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平成13年神審第55号
件名

漁船第八住吉丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年3月13日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、阿部能正、西田克史)

理事官
杉?忠志

受審人
A 職名:第八住吉丸機関長 海技免状:六級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
ブロワインペラが割損、ブロワ側料軸受並びにロータ軸等に損傷

原因
主機排気ガスタービン過給機のサージング回避の措置不十分

主文

 本件機関損傷は、主機排気ガスタービン過給機のサージング回避の措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月29日15時30分
 石川県猿山岬北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八住吉丸
総トン数 31トン
全長 26.12メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 404キロワット
回転数 毎分1,200

3 事実の経過
 第八住吉丸(以下「住吉丸」という。)は、昭和58年5月に進水した沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、久保田鉄工株式会社製のM6D17BUCS型ディーゼル機関を主機として装備し、主機の船尾側架構上に、石川島汎用機械株式会社が製造したVTR−160型と呼称する軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を付設し、船橋から主機及び逆転減速機(以下「クラッチ」という。)の遠隔操作ができるようになっていた。
 過給機は、タービン車室、渦巻室及び軸流タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸などで構成され、ロータ軸が、タービン側軸受室の単列玉軸受とブロワ側軸受室の複列玉軸受とによって支持されていて、各玉軸受には、軸受室内の油だめに入れられた潤滑油が、ロータ軸の軸端に取り付けられたポンプ円板によって給油されるようになっており、主機の排気ガスがタービン動翼に作用してロータ軸が回転する一方、同軸のブロワ側に取り付けられたブロワインペラによって空気吸込囲から吸引した空気を、同インペラで加速し、出口導翼で速度エネルギーを圧力エネルギーに変換したのち、渦巻室から空気冷却器を経て主機の各シリンダに供給するようになっていた。
 また、過給機は、主機の回転数が急激に低下した場合などには、遠心式ブロワに甚だしい音響と異常振動とを伴うサージングと称する現象が発生することがあり、サージングが頻繁に繰り返されると、機能が低下するばかりでなく、異常振動の影響を受けて、応力が集中しやすいブロワインペラの羽根の空気入口部付根付近に亀裂が生じたり、玉軸受が損傷するなど、各部に種々の不具合が生じるおそれがあった。
 住吉丸は、石川県福浦港を基地として、同県能登半島北西方沖合の漁場で1航海が2ないし3日間の操業を周年にわたって繰り返しており、いわゆるかけ回し式の漁法を採用していたこともあって、主機の回転数を頻繁に上下させるとともに、クラッチを種々操作しながら操業を行っていた。
 A受審人は、平成9年7月から機関長として乗り組み、毎年の7月か8月の出漁回数の少ないときに、主機のピストン抜き、吸・排気弁の整備、空気冷却器の掃除及び過給機の開放・整備を行い、その後は、燃料噴射弁を半年ごとに整備し、過給機については、各軸受室の潤滑油の取替え及びエアフィルタの洗浄を1箇月ごとに行いながら、主機を月間450時間ほど運転して操業に従事していた。
 ところで、A受審人は、1航海の操業で20ないし30回ほど行うクラッチの切替え時など、操業中の主機回転数の急激な低下時に、過給機にサージングが発生するのを認めていたが、操業中に主機の回転数を上下させるのは止むを得ないと考えていたうえ、通常航行中にはサージングがほとんど発生していなかったので、特に問題はあるまいと思い、急激に主機の回転数を低下させないよう操船者に要請するなど、サージング回避の措置を十分に行わなかった。
 更に、A受審人は、同12年4月中旬ごろから過給機のサージング発生回数が増加しているのを認めていたが、機関各部の汚れが増大したためで、あと2箇月もすると過給機を開放・整備するのでそれまでは仕方がないと考え、依然、操船者にサージング回避の措置を要請しないまま主機の運転を続けていた。
 こうして、住吉丸は、過給機にサージングが発生するまま操業を繰り返しているうち、過給機のブロワインペラがサージングで発生した異常振動の影響を受け、いつしか、同インペラの応力集中部分に微細な亀裂が発生し、同亀裂が疲労亀裂に進展する状況となっていた。
 住吉丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首1.7メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同年5月28日23時00分福浦港を発して翌29日01時30分ごろ石川県猿山岬北西方沖合の漁場に至り、過給機にサージングが頻繁に発生する状況で操業を繰り返していたところ、過給機のブロワインペラに生じていた亀裂が進行し、主機を回転数毎分1,000にかけて移動中、同インペラが割損してバランスが崩れたロータ軸が振れ回り、同日15時30分猿山岬灯台から真方位305度8.4海里の地点において、過給機が異音を発すると同時に主機の回転数が急激に低下した。
 当時、天候は晴で風力4の南南西風が吹き、海上には白波があった。
 船首甲板で魚の選別作業に従事していたA受審人は、機関室から異音がするとともに煙突の煙が著しく黒変しているのを認めたので、直ちに機関室に急行して主機を停止し、給気圧力が零になっていたことなどから主機の運転は不可能と判断し、事態を船長に報告した。
 住吉丸は、来援した僚船に曳航されて19時ごろ福浦港に引き付けられ、修理業者が過給機を精査した結果、ブロワインペラが割損していたほか、渦巻室、タービン側及びブロワ側両軸受並びにロータ軸等に損傷が判明したので、のち過給機を新替えする修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、主機過給機の運転管理に当たり、サージング回避の措置が不十分で、ブロワインペラの応力集中部分に亀裂が生じ、過給機の運転中に同インペラが割損したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機過給機の運転管理に当たり、操業中のクラッチの切替え時など、主機回転数の急激な低下時にサージングが発生するのを認めた場合、サージングを繰り返していると、ブロワインペラに亀裂が生じたり玉軸受が損傷するなど、過給機各部に種々の不具合が生じるおそれがあったから、急激に主機の回転数を低下させないよう操船者に要請するなど、サージング回避の措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同人は、通常航行中にはサージングがほとんど発生していなかったので、特に問題はあるまいと思い、サージング回避の措置を十分にとらなかった職務上の過失により、ブロワインペラに亀裂を生じ、過給機の運転中に同インペラが割損してロータ軸が振れ回る事態を招き、ブロワインペラのほか、渦巻室、タービン側及びブロワ側両軸受並びにロータ軸等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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