(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月22日05時45分
長崎県比田勝港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三海宝丸 |
総トン数 |
14トン |
全長 |
19.90メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
380キロワット |
回転数 |
毎分2,030 |
3 事実の経過
第三海宝丸(以下「海宝丸」という。)は、平成元年3月に進水した、主としていか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、株式会社小松製作所が製造したEM665A−A型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置、計器盤及び警報盤を備えていた。
主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、動力取出軸でバッテリー充電用発電機、操舵機用油圧ポンプのほか、集魚灯用発電機をそれぞれ駆動できるようになっていた。
主機のシリンダライナは、肉厚が10ミリメートルの特殊鋳鉄製で、一体形シリンダブロックに挿入されて同ブロックとの間で水ジャケットを形成し、シリンダライナ下部にはゴムリングが装着され、水密が保持されていた。
主機の冷却は間接冷却方式で、その清水系統は、容量7.7リットルの密閉型清水タンクから直結式冷却清水ポンプにより吸引して加圧された清水が、二方に分流し、一方は潤滑油冷却器を経て入口主管に導かれ、水ジャケット、シリンダヘッドを冷却し、他方は排気マニホルドを冷却したのち、水ジャケット冷却系統と合流し、温度調整弁を経由して同タンクに戻るようになっており、清水系統には、清水温度が上昇したとき操舵室警報盤に組み込まれた警報ランプが点灯し、警報ブザーが作動する清水温度上昇警報装置が備えられていた。
また、主機の潤滑油系統は、総量68リットルの潤滑油が、クランク室下オイルパンから直結式潤滑油ポンプで吸引して加圧され、潤滑油冷却器から同油こし器を経て同油主管に導かれ、各軸受部などに供給されたのち、オイルパンに戻って循環するようになっていた。
船長O(一級小型船舶操縦士免状受有、受審人に指定されていたが平成13年11月18日死亡)は、就航時から海宝丸に乗船して父親と交替で船長職をとり、主機の取扱いにも当たり、2日ないし3日の間隔で始動時に潤滑油量及び冷却清水量の点検と補給を、約1箇月ごとに潤滑油と同油こし器の交換などをそれぞれ行いながら、1箇月あたり約350時間の運転に従事していた。
ところで、海宝丸の主機は、就航後、1回ないし2回程冷却清水の交換が行われたものの、その後は防錆剤を含む清水に交換されずに水道水のみが補給され、次第に防錆効果が失われた状態で長期間に渡り使用が続けられ、また、清水タンク圧力キャップのシール部に損傷を生じて気密保持が行われなくなっていた。そのため、シリンダライナにキャビテーションなどによる浸食が進行し、いつしか1番シリンダライナ下部のゴムリングの少し上方付近において破孔を生じ、運転中は同シリンダライナに付着した潤滑油が燃焼室からクランク室へ漏洩(ろうえい)した燃焼ガスとともに破孔部から水ジャケット部に混入し、停止中は清水が破孔部からオイルパン内の潤滑油に混入するようになった。
O船長は、清水タンクの点検を行っていたところ、水量が減少することを認め、その都度清水を補給し、次第に補給を頻繁に行うようになったが、修理業者に依頼するなどの、冷却清水の漏洩箇所の点検を十分に行わず、また、清水タンク内の水質も点検しなかったことから、1番シリンダライナの浸食破孔部からの漏水と潤滑油の混入に気付かないまま、運転を繰り返した。
そのため、海宝丸は、清水の混入により潤滑油の性状が著しく劣化して主軸受及びクランクピン軸受などの潤滑が阻害され、かき傷を生じるようになった。
こうして、海宝丸は、O船長が1人で乗り組み、平成11年8月21日14時30分長崎県対馬上島の芦(よし)ケ浦漁港を発し、18時30分ごろ対馬北東方沖合の漁場に至り、集魚灯用発電機を駆動して操業に従事し、翌22日05時30分ごろ水揚げのため、漁場を発進し、同県比田勝港へ向け、主機を回転数毎分1,900の全速力前進にかけて航行中、主軸受及びクランクピン軸受が焼損するとともに、清水タンクの水量が不足して清水温度が上昇し始め、05時45分三島灯台から真方位058度12.8海里の地点において、主機警報盤の清水温度上昇警報装置が作動した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
O船長は、操舵室で操船中、主機の異状に気付いて停止し、機関室へ赴いて熱気の立ちこめていることを認め、清水タンクを点検して水量の減少と同タンク内壁に油の付着していることを発見し、冷却後、清水補給の措置をとった。
海宝丸は、低速力で自力航行して芦ケ浦漁港に帰港し、主機を開放した結果、複数の主軸受及びクランクピン軸受並びに過給機軸受に焼損を、クランク軸にかき傷を、1番シリンダライナ下部に破孔などをそれぞれ生じていることが判明し、のちそれらの損傷部が取り替えられた。
(原因)
本件機関損傷は、主機付冷却清水タンクの水量が減少するようになった際、冷却清水の漏洩箇所の点検が不十分で、シリンダライナの浸食破孔部から清水がクランク室下オイルパンの潤滑油に混入し、潤滑油の性状が劣化したまま運転が続けられ、軸受各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
よって主文のとおり裁決する。