(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月24日23時30分
島根県隠岐諸島沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十三宝来丸 |
総トン数 |
12トン |
登録長 |
14.65メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット(定格出力) |
回転数 |
毎分1,850(定格回転数) |
3 事実の経過
第二十三宝来丸(以下「宝来丸」という。)は、平成1年10月に進水したFRP製漁船で、中型まき網漁業船団所属の灯船として、通年にわたり隠岐諸島周辺での操業に従事しており、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が同年に製造した6LAH−ST型ディーゼル機関を装備し、年間運転時間は2,000時間余りであった。
主機は、船首側から順に1番から6番までのシリンダ番号を付け、シリンダヘッドの右舷側に排気マニホルド及び空冷式の排ガスタービン過給機を、左舷側に給気マニホルドと一体となった海水冷却式の空気冷却器をそれぞれ配置し、過給機から送り出された高温の給気が、空気冷却器の上部から入って冷却されたのち、同冷却器下部に結合した給気出口マニホルドから各シリンダに送られるようになっており、同マニホルドの船首側と船尾側とにそれぞれドレンコックが設けられていた。
ところで、空気冷却器は、亜鉛めっきの施された鋳鋼製の縦長ケーシング内にプレートフィンの付いた多数の冷却管を内蔵し、冷却管の振動や湾曲を防止する目的で鉄製の振れ止め板が3箇所に取り付けられているもので、高温の給気を冷却する際に水蒸気が凝縮してドレンが発生するほか、水分の付着によって振れ止め板などの鉄製部が腐食することがあり、空気側下部や給気出口マニホルドに滞留したドレンや鉄さびなどの異物を吸い込んで機関内部が損傷するおそれがあったから、ドレンコックからのドレン抜きを励行するとともに、定期的に空気側の洗浄や開放整備を行う必要があった。
A受審人は、昭和50年ごろから機関員や船長として漁船に乗船したのち、平成6年8月から宝来丸の船長として乗り組み、主機の運転と保守にも当たることになり、過給機及び空気冷却器付きのディーゼル機関を取り扱うのは初めてで、取扱説明書なども備えられていなかったが、それまでの無過給機関と同様に取り扱っても問題あるまいと思い、空気冷却器の取扱いについて前任者や取扱い経験者などに助言を求めるなどして、ドレン抜きを行うことも、定期的に開放整備することもなく運転を続けたので、同器の鉄製部が著しく腐食してきたことに気付かなかった。
そして、空気冷却器は、振れ止め板の腐食膨張の影響を受けて冷却管にも破孔を生じ、海水の漏洩も加わってさらに腐食が進行し、同板からさびが剥離して給気出口マニホルドに落下、滞留する状況となった。
こうして、宝来丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、同12年5月24日17時30分僚船とともに島根県浦郷漁港を発し、主機の回転数を毎分1,600ばかりにして魚群探索中、空気冷却器や給気出口マニホルドに滞留した鉄さびなどの異物が多量に主機シリンダ内に侵入するようになり、23時30分知々井岬灯台から真方位140度4海里の地点において、6番シリンダのピストンとシリンダライナに焼付きを生じて主機の回転数が低下した。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、海上はやや波があった。
操船に当たっていたA受審人は、主機が回転数の低下をきたしたのみならず、異音を発していることを認め、船団の漁労長に事態を伝えて操業を断念し、修理のため、低速で鳥取県境港に向かった。
宝来丸は、自力で境港に入港したのち、整備業者による主機の開放点検が行われた結果、前示損傷のほか、全シリンダのシリンダライナにかき傷を生じ、鉄粉を吸引した直結潤滑油ポンプが損傷していることなどが判明し、空気冷却器を含む損傷部品を全て新替えして修理された。
(原因)
本件機関損傷は、主機空気冷却器の取扱いが不適切で、同冷却器空気側の鉄製部に水分付着による腐食が著しく進行し、操業中、主機シリンダ内に鉄さびなどの異物が多量に侵入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転と保守に当たる場合、過給機及び空気冷却器付きのディーゼル機関を取り扱うのは初めてであったから、空気冷却器や給気出口マニホルドにドレンや鉄さびなどの異物を滞留させることのないよう、前任者や取扱い経験者などに助言を求めるなどして、ドレン抜きを励行したうえ定期的な開放整備を行うなど、空気冷却器を適切に取り扱うべき注意義務があった。ところが、同人は、それまでの無過給機関と同様に取り扱っても問題あるまいと思い、空気冷却器を適切に取り扱わなかった職務上の過失により、同冷却器の鉄製部が著しく腐食するまま運転を続け、鉄さびなどの異物が多量に主機シリンダ内に侵入してピストンとシリンダライナの焼付きを招き、全数のシリンダライナ及び空気冷却器等を損傷させるに至った。