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平成13年広審第90号
件名

漁船第十八栄正丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年3月13日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:第十八栄正丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
クランク軸及び軸受類などが損傷

原因
主機潤滑油圧力の監視不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、操舵室計器盤による主機潤滑油圧力の監視が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月22日18時00分
 島根県恵曇漁港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八栄正丸
総トン数 14.90トン
登録長 16.50メートル
機関の種類 2サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 194キロワット(定格)
回転数 毎分2,170(定格)

3 事実の経過
 第十八栄正丸(以下「栄正丸」という。)は、昭和49年12月に進水した、5隻からなる中型まき網船団に所属するFRP製運搬船兼灯船で、主機として、アメリカ合衆国ゼネラルモーターズ社製のGM8V−71N型と称する間接冷却式の逆転減速機付V型ディーゼル機関を装備し、各シリンダには船首側から右舷列及び左舷列とも1番から4番の順番号が付されていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だめから、直結の潤滑油ポンプにより吸引加圧された潤滑油が、こし器及び油冷却器を順に経て入口主管に至り、同主管から分岐して各軸受及び動弁装置などに注油されて再び油だめに戻る経路となっており、通常運転中、同主管の船首側に取り付けられた圧力調整弁で2.8ないし4.2キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧されるようになっていた、
 また、主機の計器盤は、操舵室のみに設けられており、遠隔操縦レバー右舷側に取り付けられた同盤には、回転計、潤滑油圧力計、冷却清水温度計及び排気温度計などのほか、警報装置が組み込まれ、入口主管の潤滑油圧力が、0.7キロに低下すると油圧低下警報装置が作動し、操舵室でブザーが鳴るようになっていた。
 A受審人は、平成9年5月に有限会社栄正丸に入社し、一括公認を受けて船長として船団の各船に乗船したのち、同12年5月初めから栄正丸に甲板員1人とともに乗り組み、機関の運転管理にも携わり、島根県恵曇漁港を基地として同県沖合でのいわゆる日帰り操業に従事していた。
 ところで、主機は、潤滑油圧力の過昇を防止する目的で、クランク室内の直結ポンプ出口管に、弁箱に組み込まれたコイルばねがピストン弁を弁座に押し付ける構造の圧力逃がし弁を設け、同油圧力が何らかの原因で7キロに達すると、同ばねの張力以上になってピストン弁が開き、潤滑油の一部を油だめに戻すようになっていたところ、経年により、コイルばねのへたりで弾力が弱くなり、圧力逃がし弁の開弁圧力が次第に低下する状況となっていた。
 一方、A受審人は、機関の運転に当たって、発航時に潤滑油量及び冷却清水量を点検したうえ、機関室で主機を始動するとともに、警報装置の作動を確認し、航海中は甲板員に時々機関室内を見回らせるようにしていたが、潤滑油量や冷却清水量にも大きな変化がなく、外観上主機の運転状態に格別の異常を感じなかったので問題ないものと思い、運転中、計器盤上の潤滑油圧力計の示度を十分に監視しなかったので、同油圧力逃がし弁の開弁圧力の大幅な低下によって、同油圧力が警報点に至らないまでも異常に低下してきたことに気付かなかった。
 こうして、栄正丸は、潤滑油圧力の異常低下によって各部が潤滑不良をきたすまま主機の運転が続けられ、シリンダ内での燃焼ガスの吹抜け、軸受類の異常摩耗などを生ずるようになり、同年6月22日18時00分恵曇港南防波堤灯台から真方位032度400メートルの地点において岸壁係留中、出漁のためA受審人が主機を始動したところ、主機の左舷列船尾付近から異音を発した。
 当時、天候は曇で風はなく、港内は穏やかであった。
 A受審人は、主機の異音が鎮まらないので、事態を船団の漁労長に通報して出漁を取り止め、機関整備業者に修理を依頼した。
 栄正丸は、機関整備業者により主機を陸揚げして開放調査された結果、両舷列2ないし4番シリンダのピストン及びシリンダライナにかき傷や焼付きを生じたほか、クランク軸及び軸受類などが損傷していることが判明し、のち損傷部品の新替えや同軸の研磨を行って修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、操舵室計器盤による主機潤滑油圧力の監視が不十分で、同油圧力逃がし弁の作動不良によって同油圧力が異常に低下するまま運転が続けられ、各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、操舵室で主機の運転に当たる場合、潤滑油圧力が低下して各部の潤滑が阻害されることのないよう、計器盤上の潤滑油圧力計の示度を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、潤滑油量や冷却清水量にも大きな変化がなく、外観上主機の運転状態に格別の異常を感じなかったので問題ないものと思い、計器盤上の潤滑油圧力計の示度を十分に監視しなかった職務上の過失により、潤滑油圧力逃がし弁の作動不良によって同油圧力が異常に低下するまま運転を続け、両舷列の2ないし4番シリンダのピストン及びシリンダライナ、クランク軸及び軸受類などを損傷させるに至った。





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