板員とも同作業を何度も経験し、作業に習熟していたものの、たまに巻込み中の手綱などがローラの間から外れることがあったので、日ごろ両甲板員に対し、同綱などを揚網ローラにかみ込ませる際、ローラに巻き込まれることのないよう、ローラの回転を止めてから行うこと、ローラが回転しているときは船尾側から近づかないことなどを指示し、作業手順を守らせて揚網作業時の安全を図っていたため、それまで一度も事故が発生していなかった。
F甲板員は、水平ガードを開いて手綱先端部をローラ間に置いてこれを閉じ、網捌機を介し、同綱先端部を明るく照明された操舵室後部左舷側に引っ張ってきて、素手で野球帽、雨合羽及びゴム長靴を着用して船尾方を向いて立っているS甲板員に持たせたあと、同部右舷側の揚網ローラ用操作レバーで揚網ローラを内側に回転させ、S甲板員と2人で手綱を引き揚げ、次いで揚がってくる浮子綱及び網などを網置場に収納するつもりで、元いたところに戻ったところ、S甲板員が「手綱がローラの間から外れた。」というので、ローラの回転を止めてくるからそこで待つように告げて同操作レバーのところに向かった。
ところが、S甲板員は、ローラの回転が止まるのを待ってから作業に当たるなどの作業手順を守らないまま、船尾側から揚網ローラに近づき、手綱をローラ間にかみ込ませようとしたところ、03時01分岩松港鵜刺防波堤灯台から真方位296度1.6海里の地点において、揚網ローラに右上半身が巻き込まれた。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の末期で、海上は平穏であった。
操舵室右舷側で環綱の巻取り作業をしていたA受審人は、船尾方からの叫び声を聞いて振り向き、S甲板員が揚網ローラに巻き込まれているのを認め、急ぎローラを逆転させて同人の体を外し、F甲板員に人工呼吸などを施させたあと久英丸で陸上に運び、救急車を手配するなどの事後の措置に当たった。
その結果、S甲板員(昭和18年9月4日生)は、病院に搬送されたが、外傷性ショックにより死亡した。
(原因)
本件乗組員死亡は、夜間、愛媛県北灘湾の木浦松漁港南方沖合において、小型まき網漁の揚網作業中、手綱を揚網ローラにかみ込ませる際、作業手順が守られず、作業中の乗組員が、回転中のローラに巻き込まれたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。