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平成13年長審第59号
件名

漁船第18値賀漁丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年1月23日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(河本和夫、亀井龍雄、平野浩三)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第18値賀漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
全シリンダのピストン及びシリンダライナにかき傷

原因
清水冷却器及び冷却海水ポンプの整備不十分

主文

 本件機関損傷は、清水冷却器及び冷却海水ポンプの整備が不十分で、主機が過熱したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月19日14時15分
 長崎県相浦港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第18値賀漁丸
総トン数 19トン
全長 22.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・V形ディーゼル機関
出力 419キロワット(定格)
回転数 毎分1,800

3 事実の経過
 第18値賀漁丸は、昭和62年10月に進水した、長崎県小値賀港から同県相浦港への鮮魚及び漁獲物の運搬に従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した8LAS−UT型機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置、警報装置及び冷却清水温度などの計器盤を備えていた。
 主機は、年間の運転時間が約1,200時間で、平成6年10月に各熱交換器の掃除も含めた開放整備の後、同11年7月各熱交換器の掃除が施行された。
 主機のピストンは、アルミ合金製で、潤滑油主管から分岐してピストン冷却ノズルから噴射される潤滑油によって冷却されるものであった。
 主機の冷却海水系統は、冷却海水ポンプによってシーチェストから吸引加圧された海水が、潤滑油冷却器、空気冷却器、清水冷却器を順次冷却した後船外に排出されるもので、同ポンプのゴムインペラは、2,500時間運転ごとまたは1年ごとに取り替えるように取扱説明書に記載されていた。
 主機の冷却清水系統は、膨張タンク付きの清水冷却器から清水ポンプによって吸引加圧された清水が、シリンダブロック、シリンダヘッド、排気マニホールドを順に冷却したのち温調弁にて清水冷却器と清水ポンプに分岐して循環し、排気マニホールド出口温度が80ないし85度(摂氏、以下同じ。)に調整され、85度が許容限度と取扱説明書に記載されており、95度で冷却清水温度上昇警報が作動するようになっていた。
 A受審人は、平成10年7月甲板員として乗り組んで主機の取扱いにもあたり、同13年4月4日船長に昇進後機関部の責任者を兼ねていたものであるが、乗船以来冷却海水ポンプのゴムインペラを取り替えたことがなかった。
 主機の清水冷却器は、前回の掃除後、海水側がスケールや生物などによる汚損及び閉塞が徐々に進行するとともに、冷却海水ポンプゴムインペラの破損による海水流量の低下も加わり、冷却能力が徐々に低下してその余裕分がなくなり、冷却清水温度が徐々に上昇するようになった。
 A受審人は、それまで83ないし85度であった冷却清水が同年3月中旬から徐々に上昇し、4月中旬には90度近くまで上昇し、清水冷却器の整備が必要となったことを認めたが、同月下旬の休漁時期まで同整備を延期しても大丈夫と思い、清水冷却器を整備することなく、第18値賀漁丸の運航を続けた。
 こうして第18値賀漁丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、鮮魚若干と箱詰の漁獲物約2トンを積み、船首1.3メートル船尾3.9メートルの喫水で、同年4月19日12時15分小値賀港を発して相浦港に向かい、回転数をほぼ全速力の毎分約1,780(以下、回転数は毎分のものとする。)とし、約10ノットで進行中、14時15分下枯木島灯台から真方位157度3海里の地点において、冷却清水温度上昇警報が作動するとともにピストンが過熱膨張してシリンダライナと接触し、ミスト抜きパイプから白煙が出始めた。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、冷却清水温度が100度以上になっていたので直ちに回転数を約1,500まで下げて様子を見るうち、警報ブザーは停止したが白煙の量が多くなったので、14時35分ごろさらに回転数を約1,000まで下げ、同回転数のまま15時30分入港着岸した。
 着岸後主機を開放して精査の結果、全シリンダのピストン及びシリンダライナにかき傷を認めたが、のち修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機運転中の冷却清水温度が徐々に上昇するようになり、許容限度を超えたのを認めた際、清水冷却器及び冷却海水ポンプの整備が不十分で、そのまま運転が続けられ、ピストンが過熱膨張したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、主機運転中の冷却清水温度が徐々に上昇するようになり、許容限度を超えたのを認めた場合、同現象は清水冷却器の冷却能力の余裕分が無くなったことを示すものであるから、そのまま運転を続けて主機が過熱することのないよう、清水冷却器及び冷却海水ポンプを整備すべき注意義務があった。ところが、同人は、次の休漁時期まで同整備を延期しても大丈夫と思い、清水冷却器及び冷却海水ポンプを整備せずに主機の運転を続けた職務上の過失により、ピストンの過熱膨張を招き、全ピストン及びシリンダライナにかき傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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