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平成13年長審第61号
件名

漁船第八章徳丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年2月19日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(河本和夫、平田照彦、亀井龍雄)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第八章徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第八章徳丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
作動油管の亀裂部が破断、作動油圧力の低下でクラッチ摩擦板の焼損、主軸受及びクランク軸が焼損

原因
主機警報装置の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機警報装置の整備が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月19日08時30分
 長崎県五島列島奈留島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八章徳丸
総トン数 19トン
登録長 17.92メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 441キロワット
回転数 毎分1,350

3 事実の経過
 第八章徳丸は、平成元年7月に進水した、中型まき網漁業の漁獲物運搬に従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社製の湿式多板油圧式逆転減速機付8LAS−UT型機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置及び危急停止装置を備えていた。
 逆転減速機の潤滑油系統は、主機潤滑油系統とは独立しており、ケーシング底部が油だまりとなっていて潤滑油が約17リットル入れられており、直結の潤滑油ポンプで吸引・加圧され、クラッチ油圧調整弁で18ないし21キログラム毎平方センチメートル(以下、「キロ」という。)に調圧されて作動油としてクラッチに供給され、一部はさらに油圧調整弁を経て軸受潤滑油として各軸受に供給され、それぞれ油だまりに戻って循環し、軸受潤滑油の圧力が0.6キロ以下に低下すると警報装置が作動するようになっていた。
 ところで、逆転減速機の計器は、機関室の主機計器板に作動油圧力計があるのみで、同圧力計への配管は、クラッチの前後進切替え弁から直径6ミリメートル厚さ1ミリメートルの銅管で、同切替え弁取出し部から機関室後部隔壁までの約50センチメートルの間が主機運転中に共振し、同切替え弁の接続部に亀裂(きれつ)が生じるおそれがあったが、同部は日常点検が困難な通路敷板の下に位置していた。
 A受審人は、平成5年10月船長として乗り組み、機関の取扱いについては前任機関員に全てを任せ、同10年11月中間検査で主機が良好であることが確認され、同12年1月ピストン抜きなどの開放整備が施行された後、いつしか始動・停止時に警報装置が作動しなくなったが、警報装置の整備を会社に依頼することなく、同13年1月B受審人が、前任機関員の交代として乗組み後は、同人に機関部の全てを任せた。
 B受審人は、会社から機関部を担当するように指示されて乗り組み、A受審人からも同指示を受けて主機を取り扱ったところ、停止時に警報装置が作動しないことを認めたが、同装置の整備を会社に依頼するようA受審人に報告することなく、主機の取扱いを続けた。
 B受審人は、同年3月逆転減速機の潤滑油の取替えを行い、同油量の点検を日常行っていたものの、敷板下の作動油管が共振していることに気付かず、その後、いつしか同管に亀裂が生じて進展したが、同亀裂からの漏油は微量であったので日常の油量点検では判別できず、同年4月18日出漁前の同油量点検でも油量減少を認めることができなかった。
 第八章徳丸は、A及びB両受審人ほか2人が乗り組み、船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水で、同日16時長崎県奈留島港を発し、同県福江島北方沖合の漁場で操業に従事し、翌19日05時漁獲物を積み込みのうえ、漁場を発して同県三重式見港に向かい、回転数をほぼ全速力の毎分約1,300として航行中、前示作動油管の亀裂部が破断して潤滑油が噴出し、作動油圧力の低下でクラッチ摩擦板の焼損に続いてクラッチの離脱により、急に無負荷状態となって瞬時回転数が約20パーセント上昇し、次に軸受潤滑油圧力が低下したが警報装置が作動せず、潤滑油がほぼ全量流出して逆転減速機の各軸受が焼き付き、主機の主軸受に過大な負荷がかかって主軸受及びクランク軸が焼損し、08時30分五島棹埼灯台から真方位094度12海里の地点において、異状振動した。
 当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 船橋当直中のB受審人は、異状振動で主機の異状に気付き、船橋で危急停止せずに機関室に赴き、機側停止ハンドルを操作して主機を停止した。
 主機損傷の結果、航行不能となり、付近を航行中の漁船にえい航されて奈留島港に引き付けられ、のち主機が換装された。

(原因の考察)
 主機の燃料ポンプは一体型で、運転中1シリンダでもプランジャーが固着すると全シリンダのプランジャーの動きが拘束され、この状態で急に無負荷になると、固着位置での燃料噴射量によっては過回転が生じる可能性があり、この場合、過速度防止装置が作動しても燃料噴射ゼロ位置まで戻ることができずに主機が停止しないこととなる。そして、
 (1) B受審人に対する質問調書中、「本件発生時船速が落ちると同時に激しい振動とともに急回転を起こした。」旨の供述記載
 (2) 漁船保険保険金支払請求書写に添付のM重工九州販売株式会社長崎支店が作成した燃料ポンプ点検結果中、「4番プランジャーの固着を確認。それ以外固着はない。」旨の記載から、過回転が生じ、よって主機主軸受及びクランク軸が焼損したとする見解があるので、このことについて検討する。

1 B受審人に対する質問調書中、「異常発生ですぐに機関室に行き、機側の停止ハンドルで主機を停止した。」旨の供述記載から、燃料ポンプ4番プランジャーの固着があれば機側の停止ハンドルで主機を停止、すなわち燃料ポンプのプランジャーを 燃料噴射ゼロ位置にすることはできないことから、燃料ポンプ4番プランジャーの固着は主機停止時に燃料噴射ゼロ位置付近で生じたものとするのが妥当である。
2 平成10年11月中間検査後本件直前まで主機は正常に運転されており、調速機、過速度防止装置、燃料制御装置などに異状が生じたとする証拠はない。
3 調速機が正常であっても運転中急に無負荷になると、回転数が瞬時連続最大回転数の120パーセントまで上昇する可能性があるが、このことは機関の試験項目で確認されるもので、軸受の焼付きに至ることはない。この瞬時の回転数上昇を急回転が生じたと供述したものと推定される。
 以上から、回転数が瞬時約20パーセント上昇したものの、過回転は生じていなかったとするのが相当である。

(原因)
 本件機関損傷は、主機警報装置の作動不良が認められた際、同警報装置の整備が不十分で、主機運転中、逆転減速機作動油圧力計配管が破断して潤滑油が噴出し、同機軸受潤滑油圧力が低下したが同警報装置が作動せず、そのまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 主機警報装置の整備が不十分であったのは、船長が同装置を整備するよう会社に依頼しなかったことと、機関の取扱いを任せられていた甲板員が同装置の整備を会社に依頼するよう船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、主機の始動・停止時に警報装置が作動しないのを認めた場合、運転中異常状態が生じても気付かないおそれがあるから、同装置を整備するよう会社に依頼すべき注意義務があった。ところが、同人は、同装置を整備するよう会社に依頼しなかった職務上の過失により、逆転減速機のクラッチ摩擦板及び各軸受焼損、主機の主軸受及びクランク軸焼損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人が、A受審人から主機の取扱いを任せられ、主機の始動・停止時警報装置が作動しないのを認めた場合、同装置の整備を会社に依頼するよう船長に報告すべき注意義務があった。ところが、同人は、同装置の整備を会社に依頼するよう船長に報告しなかった職務上の過失により、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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